社会問題も捉えつつ爆笑の渦に引きずりこむ、濃厚タミル味『ボス その男シヴァージ』
’07年、インド
原題:Sivaji
監督: シャンカール
プロデューサー: サラヴァナン、M・S・グーハン
脚本: スワナンド・キルキレー、スジャータ
撮影: K・V・アナンド
音楽: A・R・ラフマーン
キャスト:ラジニカーント、シュリヤー・サラン、スマン、ヴィヴェク
これ見たかったんですよね。したまちコメディ映画祭で、この作品がちょうど終わった後に駆けつけたのだけれど、だいぶ客席が湧いていたらしく。なんでも、インドと同じような上映方式、“マサラスタイル”で上映されたとか。主演のシュリヤー・サランさんの来日もあり、インドダンサーもあったら、そりゃ盛り上がるだろうなと。お客さんも熱狂的だったらしいと聞いて、羨ましいなあと思ってたんですよね。なんだか今年はインド映画が来ていたなあと。『ロボット』(この作品と同じシャンカール監督作)が話題になったおかげで、また見逃されていたラジニカーント映画が公開。ちなみにこれ、’07年の映画だったんですね。別のロボット映画の『ラ・ワン』は見過ごしてしまったけれど。
私は『ロボット』は完全版をシネパトスで見た。まあ面白かったけれど、長かったー。『ロボット』は、後半の畳み掛けアクション40分が見応えありすぎ。物凄かった!面白いけれど、全体的にハリウッドの影響が濃すぎたように感じてしまったんですよね。ロボットというハイテクなものを扱った、ハリウッドナイズされたマサラ・ムービーもいいけれど、『ムトゥ 踊るマハラジャ』などで感激したのは、インドっぽさが押し出された、より濃厚なマサラテイスト。ベタな「インドっぽさ、タミルっぽさ」にこだわった感のあるこちらの作品の方が好きなんですよね。ベタベタなギャグやドン引きビックリ展開も好き。いやもちろん、『ロボット(完全版)』もいいんですけど。
こちらの物語、インドにある社会的な問題を真面目に捉えながら、それを無理やりギャグと恋愛話で包み込んで行く。この強引なテクニックが非常に面白くて、あり得ない無茶苦茶加減がすごくイイ。本来、「笑い」が表現出来るところの諷刺、これがある今作の方が好き。諷刺の無いただの笑いの『ロボット』、タミルにこだわるよりハリウッド傾倒の強いこちらよりも。
貧しい人達のために学校や病院を作ろうとしても、上の方の政治や組織がガッチリとカースト制を守るように固まっていて、微動だにしないんですよね。インドの貧困の根源がきちんと描かれていました。人のためになるような利益度外視の会社を作ろうとしても、カースト制を破壊するような行為になってしまうので、何も出来ない。巨額のお金を20年かかって貯めても、貧しい人のために学校一つ作れない。意外とリアルに描かれていたと思います。私は今年、グル・ダッドという「インド映画の父」と呼ばれる人の映画『渇き』を見たけれど、これがやはりインドの貧困や社会問題を描き、哲学的に嘆き悲しむ、真面目な映画。でもすごく良かったんです。面白かった。このグル・ダッドを思い出しました。
で、その仕事の合間に恋愛話を無理やり差し挟んでくる。さすがマサラテイスト、真面目一方で終わらせるわけはない。そこはラジニカーントですからね。惚れた女の子に、見境なく猛烈アタックして、ムゲにされる姿がもう最高に可笑しい。やっぱりラジニカーントはいつ見ても吉幾三にしか見えないので、スーパースターというのがどうもしっくり来ないんですけど、まあそこがインドのトンデモっぷりでいいのかもしれませんけど。ラジニのダンス姿も、お腹は大きいし手足は短いし、それよりまずダンス自体がそれほど上手く見えない。なんでこのオッサンがそんなに売れるのかマトモに分からないんですよね。モテキャラよりも、強引なキモキャラがぴったり合ってるから、余計面白くて最高でした。あ、そう言えば私サシャ・バロン・コーエンが大好きなんですけど、やっぱキモキャラなオッサンは嫌だ嫌だと言いつつ好きなのかもしれない!?ラジニは、家に無理やり押しかけて行って「仲良くなりに来た」と行ったり、今度は遊びに来いと言って、無理やり物食わせたり、職場に押しかけたり。コントっぷりが最高でした。でも、嫌だ嫌だと言いながらも、大金持ちだし、どうせすぐ押し切られるのかなあ、と思いきや、意外とこれがしぶといんですよね。相手の家族も頑固で、陥落されるまでに結構時間かかって。そうこうする内に、シヴァージの方は純愛をきちんと貫いて、彼女を得るために逆境に陥ったり、一度死んで蘇ったり。愛を得るまでにしばらく時間がかかるんですけど、私こういうの意外と好きなんですよね。
ただ基本的にちょっとラジニカーントは飽きるんですよね。面白いんだけど、途中で面白疲れしてしまう。『ムトゥ』から始まって、いつもラジニ作品は劇場でグースカ寝てしまう。今年私はインド映画を4本見ていて、それがグル・ダッドの『渇き』と『ロボット(完全版)』とTIFFで見た『火の道』、それからこちらの作品。『火の道』の監督、カラン・マルホートラー氏が「なぜ休憩が無いんだ?皆疲れてしまう…」と嘆いていたけれど、今後は日本でも、休憩を入れてくれたらいいのになあ。ラジニ以外は長くても寝てないんですけど…。どうすか?マサラ休憩。15分でも。その間に一口カレーを売ったりすれば、劇場も儲かるでしょ。皆マサラ気分になれそうだよ!私が劇場支配人だったらやるけどなあ。お願いします!疲れるの!3時間は。
2013/01/08 | :コメディ・ラブコメ等, :ボリウッド, :音楽・ミュージカル・ダンス インド映画
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