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ブロンクスの桐島! 『ウィ・アンド・アイ』

T0016981pゴンドリーの新作!のはずなのに、冒頭はまるで80年代のスパイク・リーかと思った。ブロンクスに住む高校生たちの、夏休み前最終日の授業が終わり、家に帰るバスを舞台にした1シチュエーション物。たっぷり103分、ほぼずっとバスの中の会話だけで出来上がっている、変わり種。

役名も、出演者達の本名を使って呼ばれ、ブロンクスのNPOであるコミュニティ・センターに集まる実在の高校生たちのインタビューを元に、脚本が書かれたそうだ。見ながらずっと、「この会話、本当にプロが想像力だけで書いたんだろうか?」なんて思っていたのだけれど、彼らの実体験を元に書かれたと知って、なるほどと納得がいく。高校生ならではのリアルな日常にはびこる意地の悪さ、おフザケ、特有のノリ…こうしたものが存分に発揮され、ここに生きる彼らの等身大の感情がビシビシ感じられてくる。まるで、ブロンクス版『桐島、部活やめるってよ』。見えざるヒエラルキーとは違うんだけれども、壮絶ないじられ合いというか、アメリカならではの高校生的な残酷さが感じられる。日本と違ってカラっとしてて、ドライなユーモアがあるので、爽やかではあるんだけどね。何ともタフな場所で生きてるなあ…という驚き、呆れ、眩しい思いの複雑なミックス感を味わった。

急にウィッグを被って現れたテレサは酷い言われよう。まあ、1ヶ月ほどの欠席が続き、休み前の最終日にいきなり現れたと思ったら、金髪のストレートヘアのウィッグを被っていたのだから、ネタにされないはずがない。女王様気取りのワガママ娘、後ろの席を陣取る悪ガキたち、ギターが自慢の男、ほぼずっとイヤホンをしたままの孤高の男。もちろんバスの中なのだから、一般客も混じってくるのだけれど、そうした一般客も構わず弄(いじ)り倒す。癖で口をクチャクチャやるおじさんに向かって、バス車内の高校生たちが皆でガムを噛んで見つめたり。

バスの車内で延々続く彼らの会話は、あまりにアメリカ的過ぎるので、ゴンドリーっぽさをあまり感じずに見たのだけれど。後から考えれば、アメリカの高校生ならではのイキの良さ、弾けるような高校生のポップさに、ゴンドリーのキレのいい編集が相まって、不思議にユニークな映画に成り得ている。

何もかも笑いへ繋げようとする貪欲さ、恐ろしさ。本当にその場しのぎのおフザケで、おそらく本気でやってる訳ではないんだろうな。みんなで居る時(We ウィ)と違い、その場を離れ一人になれば(I アイ)、また彼らは違う顔も見せるのだろう。ラストの辺りでまるで桐島のように、悪ガキの男と孤高の男が初めて会話をする。このシーンが印象深い。

’12年、アメリカ
原題:the We and the I
監督:ミシェル・ゴンドリー
製作:ジョルジュ・ベルマン、ミシェル・ゴンドリー
脚本:ミシェル・ゴンドリー、ポール・プロック、ジェフ・グリムショー
撮影:アレックス・ディセンホフ
キャスト:マイケル・ブロディ(マイケル)、テレサ・リン(テレサ)、レイディーチェン・カラスコ(レイディ・チェン)、レイモンド・デルガド(リトル・レイ)、ジョナサン・オルティス(ジョン)、ジョナサン・ウォーレル(ビッグ・T)、アレックス・バリオス(アレックス)、メーガン・マーフィ(ナオミ)

 

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コメント(3件)

  1. 先日は実に面白かったですねえ。ひょんなきっかけとは言え、誰かとワイワイ観る映画は、おひとりさま映画とはまた違う楽しみがあって。
    これはそんなシチュエーションにピッタリな群像劇でした。

    アメリカの場合は人種問題・移民問題が深刻なので、日本とは比較にならないんですね。単一(といわれている)日本とは違って格差もますます広がってしまっているアメリカだと、もう子どもたちも小学生くらいからその痛みを感じざるを得ないんじゃないかと。
    自分たちは社会のどこら辺に位置するのかわかってしまっているから、そこからどこへ行こうかと考えた時にうまく自分を操縦できない歯痒さもあると思います。
    それでもやっぱり子どもは子どもで、純粋な部分もあるんだなと感じさせる所に、彼らの可能性も見えてきます。だからこそ、人の評価を通じて自分を敢えて知って、頑張ってほしいと思うんですけどね。それが最後のエピソードだと思いました。

  2. rose_chocolatさんへ

    こちらにもありがとうございます〜♪
    ですね!楽しかったですね。3人で映画を見るのってなかなか無いですもんね。リッツ君、いい子でしょう?彼とはもう12年も経つんですよ。彼はまったりしていて自分のペースを絶対崩さなくて、彼らしい個性が面白いんですよ。

    アメリカの格差は確かに広がっていますが、人種の坩堝であるせいか、各個人が内々に感じる同調圧力の息苦しさは無いんですよね。
    だからこそ、ラストのエピソードのように、孤高の存在であった高校生が率直な意見を直にぶつけ、「君はこれまでいつも嫌な奴だったよ。今更仲良く出来ると思うかい?」なんて台詞が出てくるんだと思います。
    roseさんのおっしゃるように、これからいかに自分らしさを発揮できるか、が勝負なんだと思います。
    マイケルも本来はイイ子なんですよね。付き合う相手が悪いだけで。だからWeとしてではなく、Iになった時に態度が変わるし、そもそもIになった時に個性を発揮出来ることを、社会では求められる訳ですから。




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