ハネケっぽくないなんて誰が言ったの?高齢化社会の今、そこにある恐怖 『愛、アムール』
ハネケの評価は『白いリボン』以来、グングン上がって来て驚いてしまう。気がつけば、巨匠の仲間入りをしてる日も近そうだ。…などと始めてみたけれど、ハネケ作品がアカデミー賞の作品賞にノミネートされたり、外国語映画賞を獲ってしまったというこの事に関しては、ハネケの巧妙に隠された意地悪テイストに、まんまと引っかかってしまっただけのように思えてしまう。「みんな騙されやがって」と捻くれた考えをしてしまう私は、単にヒネクレ者なのだろうか?とは言えこの作品自体を否定するつもりはないのだけれど。それでも、感動モノだと信じて涙を流す人は羨ましい。鈍感な人か、よっぽど幸せな人かのどちらかだ。もしくはアメリカ人であるか。彼らはどっちもだからね。
奥さんの望みどおり、「二度と病院には入れない」ために、老いた自分自身で自宅介護をすることに決めるジョルジュ。“老老介護”、現代の家庭にいつ何時起こってもおかしくない家庭の裏側に隠された、誰も語らない日常の悲劇かもしれない。我が国を見返しても、65歳以上の人口が年々増え続けていることは、統計局のホームページを見るまでもない。やってくる未来が恐ろしい…。
まず、『男と女』のジャン=ルイ・トランティニャンと、エマニュエル・リヴァをキャスティングしてこの作品を作っているところからして、もう狙ってる。これはあれですよ、『レボリューショナリー・ロード』でサム・メンデスが、レオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットをキャスティングしたことと狙いは同じ。何かって、壮大な皮肉がここにあるんですよね。あの、「みんなが感動したラブストーリーのその先は…」って話。誰もが感動したあの忘れられない大傑作、『男と女』の主演俳優たちを使ってこの作品を作る。ここに皮肉が無い訳とでも!?
もし自分だったら、と考えながら見る恐怖
もし自分だったら。この映画に出てきた娘のように、何故病院に入れないのかと、疑問を抱いてしまっていたかもしれない。その発言は全く思いやりのない一言のように描かれていたけれども、実際彼女の不安が的中してしまうと言えるし。
私が恐ろしく感じたのは、第一に、自分はおそらくこんな幸せな最期を送ることが出来ないであろうこと。だって、ここまで優しい旦那さんなんて居る?何もかも投げ捨てて自分のために親身になって介護してくれる。下の世話から何から文句も言わず。自宅で死ぬことはおそらく一番幸せな人だと思う。老いた旦那さんが自身の心をすり減らしながら、こんなに愛情に満ちた介護が出来るか?。でも、動けなくなった自分のために自宅を改造したり、何かと物を買い揃えたり、介護士を雇ったりする金も無ければ駄目だ。何より、そうした人の存在が将来自分の隣に居るか?って。
私には、愛情に満ちた描写というよりは、観客に皮肉な目線で投げかけられた底意地の悪い疑問符に思えた。で、またハネケの意地悪に心を砕かれた。
ちなみに、自分の場合、自分が先にボケることを前提として考えているけれど、それは恐ろしいことに、きっとそうなるだろうから。だったりする。…トホホ。昔は役者の名前や監督の名前など、いっぺんに全て覚えられたのに、最近は記憶力がすっかり落ちてしまい、「あの映画なんだっけ、あの、誰が出てる…」みたいな状態。備忘録のためにこのブログを始めたようなものなので…。だから自分がボケるという恐怖も味わわせてもらった。…って、言わせんなよハネケ!馬鹿!ハネケの馬鹿!
ああ、なんだかいろんなことがリアルに怖い描写ばかり。ああ!やっぱりハネケは意地悪だ。全くいつもと一緒じゃないか。
ところで、この先はネタバレですが。
こ
の
先
ネ
タ
バ
レ
*
*
*
ドアにガムテープを貼っている描写、ゾッとしてしまう初めの描写がラストにも効いてくる。鳩も道中連れだなんてね。一家全員道連れ!な、『セブンス・コンティネント』と同じじゃないですか。ほーら、なーにが「ハネケっぽくない」よ。処女作と一緒だっつーの!
2012年、フランス、ドイツ、オーストリア
原題:Amour
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
製作:マルガレート・メネゴス、シュテファン・アルント他
撮影:ダリウス・コンジ
キャスト:ジャン=ルイ・トランティニャン(ジョルジュ)、エマニュエル・リヴァ(アンヌ)、イザベル・ユペール他
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
美容師にハマりストーカーに変身する主婦・常盤貴子 『だれかの木琴』
お気に入りの美容師を探すのって、私にとってはちょっぴり大事なことだった...
記事を読む
-
-
『日本のいちばん長い日』で終戦記念日を迎えた
今年も新文芸坐にて、反戦映画祭に行ってきた。 3年連続。 個人的に、終...
記事を読む
ハネケっぽくないなんて誰が言ったの?高齢化社会の今、そこにある恐怖 『愛、アムール』 http://t.co/bFm6Dlq51r
RT @rezavoircats: ハネケっぽくないなんて誰が言ったの?高齢化社会の今、そこにある恐怖 『愛、アムール』 http://t.co/bFm6Dlq51r
RT @rezavoircats: ハネケっぽくないなんて誰が言ったの?高齢化社会の今、そこにある恐怖 『愛、アムール』 http://t.co/bFm6Dlq51r
ハネケそのものでしたよね。 RT @rezavoircats ハネケっぽくないなんて誰が言ったの?高齢化社会の今、そこにある恐怖 『愛、アムール』 http://t.co/wJaMtsoc4f
RT @rezavoircats: ハネケっぽくないなんて誰が言ったの?高齢化社会の今、そこにある恐怖 『愛、アムール』 http://t.co/bFm6Dlq51r
ねえ。 RT @rose_chocolat: ハネケそのものでしたよね。 RT ハネケっぽくないなんて誰が言ったの?高齢化社会の今、そこにある恐怖 『愛、アムール』 http://t.co/bFm6Dlq51r
この話、お金がある人じゃないと成り立たないってのが大前提じゃないでしょうか?
どう考えてもこんなにセレブな介護は私はしてもらえそうにないんじゃないかと(苦笑)
金がなきゃ介護しないよ、確かにそうですが、それを理由としてこの話のラストになっちゃう人も増えるんじゃないかな。
なので愛がどうのこうのと言える間はまだまだ夢見てられると思うんですよねえ・・・。
rose_chocolatさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ふむ、roseさんは愛より経済力が先に来るんじゃないかという話ですね。私も記事中で経済面についてはチラと言及していますが…。
日本でホームヘルパーさんというと、かなりの薄給と言われていますが、実際に雇う方になると、いくらぐらいなのかなあと思って調べたところ、このページを参考にしますと
http://www.3poem.or.jp/doc/helper.htm
映画中でも、頭を洗ってもらったり、体を拭いてもらったりの週に三回のヘルパーさんでしたよね。
30分というのもよくあるようですが、一応1時間程度と仮定して、週に三回だと、
月にかかる料金は51612円。
ちなみにリンク記事中に書いてある「生活援助中心」は、映画中でも買い物を手伝ってくれる人が居ましたが、買い物だと、一ヶ月で9800円。
合計61412円ですね。
それほど「セレブ」介護というほどでもないかも。
フランスはちなみに医療も福祉も充実している国ですが、実際にこの映画のようなシチュエーションの場合ではいくらぐらいかかるんでしょうね。映画劇中でお金のことを言及している箇所が1箇所だけあったので、そこから推し測ってみますと…。
とあるヘルパーさんを首にして、お金を払えと言われるシーンがありました。あそこでは800ユーロ渡してましたよね。ジョルジュが法外に高いと驚いていましたが、あれは一ヶ月分の給料を見込んであれだけの値段を払えと要求したのでは。とすれば800ユーロも、高くはありますが、なるほどそれぐらいが一ヶ月分の試算なのかと思いました。
やあ。みんなが見たくないものを見せ続けてきたハネケ、今回の着眼点はウルトラC級だね。
テレビで見てたのトランティニアンじゃなかったよ、ジャン=ピエール・レオじゃん。まちがえてた、あはは。。。
あとおばあちゃんが電動の車椅子を激しく前後させるとこ、『博士の異常な愛情』じゃないかな。
ウラヤマさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
>みんなが見たくないものを見せ続けてきたハネケ、今回の着眼点はウルトラC級だね
ですよね!これはなかなか良かった。私も人に嫌がらせをして、巨匠と呼ばれたいよ!
『マーターズ』のパスカル・ロジェ監督なんかは、「『ファニーゲーム』はホラー好きをコケにした最悪の作品」と言ってハネケを毛嫌いしているんだけどさ、
ハネケみたいに「ホラーを作らずして皆に嫌がらせをする」というのは、それはそれで凄い。これってある種ハネケイズムの勝利のような気がしたよ。
出かける前に見てたの、『日曜日が待ち遠しい!』も一緒に見てたじゃん。すぐ変えちゃったけど。
それに、私この作品の前にさ、『殺しが静かにやってくる』も見てるんだ。本当にこの頃の私っては、ジャン=ルイ・トランティニャン特集なんだ。
さらに、トリュフォーのアントワーヌのシリーズも見てて、ジャン=ピエール・レオも見まくってたんだ。君のせいでごっちゃになっちゃったよ!こんにゃろー。
>博士の異常な愛情
そのツッコミはイイネ!しておくよ。
RT @rezavoircats: ハネケっぽくないなんて誰が言ったの?高齢化社会の今、そこにある恐怖 『愛、アムール』 http://t.co/bFm6Dlq51r
“あの食べさせ方では絶対ムセます。”^^
こんにちは、とらねこさん。
TBなど飛ばさせていただきましたが
無事到着できましたかしら。
とらねこさんのお言葉に共感いたします、私も。
題名にダマされて
ケナゲっぽい介護予告編にダマされて
どうやら賞とったらしいとす~ぐその気になって
こうでも宣伝しなければ客来ないと
配給呼び込みにまんまとダマされて・・・
しかして鑑賞後は
暗黒ハネケ節のひとしずくでも感じられたかな~(笑)
という具合で
今回もおそるおそるコメント入れさせて頂きました。
そうです!
「セブンス・コンティネント」!
アレですね~コレ。(^ ^)
vivajijiさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
あ、あの食べさせ方、やっぱりむせますよねw
ラストの辺りの、ご飯を食べなくなってしまった妻のところですね。
あれは、生きることをまるで拒否しているかのように、ご飯を食べなくなってしまった…そんな描写だったんでしょうか。
あれが理由で夫は、共に逝くことを決意してしまうんですものね。
ですよね!ラストは一家全員(鳩も含め)道連れ〜!な、『セブンス・コンティネント』と一緒だ、なんて思っちゃいましたよ。ご賛同いただき嬉しいです ^^;