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ホラー映画を見ている人が犯罪者予備軍か? 『ブリーダー』

BleederPoster1ニコラス・ウィンディング・レフン監督の、『プッシャー』に続く2作目の作品。これは面白かった!
ちょうど自分の好きなテーマだったので余計、入り込んで見てしまった感じ。

今回は『ノーザンライツ・フィルム・フェスティバル』という北欧の映画を集めた映画祭で見たのだけれど、ユーロスペースは満員!私は立ち見で見てしまいました。ユーロで立ち見は3年前のカネフスキー3作(etc.『動くな、死ね、蘇れ』)以来。すごい!

そして、古舘寛治さんにエレベーターのところで遭遇してしまった!やった!『歓待』大好きだったので、嬉しかったなー。

映画の上映時に、「マッツ・ミケルセンが主演デビューした作品になります」等のアナウンスがありました。うんうん、いい導入。

 

これが、小さいけれどリアリティのある、オリジナリティ溢れる描写で、才能をビシビシ感じる作品になっているのです。うーん、こういうの大好きだッ!!
この作品のどこが気に入ったかというと、言わば、「暴力の成り立ち」をゼロから描いているところ。
ゼロから描く、というのはつまり、元々普通に生活している、私達自身と同じレベルの考え方の人々、つまり暴力を自分が行うとは思ってもいない、暴力に特に縁のない人々が、暴力的行動をするまでの物語を克明に描いているところ、なのです。

さらにコントラストとして、こうした行為にハマっていかない人種を描いてもいる。それは例えば、マッツ・ミケルセン演じるシネフィル、レニー。彼はレンタルビデオの店員で、暇さえあれば映画ばかり見ている、けれどもリアルな女性との関係はなかなか築くことの出来ない人として描かれているのでした。
『悪魔のいけにえ』や『マッドマックス』、『ワイルド・アット・ハート』が好きで、セガールよりブルース・リーが好き。もうこの設定だけで、「おお!」と思ってしまうじゃないですか。「お前は俺か」、的な。話をするといえばいつも映画の話ばかり。で、このシネフィルは、ホラー映画は好むけれども、アダルト映画は見ない。日本のシネフィルだと、「ピンク映画は入るけれども、アダルトは見ない」とかになるのかもしれないけれどね。(その辺、日本のピンク映画は優秀だから違うんだろな)。

この設定は単に、映画好きに対する目配せだけじゃない。この描写が圧倒的に正しいのは、「ホラー映画を見るタイプの人間が犯罪者予備軍である」ということの正反対を描いているところなのです。私はここに感激しましたね!

 

一方、女と暮らしているレオ(キム・ボドゥニア)は、彼女(リッケ・ルイーズ・アンダーソン)に子供が出来て以来、精神状態が落ち着かなくなっていく。それほど子供が欲しかったわけでもなく、小さなアパートで、大した給料ももらっていないのに、これから子供を育てていくのか…という不安。うん、こういうのもリアルな設定で、分かる部分が多いにあるのです。で、ここから少しづつ追い込まれ、精神が破綻をきたしていく描写がいい。

彼女の兄(ルイーズ)が元々、少し怖いタイプで、人に脅威を抱かせる犯罪者風の人だったり。レオは彼に対する恐れがあるからこそ、暴力に向かっていくんですよね。全く無理のない描写。

 

初めはレオは、映画のヴァイオレンス描写を見て、「リアルに見た暴力行為は、全くこんなものじゃなかった!」なんて言うんですよね。「映画と本物の世界は違うんだぞ」って。この辺のテーマは、私が映画を見る中で、ずっと持っているものだったりするのです。「映画だけ見ているやつには分からない」という台詞が、シネフィルのレニーに向けて何度も出てくる。「映画を見て、世界を分かった気になるのはどうなんだろう?」という、私の好きなテーマ。ここ数年の自分にとっての一番のテーマだと言ってもいい。

で、レオは、銃に対する興味関心がだんだんに膨れ上がっていくのだけれども、このレオが銃を初めて手に入れた、この時の描写がすごく怖いのです。初めて手に入れたからこその興奮、暴力行為に対する憧れ。かつ、今後自分が守らなければならない存在の、新しい命。真逆の物を強いコントラストとして描かれることで、より恐ろしいものとなっているのです。鳥肌が立った。
ルイーズに関しては、自分の腕力に自信もあるからこそ、銃など無くても常に自信に満ちているところも納得が行くのです。

普通の人間の日常を描いているよう、小さな国の小さな人間関係を描いているようでいながら、どこにでもありうる常汎性といったら。
その後のクライマックスを迎える際の、緊張感のある描写も鋭くて、本当にイイ。
映画好きレニーのロマンス描写にはホッとする部分もあるし。

小さいながらすごく好きな作品になりました!
元々、ミニマルな世界観の中に人生を描く作品が好き、という私の性質もあるけれども。

 

P.S. レニーは、ようやく誘った彼女との映画デートを、思わずすっぽかしてしまうのだけれど、『アルマゲドン』が本当はそれほど見たくないから、が理由だったりしてw。

’99年、デンマーク
原題:Bleeder
監督・脚本・製作:ニコラス・ウィンディング・レフン
キャスト:キム・ボドゥニア、マッツ・ミケルセン、リッケ・ルイーズ・アンダーソン

 

 

 

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コメント(4件)

  1. なんと立ち見ですか!
    でも、哀生龍もこれは立ってでも見たい作品です。 ああ・・日時さえ合えば行ったのに・・・(涙)

    >暴力に特に縁のない人々が、暴力的行動をするまでの物語を克明に描いているところ
    じわじわきますよね。
    そしてある所を過ぎると、もう戻れなくなる。
    マッツ・ミケルセンに比べると日本ではかなり知名度の低いキム・ボドゥニアですが、哀生龍はかなりお気に入り。
    特にこんなキャラを演じさせると、凄くハマるんです。

    よ>「マッツ・ミケルセンがデビューした作品になります」
    そう言えばこれが長編映画の初出演作品でしたね。
    二枚目キャラもいいけれど、チンピラ・キャラや胡散臭いキャラが、実は結構良いんです!

  2. 哀生龍さんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。

    すごい人気でしたよー。土曜もどうやら立ち見だったらしいです。月曜ももしかしたら?

    暴力の萌芽とその咲き散らし方、見事でしたよね!完璧な作品で痺れました。
    銃を手に入れたまま、妊娠した彼女に手を上げるシーンなんて、本当怖かった…。

    哀生龍さんは、キム・ボドゥニアもご存知だったんですね。へえ〜。
    マッツ・ミケルセンて、色んな役が似合っちゃいますね。私の一番最初のイメージはル・シッフルなので、不気味系の胡散臭い役がすごく似合う役者だと思ったんですがw、こういう純粋な非モテ役も似合っちゃうんですね〜。
    で、プッシャーの4作のボックスが出るんですね!いいなあ〜。
    うわあ、それすっごいすっごい見たいです!

    ところで、今度良ければ『ドライヴ』もご覧になって下さいませ〜。
    私これ大好きなんですー。

  3. >私の一番最初のイメージはル・シッフル
    哀生龍にとってマッツの最初のイメージは、「キング・アーサー」の寡黙なトリスタンです。
    チンピラ風、胡散臭い系マッツは「ヴァンパイア黙示録」「ブレイカウェイ」を、コメディ系のキムは「ゲット・ザ・マネー」と続編「ゼイ・イート・ドッグス」を、レンタルでチェックして頂ければ・・・(笑)

    >『ドライヴ』
    公開された頃に、本は読んでいるんです。
    本の雰囲気がかなり良かったので、見なくていいかな・・・と。
    実は・・・ キャスト的にスルーしてしまいました(^^ゞ
    でも、とらねこさんにお薦めされたのなら、見ないわけには行かないですね。
    レンタル・リストに追加しておきます!

  4. 哀生龍さんへ

    こんばんはアゲイン♪お返事が少し遅くなってしまってしまいました。
    マッツ・ミケルセンは、哀生龍さんのお気に入り殿堂入り俳優さんですもんネ。
    私は、オススメ頂いた中ではキング・アーサーしか見てないや…。

    最近はあまり、俳優さん目当てに見ることが無くなってしまったのですが、今度何かの折に覚えておきますネ。
    アクション物にはそれほど惹かれない私なのですが、『ヴァンパイア黙示録』は気になります^^

    やったー!ドライヴ、是非見てみてください。というか…
    この監督の作品で、『プッシャー』とこの作品、そして『ヴァルハラ・ライジング』をご覧になっていて、『ドライヴ』だけ見てない、という哀生龍さんの方がよっぽど珍しいですよね^^;
    あー、私も『プッシャー』のトリロジーが見たいです〜。4月ですね!4月!




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