綺麗に描きすぎが辛い ディザスター感動ドラマ 『インポッシブル』
『永遠の子どもたち』のJ.A.バヨナ監督・製作チームということで、個人的には大注目作品だったんですよね。これ、去年のTIFFで先に公開されていたのだけれど、この作品は人気で、当日券はすでに売り切れ。『永遠の子供たち』は、単にホラーであるだけではなく、悲しいまでに母の力強さが描かれていたり、余韻も楽しめる傑作だった。この作品も、基本的にはディザスター映画でありながらも感動ドラマとして、上手いことまとまってはいると思うのです。
ただね!
一言で言えば「綺麗に描きすぎ」。そのために腑に落ちないモヤモヤ感が、どうしても生じてしまった。
純粋によく出来た感動作だと思う。ディザスター映画としての津波のシーンは本気で怖く、その後の家族がバラバラになった後も、それぞれのプロットを上手に切り替えながら描き、彼らがまた一つになる。娯楽的に盛り上げる手腕も堂に入ったもの。津波シーンは、日本人であれば思わず眉間に皺を寄せたくなるほどで、この映像に関して言えば、いい意味でも悪い意味でもリアリティがあった。
2012年に作られた映画ということで、スマトラ沖地震を描きながらも、実際には何にインスパイアされてこれを作ったかは明白。そう、スマトラ沖地震一つじゃないよね…。これを見る全世界の人には、2011年に起きた東日本大震災の恐怖の津波シーンをありありと思い出すでしょうね。だからこそ日本人にとっては複雑で、目を背けたくなる部分があるのでした。おかげで申し訳ないけど、「インポッシブルの津波描写が圧巻」という一文には、読む度舌打ちしてしまいそう。だってまるで、日本に起こった津波が完全に他人事みたいな言いぐさじゃない。
しかし、本当にキツイのは、津波描写じゃない。なにより、この物語が上手く描きすぎているから。この方が辛いですね。「実際にはこんなに綺麗な感動ドラマじゃないって知ってる」。だからこそ辛い。
津波のシーンは、イーストウッドの『ヒアアフター』のように、起きた時の映像ばかりでなく、後でもう一度、夢の中でどうしても忘れられないシーンとして、巻き戻してまた丁寧に繰り返されるのでした。傷口に塩を塗るかの如く。
で、この二度目の夢の中での津波シーンは、ホラー描写そっくりなのです。音楽なんかはサイコのような不協和音の耳障りなバイオリンの音で不安感を煽る。ここ以外にも、全体的にあちこちで怖いシーンが差し挟まれるのです。さすがJ.A.バヨナとそのチーム、ホラー描写は際立っている。ナオミ・ワッツの姿も遠慮なく恐ろしい様相をするし、津波の後にふと気づくと母の足がパックリ割れているところとか、死体が浮き上がっていたり、これがゾンビ物だったら、この辺で来るよな…という、来ない方がおかしいような一種独特の緊張感溢れる描写だったり。
こんな風に思ってしまうのは自分だけなのかもしれないけれど、私はついつい以下のように思ってしまいました。こんなにホラーの針が振れるなら、いっそこのまま、感動モノへと向かわず潔くホラーへと向かってくれたら、逆に楽だったのに!って。
まあそんな風に思ってしまったのも、まだ東日本大震災の映像が頭から離れないからなのかも。何を動機にこの作品を作りたくなったのか、どうしても聞きたくなってしまう。それとも、ここは普通に感動しておけばいいんでしょうかね?
12年、スペイン、アメリカ
原題:the Impossible
監督:J・A・バヨナ
製作:ベレン・アティエンサ、アルバロ・アウグスティン他
製作総指揮:ハビエル・ウガルテ
脚本:セルヒオ・G・サンチェス
撮影:オスカル・ファウラ
音楽:フェルナンド・ベラスケス
キャスト:ナオミ・ワッツ、ユアン・マクレガー、トム・ホランド、サミュエル・ジョスリン、オークリー・ぺンダーガスト
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>実際にはこんなに綺麗な感動ドラマじゃない
最後の方にトラックが出て来て子どもたちを・・・って場面では、やっとリアルに腹黒い人も登場するのかと思ったら、そうではなかったからよかったけど、実際あの状況で誘拐されたり売られたりした孤児がたくさんいたそうです。
なのでこの「綺麗さ加減」、私も結構疑問なのでした。
とりあえずよかった、けど本当の試練はここから・・・というところで敢えて綺麗な所だけを映画にしたのでしょうね。
rose_chocolatさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
実はユアン・マクレガー好きだったんですね、roseさん。
この人、着実にキャリアを築いていて、全然衰えないのがすごいですよね〜。
あのシーンで売られてしまった孤児がいたなんて…衝撃の実話ですね。
確かに、この物語一つとして取ってみれば、分かりやすく感動の物語なんでしょうね…。
この作品の評判てどうなんでしょうね。