フレンチ女子に愛された人気歌手 『最後のマイ・ウェイ』
『マイ・ウェイ』、フランク・シナトラの歌うこの曲は、誰もが知る名曲だけれど、実はフランス人のアイドル歌手が作った曲だったとは、ほぼ知られていないんじゃないか。いや、私も知らなかったんですけどね。
世界デビューする直前に事故で死んでしまったものの、フランス国内では押しも押されもせぬ大スター。特に女子にアイドル的人気を博した歌手の、一生を描いた作品。
私の感想は一言で言うなら、「ミュージシャンがレコードをバンバン売って稼げた古き良き時代の、勝ち逃げスターの幸せな一生」というところ。映画ではそれこそ、彼の内心の苦悩や孤独を描いてはいるものの、人間の孤独という点で言うなら、あの位の孤独は普通かもしれない。ミュージシャンやアーティストなら、もっと壮絶なコンプレックスを持っている人はいくらでもいるもの。
作品自体は分かりやすく、内容も楽しめるもの。退屈はせず、とても効率良くまとまっていると思う。
クロフォード・フランソワ、通称クロクロは、出身はいわゆる中流家庭の良家の子息。フランスからモナコに渡って成功したお金持ちの家に生まれ、途中国が変わり財産を没収されるも、その機に父親から独立。継がなければいけなかった家の事業が無くなったおかげで、父親の呪縛から逃れ、彼自身が好きなことをやれるキッカケになったとも言える。彼は父親を生涯慕い、心のどこかでその影を追い求めた様子。父親とは和解出来ず、心のわだかまりを残したまま先立たれてしまう。
クロクロの良さは、そんなボンボンである彼の、人の良さが滲む笑顔。売れる前から女子から人気があって、生涯人に愛され続けた人なんだなあ。ワガママな点や嫉妬深さ、神経質等の欠点はあったかもしれないけれど、常に女は切らさず。しかもフレンチロリータの代名詞、フランス・ギャルの恋人でもあったなんて!フランス・ギャルがセルジュ・ゲンズブールの作曲の『恋するシャンソン人形』を歌った時代だなんて。一番有名な時期じゃないですか!そんな美味しい時代のフランス・ギャルをこっぴどく振ってしまう、情熱家であるように見えても、どこか冷淡な部分もある人だったのかも。
シナトラのような本格的歌手にはなれない、所詮アイドルだと自覚しながらも、レコードレーベルは自らのものを立ち上げ独立。日本のアイドル業界だと、たとえば田原俊彦がやったように、そんな生意気な歌手はこっぴどく業界から無視されることもあるだろうに、クロクロの場合は上手くやってのける。さらに、作詞や作曲も携わる、実はマルチな才能を持っていた人。当時のオーティス・レディングに影響を受けたり。しかもクロクロの曲って、フランスのシャンソン的な薄い音作りのアイドル的楽曲とはちょっと違うんですよね。音に厚みがあって、当時のソウルやブラック・ミュージックに影響を受けた、派手ではあるけれど本格的なサウンド。さらに、振り付けだって自分でこなしちゃうわ、ダンスで座って開脚して見せるなどのショーマンシップもある、実は何でもこなしちゃう人。
若作りのために最大限の注意を払ったり、自己管理能力に長けていて、ビジネスの才もあるんですよね。レコードレーベルのみならず雑誌を買収して経営し始め、自分で写真も撮ったりも。と言っても会社自体は晩年は借金があったようだけれど。私は、あの優しげな笑顔を見ていて、思わず高見沢俊彦を思い出していました。若作りして少し化粧が浮いた笑顔なんて、ソックリじゃないですか?!私だけ?あと、お母さんはミヤコ蝶々にソックリだったー。
クロクロを演じたのが、なんとジェレミー・レニエなんですよね!他の役で見るのとまるで違う姿には驚いてしまった!しかも、クロフォード・フランソワ本人の写真と比べても、すごく似てる、自然に似てる。特に、人の良さそうな笑顔がソックリで、改めて凄いなあと感心してしまった。ジェレミー・レニエってあんな顔してたっけ?っていうぐらい、イメージが違う。
一つこの作品で難を言うなら、何故今、彼を描くんだろう?というところ。この点だけが分からなかったかな。
あと、フランス語を一つ覚えました(笑)「カンダビチュード」。“いつものように”。
余談ですが、タランティーノ『デス・プルーフ』の主題歌、April Marchの『chic Habit』って、セルジュ・ゲンズブール作のフランス・ギャルの歌が先だったのね〜!知らなかったので、驚いたわん。
France Gall 『Lasse Tomber Les Filles』
こちらは、デス・プルーフの主題歌の方。April Marchの『Chic Habit』
「フランス・ギャル」って名前も相当すごい名前だなーなんて思ってたけど、リメイクの方のエイプリル・マーチ(4月3月)も負けてないわな(笑)
それから、これももちろん載せておかなくちゃね。
クロード・フランソワ『Comme d’habitude』(カンダビチュードw)
’12年、フランス
原題:Cloclo
監督:フローラン=エミリオ・シリ
製作:シリル・コルボー=ジュスタン、ジャン=バティスト・デュポン
脚本:ジュリアン・ラプノー、フローラン=エミリオ・シリ
撮影:ジョバンニ・フィオーレ・コルテラーチ
音楽:アレクサンドル・デプラ
キャスト:ジェレミー・レニエ(クロード・フランソワ)、ブノワ・マジメル(ポール・ルデルマン)、マルク・バルベ(エメ・フランソワ)、モニカ・スカッティーニ(ショウファ・フランソワ)、ジョセフィーヌ・ジャピ(フランス・ギャル)、ロバート・ネッパー(フランク・シナトラ)、モード・ジュレ(ジャネット)、サブリナ・セブク(ジョゼット・フランソワ)他
2013/07/28 | :ドキュメンタリー・実在人物, :音楽・ミュージカル・ダンス ジェレミー・レニエ, フローラン=エミリオ・シリ
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コメント(11件)
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面白いレビューだぜ!観たくなった。
すたさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
わーい。見てみて欲しいなり〜^^*
ジェレミー・レニエがマジすごいの!
やーっと書きました。半月経ってる(苦笑)
困ったちゃんなスターだけど、何故か周りが放っておかない。そんなキャラクターに生まれついた人が歩む人生そのものなんですよね。選ばれた人、とでも言ったらいいのかな。
映画ってそんな人の人生も観れるのがいい所なんだと思います。
rose_chocolatさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
なかなか見ていて面白かったですよね〜。私のTLではこれ結構評判良くて、地味に映画好きさんを魅了しているようです♪
でもこれ書きづらかったですか?なんか、普通に見れば楽しい娯楽映画だったような(笑)
こんちは。
私は観てる最中、日本だったら西條秀樹あたりかなあと思って見てました。ジュリーなんかもそうか。やっぱり年をとってアイドル時代の歌を歌うのはキツイんですよね。
そういった意味では郷ひろみが一番の化け物ですね。資質もクロクロに似てるかもしれない。
ふじき78さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
へー、西城秀樹にジュリーに郷ひろみかぁー。確かにこの辺、私より上の世代に人気かも(笑)
でも、郷ひろみは確かに似合うかもしれませんね。顔立ちの濃さといい…
んー私には高見沢さんなんだけどなーw
『最後のマイ・ウェイ』『スカイラブ』をギンレイホールで観て、観たなあ感爆発とオイオイふじき★★★,★★
『最後のマイ・ウェイ』
五つ星評価で【★★★人間一人分の歴史を観たなあという満足感】
知らん。知らん。クロード・フランソワなんて知らん。
フランスのアイドル歌手(♂) …
「最後のマイ・ウェイ」感想
映画を見終わって、ご本人写真を見たら、ジェレミー・レニエとそっくりで驚きました。
とらねこさん、こんにちは!
インフル、大変でしたね・・・。
これ、見ました(^^)/
確かにちょっと長かった。
でも、面白かったです。
>何故今、彼を描くんだろう?というところ。この点だけが分からなかったかな。
うん、うん。
彼のドキュメンタリー映画として上手くできていたんだけれど、何かこの映画を作るにいたる理由があったのかな?
あ、それと、山場の処は、コムダビチュード comme d’habitude って言ってる様です^^
とらねこさん、訂正です!
インフルじゃなくて、高熱の風邪だったのよね。
ごめんなさい(^^ゞ
latifaさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
ご心配ありがとうございます!今、ニセコに来ているのですが、雪山には行かずアカデミー賞のニュースを、twitterでワクワクと楽しみにしている最中でございます。こんなことなら、自分の家でWOWOWで見たかった…。
これ、ご覧になりましたかー。うん、面白かったですよね〜。結構評判もよくて、去年ベストに入れていらっしゃる方も居たようです。
傑作!というほどではないですけど、長く人々に愛される、可愛らしい作品でしたよね^^
発音を知る時に私が良く使うサイトはこちらなんです。
http://translate.google.co.jp/#fr/ja/comme%E3%80%80d’habitude
ここの左の原語枠の中の、音声マークを押してみてください。ここで発音が知れますよ。
カンダビチュード!