フランス映画祭で見て来ました 『アナタの子供』
痛いところを、何かとグリグリ抉(エグ)られる話ではありました。要は、熱烈に愛し合ったけれども別れてしまった男女が、再会してグダグダと泥沼を深くしていく話。竹を割ったような性格(?)の私に言わせれば、2人共どっちつかずで、見ていて「モギャー!」と発狂しそうにもなったけれど。
この手の話は、何となく覚えがあるような感情が描かれているので、見ていてこちらまで胃が痛くなってくる。再会一度目、元彼に未練があるというよりは恨みが深く、「あなたを忘れたから会う決心がついた」などと言ってみたり。そもそも本気で恨んでいたら、そんな自分の姿など見せたくないだろうに。…などと、すっぱり割り切れないのが人間。
この“再会◯度目”という言葉を二人が心の内で数えていたこと、これには引っかかりを感じたりもする。その後回を重ねる度に、彼らの感情や間に流れるものが形を変えていく。ドワイヨン監督がQ&Aで語ったように、「人間は波打つ存在である」と。主人公の思いはそりゃあ波打って、言ったそばから自身の言葉を裏切り続ける。「あなたにはもう会わない」と言った次の瞬間に、画面が切り替わって二人が会っていたり、ということはよくあることで…。
主人公アヤ(ルー・ドワイヨン)とルイ(サミュエル・ベンシェトリ)、二人の今の彼氏/彼女も、否応なしに巻き込んでいく。彼氏のヴィクトール(マリック・ジディ)も寛容さを示してみたかと思えば、影で奸計を巡らしてみたり。自分は若いから、と余裕を見せていたルイの彼女のガエル(マリリン・フォンテーヌ)は、そのこだわらなさが自分の敗北の原因だと悟り、去っていく。
以下、ネタバレで語ります*****************
いろいろ紆余曲折を経て終わってみれば、3人の物語ではなく、そのバランス力学は最初から傾きがあったのかも。所詮二人の物語で、その痛みを伴った復縁の難しさ、葛藤、苦悩。そんな話だったなあ、と思う。それこそ「二人の裸の男女のところへ、土足で踏み込んで来れるもう一人の男」だなんて。彼が勝利するよね。
この作品のタイトルも『アナタの子供』だけれど、そもそも「アナタの子供が欲しい」と一緒になるはずだったヴィクトールという婚約者の存在。それがこれほど薄かったとはね…。
そして、天使のような愛娘リナ(オルガ・ミシュタン)の存在。彼女が本当に可愛くて、この神経を擦り減らすような泥沼恋愛劇の中でたったひとり、光り輝いているように見えたのでした。
P.S.…それにしても、ルー・ドワイヨンは本当にジェーン・バーキンにそっくり。
’12年、フランス
原題:Un enfant de toi
監督・脚本:ジャック・ドワイヨン
製作:ヨリック・ル・ソー他
撮影:レナート・ベルタ
キャスト:ルー・ドワイヨン(アヤ)、サミュエル・ベンシェトリ(ルー)、マリック・ジディ(ヴィクトール)、オルガ・ミシュタン(リナ)
2013/07/12 | :ラブストーリー ジャック・ドワイヨン, ルー・ドワイヨン
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これね・・・。 私はかなり険しかったです。
淡々と家の中のような会話を見せられているのが辛かったです。しかも尺が長い。
「脚本がほぼない」ことの功罪っていうのかな。それを考えさせられました。
rose_chocolatさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
厳しかったですか。これ、私のTLでは、上半期ベストに上げている人も結構な数居ましたけど、roseさんは駄目ぽでしたか。
ヒロインのアヤが、気持ちがグラグラ揺れる様を見せられる映画でしたから、割とそれに映画自体が振り回されるとも言えますしね。
「アナタの子供」を持つ、という状態になって急に本能的に、「この男よりも他の男の子供が欲しい」と思うものかもしれないな。なんて思いました。