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五感いっぱいに感じる世界 『君と歩く世界』

poster『リード・マイ・リップス』に『真夜中のピアニスト』のジャック・オディアール監督。去年の『預言者』は全く知らない間に公開され、瞬く間に終わっていたのでした。ちょっと去年はバタバタしていたからなぁ。

このチラシにこのタイトル。思わずラブストーリーや甘い感動モノを期待してしまう人も多いかもしれない。私は逆に、物語にぶん殴られるような、このヒリヒリした感触がとても気に入ってしまった。恋愛物とはとても思えないような物語運びも好きだ。リアルな人間の心の有様がくっきりと、彼らの輪郭が際立つような荒々しいハードボイルドさがたまらない。

この作品を気に入らなかった人の理由として、アリのダメ男ぶりが挙げられる。まるで獣のように本能のままに生き、冒頭では無一文で住む場所もなく、小さな子供を抱えている。身一つでクラブのガードマンの職につく。クラブのでの喧嘩にも手慣れた態度で暴力でもって制し、次第に闇賭博のボクサーとしてスカウトされる(ほとんど喧嘩ファイト)。キックボクシングの経験もあるアリは、水を得た魚のように生き生きと戦い、勲章みたいに顔に傷をつける。

ステファニーの方だって登場シーンが強烈だ。挑発的な服装でバーに現れ、喧嘩して唇から血を流している。アリが声をかけても不遜な態度を崩さない。彼女はバーで男を挑発をすることが好きだけれども、決して思うようにはさせない勝気な女性で、こうした遊びをこれまで何度もしてきたというのが、見て取れる。負けることを知らないかのように不遜な彼女だが、ある日ショーの最中に事故が起き、意識を取り戻してみれば下半身切断という、悪夢のような悲劇に見舞われてしまう。

本能で生きているような彼ら二人が、愛や友情とかいった「美しい」精神的な結びつきではなく、フィジカルな「セックスフレンド」というドライな関係になる展開は、とても自然な描写で納得がいくものだった。「機能を確かめる」などという切り口で、そうした関係に踏み出していく。私は、何故か感動してしまった。心がポッカリと空いていたはずのステファニーはおそらく、絶望の縁を何度も覗きこんだに違いない。愛という不確かな見えないものではなしに、肉体的な関係というものがずっと、彼女の心を癒したのかもしれない。真面目でお固い考えの持ち主の人には、到底理解が及ばない類のものかもしれないけれど。

アリが闇ボクシングで傷だらけになるその姿を、彼女は目の当たりにしても決して目を離そうとしなかった。痛そうに目を背けることもなかった。彼女自身の身に起こった想像もつかない痛みを思えば、彼が自ら傷だらけになることを厭わないその姿を見て、彼女はどう思ったのだろうか。

圧倒的に画が心に刺さる、極めて印象深い作品だった。身体の痛みが先にあって、心や精神性はその後からくる二人。闇の深さや暗さは彼らの心の中に感じているかもしれないけれど、光や海の青さが本当に眩しく感じる。まるで自分自身の五感に直接働きかけるような作品だった。ただ「目」で見て「心」で感じる物語ではなしに、他の感覚器官にすら働きかけるよう。とても眩しくて、体が喜びに溢れてくる。映画で「身体性」をキリキリと感じることがとても珍しくて、だからこそ私はこの作品を忘れられそうにない。

’12年、フランス・ベルギー
原題:De rouille et d’os
監督:ジャック・オーディアール
原作:クレイグ・デビッドソン
脚本:ジャック・オーディアール、トーマス・ビデガン
撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ
音楽:アレクサンドル・デプラ
キャスト:マリオン・コティヤール(ステファニー)、マティアス・スーナールツ(アリ)アルマン・ベルデュール(サム)、セリーヌ・サレット(ルイーズ)他

 

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コメント(3件)

  1. とらねこさん

    今晩は☆彡
    TB頂いたようですが、おっしゃるように反映されず、、、。
    こちらからのTBは反映されたようです。

    お久しぶりです。お体の方如何ですか?無理なさらずにね。映画はいつでも観れますから!
    GWは特に予定もなくぼんやり過ごしております。映画は昨日「アイアンマン3」を鑑賞
    しました。出来れば連休の合間に観れたらもう1本と思っておりますが、どうなるかはわかりません。

  2. mezzotintさんへ

    おはようございます〜♪コメントありがとうございました。
    あーごめんなさい、やっぱTB反映されていないんですねえ。

    GW、twitterではみんなめいめいに映画見ててすごい!TL見るのが嬉しくてしょうがないです!




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