宮台真司×寺脇研のトークショーに行って来ました! 『戦争と一人の女』
宮台真司を生で見るのは実は初めて。ビデオニュース(マル激)の動画なんかでは良く見るけれど、最近結構太ってたのね。お腹まわりにでっぷりとついた贅肉を見て、ちょい心配になりましたよ。あんなに太ったら健康が心配だよ…。そんな宮台氏がトークに登場しただけあって、物凄く内容の濃い面白いものでお得感満載!この日はさぞかし混雑するだろうと思って、本当はテアトル系会員カードを持っていたのに、ネット予約で満額を払ってしまったのでした。本当は、私のパートナーがこの作品に寄附をしているので、試写会で見れたんですけどね。…
この作品のプロデューサーであった寺脇研氏の言葉であるとは言え、「見た後、誰かと話をしたくなる類の作品」と語る言葉には納得。「賛否両論出る映画は、良い映画」とも言っていた。そんな寺脇氏の言いたいことが止めどなく溢れてくるような心理状態やこの作品の裏話と、宮台真司ならではのこの作品の見方など、様々な事柄がバッティングして、彼らの表情を一瞬足りとも見逃せない!面白い経験。
元々、荒井晴彦(「映画芸術」編集長)の脚本が先にあって、その後で数名の監督から立候補のオファーがあった(音楽担当をした青山真治監督を初め)話なども。しかし、プロデューサーである寺脇氏や荒井晴彦らは、彼らの思惑に合致するようなタイプの新人監督を据えたかったのだとか。宮台氏は「富田克也監督であれば、社会派の視点が見られたであろうから、彼が良かった」なんて、ズバリと本音を出してくる。戦争中の極限状況下における、国民感情とは正反対の性愛を描くものとして、大島渚の『愛のコリーダ』の名が出てきたけれど、(若松孝二の『キャタピラー』が出て来ないのが私は不思議だった。)宮台氏からすると、「戦争か性愛か」というテーマを置いておきながら、「性愛」方面へと針が振れるのは正直物足りないという。戦後ならいざ知らず、現在であればもっとそれを社会的な視点から捉えて然るべき、と言う。
坂口安吾の原作では性愛方面へと結論付けるが、この作品では単に安吾の視点に寄り添って描かれている訳ではなく、また別のエピソード、村上淳演じる負傷して帰った帰還兵が犯す連続レイプ殺人が描かれる。このサブプロットとメインプロットが上手く機能していない、この2つのエピソードがどういった意味で繋がるかが明確ではないと不満ポイントとして挙げていた。この宮台氏の指摘は私も賛同する。正直、テーマを熟考していない状態でそのまま仕上がってしまったような、描き切れていない印象を受けてしまう。
『愛のコリーダ』的な、戦争という極限状況に置いて逆に情愛に溺愛する人間たちと、小平義雄的な戦後心神喪失における連続殺人事件、これらが異常なテンションで交錯し、どう繋がるのかが不明なままにラストまで突っ走っていくダイナミズムは、私は好きだった。ピンク映画(脱ぎは足りないけど)とグロシーンもある、エロもグロも兼ね備えていて、なかなかに心を奪う脚本。ただ、いろいろと看過出来ない、評価出来ない部分があった。例えば、主演女優のどうしようもない演技の下手さ。あんなに何もかも棒読みにされたら、せっかくの脚本が台無しじゃないのか?ましてや、永瀬正敏、村上淳が文句なしの素晴らしい演技で魅せるのと正反対。永瀬正敏と二人きりのシーンばかりになる主演女優には、ますますもって不利に働く。差が大きく出てしまい、演出上も大きな不満として残ってしまった。
それから、美術にも大きな不満を感じた。戦時中なのに綺麗な硝子戸。東京のあちこちで空襲が随時行われていた当時とは思えないほど部屋の中が綺麗で、すす汚れなど全く見られない。また、戦後の産婦人科の札が映るが綺麗なレンガ造りの建物で、とても戦後すぐとは思えなかった。こうした細部についてはインディペンデントの映画の出来る限界があるかもしれないけれど、部屋が綺麗過ぎる、という指摘については工夫次第でなんとでもなりそうなもの。
いろいろ文句を言ってしまったけれど、「戦争映画としてありふれた日本映画にしない」という意気込みは重々感じられるので、インディペンデント映画としてとても興味深く歪な、その形が妙に気になる珍品として、面白く美味しくいただいた私でした。
12年、日本
監督:井上淳一
企画・統括プロデューサー:寺脇研
プロデューサー:片嶋一貴
原作:坂口安吾
脚本:荒井晴彦
キャスト:江口のりこ(女)、永瀬正敏(作家)、村上淳(片腕の帰還兵)、柄本明、高尾祥子他
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