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105★嘆きのピエタ

’12年、韓国
英語タイトル:Pieta
監督・脚本・編集:キム・ギドク
製作:キム・スンモ
音楽:インヤン・パーク
撮影:チョ・ヤンジク
キャスト:チョ・ミンス、イ・ジョンジン

キム・ギドク、完全復活!!

東京フィルメックス映画祭にて、一足早く見て来ました。いやあ、早めに見た甲斐があった。本当に素晴らしかった!
韓国では9月に公開のこの作品、ギドク監督による早期上映終了発言などもあったようだけれど。地元韓国でこれまで評価されて来なかったギドク作品の中で、観客動員数50万人を超えたなんてニュースは、初の快挙かもしれない。にもかかわらず、早めに上映終了するとは。もう・・ツンデレなんだからあ♪

今回のフィルメックス上映で、この作品はたった一度の上映。監督の来日が無い代わりに、監督の一言を撮影したビデオレター上映が。
「冒頭の20分はかなりキツイ映画ですけど、それさえ超えれば大丈夫なので、辛抱して下さい。そして最後まで見れば、どういう話だから分かるはず」というもの。思わず笑い声が出てましたけど、なかなかいい雰囲気でスタート。ああ、ギドクは愛されているなあ・・!
このビデオレター、背景を映すと『アリラン』で見たものと全く同じ。思わず胸がいっぱいになりましたよ。
あの苦しみを乗り越えて、また振り絞るような作品を作ったのだな、なんて。アリランは初日でも全く人が入っていなかったけれど、今度の作品はベネチア金獅子賞を取ったことだし、今回は人が入りそう。来年夏にル・シネマにて公開。

さてこの作品だけれど、まさにギドクならではの荒々しさ。今年上映された印象深い作品だと、ペドロ・アルモドバルの『私が、生きる肌』なんかもあるけれど、あれは巨匠アルモドバルならではの個性を感じた。こちらも負けず劣らず、ギドクならではを感じる小さな私小説的作品。小さいけれど、その人の全てが感じられるようなところが似ているというか。人生の葛藤や人間の不可思議さと複雑さ。心に棘を刺されるような鋭さ。私の大好きなギドク世界!

主人公の男の荒々しさは、まるで『悪い男』や『』のよう。物語は今回はだいぶ分かりやすいので、難解に思えることもなく、スッキリまとまっている印象。きっと見やすいと思います。ただ、なんだかカメラのせいか、ところどころシーンがあまり美しくはなくて。性能の低いデジタルのカメラで撮っているのかな、と思ってしまったりもした。アルモドバルの『私が、生きる肌』なんかでは、デジタルで撮ってもこれだけヌメっとする世界観を表すことができるんだなあ、と感激したけれど。・・と、そこまで思って、いや、やはりこういう不器用なシーンを含めて、ギドク作品なんだっけ、と思い直した。むしろこういう無骨さがギドクだなと。

冒頭のポスターは、海外向け『ピエタ』の白黒版のもので、左の方が韓国版のもの。ピエタと聞けば、キリスト教美術として代表的なよくあるモチーフだけれども、ギドクのピエタ像にも納得がいきました。私的には、ミケランジェロのピエタが一番好き。ギドクがイメージしたものもこちらにソックリだと思います。イタリアはローマの、サン・ピエトロ大聖堂にありました。母親にお土産にレプリカを買ってあげたら、意外にも大喜びしてたっけな・・、などと思い出したり。

この先ネタバレで語ります*************************************************

母親の愛がテーマ・・というような、ストレートな作品にならないところがギドクっぽさ。愛を知らなかった青年が、母親の愛を受けるほどに、少しづつ変わっていく。母親が何故このような行動を取ったか。それは憎しみによるものであったけれど、彼女も少しだけ変貌を遂げる。これが人間なんですよね。どちらも痛々しいほど哀しい。

ラストのあの馬鹿馬鹿しいセーターを身にまとった主人公の姿、3人で横たわるシーンなどが痛々しい。セーターを着た死体を見て、彼がどう思ったのか、真相を把握出来たのかがまるで分からない。死体からセーターを引き剥がして自分で着る。

母親役を演じた、チョ・ミンスが良かった。『悪い男』や『』では、チョ・ジェヒョンの主役っぷりが素晴らしすぎたのだけれど、この作品ではチョ・ミンスは、イ・ジョンジンよりずっと印象深い。彼女の母親っぷりは、空っぽな男の荒々しさを完全に食ってしまって、途中からは、彼女が主人公にしか思えないんですよね。このことは、この映画にとって吉となるか凶となるか。まあ、このテーマなのだから、当然アリでしょうね。ただやっぱり、イ・ジョンジンは力不足にも思えてしまわなくもない。

 

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コメント(11件)

  1. 『ピエタ』、前評判が先行していたので果たしてどうよ・・・?という感じで鑑賞しました。

    元々、日本よりもずっとずっと濃ゆい韓国特有の母&息子関係って自分の方針とは相容れないものが前提としてありまして。
    なのでこの映画の中の「ギドク的解釈のピエタ」にはいいも悪いもないと思いますが、それが正解!とか、それが正義!とはあまり考えたくないんですね。
    最も、自分がもしミソンの立場になったら、こんな綺麗事は言わずに、何でもしでかしてしまうんでしょうけど。

  2. rose_chocolatさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。

    前評判は高かったですよね。roseさんはこれまで、ギドク作品何かご覧になったことあります?初めてだったら、彼のテイストって結構面食らってしまうことばかりなんですよね。
    そうなんです、ギドクの作品は、いいとか悪いとかそういう言葉で語ることが出来ないものばかりですね。それにしても、roseさんは韓国の政府機関施設のようなところでご覧になったみたいですね。何か特別なイベントはあったのでしょうか。

  3. ギドク作品は実は初めてです。
    個人的にはパク・チャヌクの方が好きかもです。

    私が試写で観た所は、四谷の韓国文化院ハンマダンホールっていうところだったんだけど、正式には「駐日大韓民国韓国文化院」っていうそうで、敷地的には韓国の領域ってことになるのかな?とにかく警備(日本の警察です)が厳重でした。試写会のお客さんに対しては特にチェックはしてなかったけど、ここは実はした方がいいんじゃない?と思ってしまいました。一般試写会を企画されてるけど、どんな人が来るかわからないので、招待客にこそボディーチェックを実施するべきなんじゃないかと。

    イベントは特になくて普通の試写だったんだけど、建物自体とても綺麗で、館内は「韓」のいろいろな美しい展示をしてましたね。写真は撮りませんでしたけど、落ち着いていてよかったですよ。

  4. rose_chocolatさんへ

    ハンマダンホールでの試写会なんてあるんですね。警備が厳重だなんて、場所柄なんでしょうね。

    韓国の人にはギドクってそれほど人気ないらしいです。よくある韓流映画とはまるっきり違いますから。
    この作品はとても人気が出たらしいのですが、わざと自分で打ち切りにしてしまったらしいです。ギドクもツンデレですよね…。

  5. 「それさえ超えれば大丈夫」
    いや、全然大丈夫じゃないんですけど。そりゃ「チェイサー」とか「悪魔を見た」よりは、ある意味大丈夫ですけど。

    「私が、生きる肌」も思い起こしましたが、今思うと「息もできない」臭もありますね。

  6. バラサ☆バラサさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    あら、駄目でしたか^^;
    んーそうですねえ、キム・ギドクはなんだかんだ言って、ミニシアター系映画の好きな人の方がハマるタイプかもしれません。
    ですね、『息も出来ない』も好きな人は好きでしたよね。

  7. 「嘆きのピエタ」感想

    今年一本目はこれ。
    今日レンタル開始とのことで、10時に借りてきました(^^)/

  8. とらねこさん、こんにちは!
    やっと見れました^^
    去年見ていたら、ベスト10に必ず入れただろう作品でした。
    ギドクファンとしては、嬉しい完全復活を思わせる映画でしたね♪

    とらねこさんがご覧になった、上映前のインタビュー映像っていうの、もしかしたら、レンタルDVDの特典に入っていたやつと同じかもしれません。

    アリランでは、やさぐれて傷ついていた監督ですが、本作で、ベネチアで凄い賞ももらえて、良かったねーって、息子の様に?思ってしまいました。

  9. Latifaさんへ

    おはようございます!コメントありがとうございました。
    なんと、この作品が新年一発目!壮絶な幕開けになっちゃいましたね。私も元旦にロウ・イエでしたし、人のこと言えませんが。
    ベストに入ったはず!なんと。

    なるほど、特典映像に入ってましたか。背景が、アリランを撮影した時に住んでた家と同じじゃありませんでしたか?
    本当に、彼の名声が再び高まって、すごく嬉しくなった一作でした。

  10. すごい話でしたね!
    母親役、素晴らしいです。

  11. ボーさんへ

    こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
    母親役の役者さん、目がすごい印象的なんですよね。
    この作品を見て、メビウスと比べてみても面白いですよ。




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