121★黄金を抱いて飛べ
’12年、日本
監督:井筒和幸
製作:千葉龍平、軽部進一他
エグゼクティブプロデューサー:新崎英美、田林憲治
プロデューサー:菅野和佳奈、藤田裕一
原作:高村薫
脚本:吉田康弘、井筒和幸
撮影:木村信也
音楽:平沢敦士
キャスト:妻夫木聡(幸田弘之)、浅野忠信(北川浩二)、桐谷健太(野田)、溝端淳平(春樹)、チャンミン(モモ)、西田敏行、中村ゆり、青木崇高(キング)、田口トモロヲ
井筒監督ならではのこだわりが感じられる、気合の入ったクライム・サスペンスでした。大体、邦画で本格的な強盗シーンが出てくる映画なんて見たことないし、ましてやリアリティのある「手に汗握る」物なんてほとんどない。まったくもって皆無!だからこそ、こうして井筒監督はメガホンを撮ったのだと思うし、そんなこだわりがよく現れていた作品だった。『オーシャンズ11』のように、シャレオツな強盗や漫画な強盗ではなく、「えらくリアルなやつ」。邦画でもこんなに面白い物が作れるのだと、皆ビックリするようなヤツ。そんな風に、高い望みを持って撮られているので、後から考えてもすごかったなあ、と思い出してしまう。
「強盗に憧れるような気持ち」。物語冒頭において、不思議だけれど、そんな気持ちになった。でっかい強盗を目論む男たちが、「夢を追いかける男たち」のように思えてしまう。いいなあ、夢があるなあ!なんて。もちろん、後半はそんな強盗が上手くなんか行かないし、絵に描いた餅みたいに現実にはならない。気がつけばドップリ悪の世界にハマっていて、そちらの世界をクリアすることの方が逆に難しい。とてもリアルで、彼らのもがき様もまた、苦い現実味がたっぷり。一緒に思わず甘い夢を見た私達も「やっぱり、そんなに上手くなんて行かないよなあ」と、夢敗れる気持ちを共感することが出来る。
ただ不思議なことに、そうした素晴らしい描写もあるのに、どこか「面白さとしては普通」と思えてしまう部分があった。これはもしかすると、そのこだわりようが逆に退屈に思えてしまったのかも。こだわりのある映像が見れたという喜びを感じる反面、もう少し遊びがあっても良かったかな、と思える。上手く出来た脚本部分も、もっとアラがあってもいいから、ドライブ感のある“嘘”が欲しかったと言うか。井筒監督のこだわりを感じる反面、そうした“虚栄心”を忘れて、もっと“虚飾の世界”に溺れたかった。こんな風に思ってしまうのは、井筒監督が求めるレベルがとても高いからこそで、不思議なことに見る方の観客である私も、それに釣られてつい厳しい目線になってしまうのだった。
2012/12/22 | :サスペンス・ミステリ チャンミン, 井筒和幸, 妻夫木聡, 浅野忠信
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コメント(6件)
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井筒もんではイマイチかなと思ったのですが理由がわかんなくって
「面白さとしては普通」「ドライブ感のある“嘘”が欲しかった」と
そーですよね そーですよね
そーゆーことかーと認識いたしました
とゆーても井筒さんが頑張ってサービズ精神出して盛り上げようとすると
演歌っぽくなるので それもヨロシクナイし
せっかく 演歌は止めてもらってるのに
やっぱし何かがヨロシクナイ
キャスティングがいかにもな方々で普通なせいかとも思いました
妻夫木+浅野+チャンミンではどーしてもあーなってしまいますよね
あれ以上でも以下でもない次第点的な
それが一番イライラした所です
エーベックス的な大人の事情より吉本的な大人の事情の方が井筒っぽくてヨイのにと思いました
他の映画よりはマシですが井筒映画の中ではマシではないっつーところですな
熱さはあるのに 井筒コア的な肝心な遊び心的な何かが無いと思いました
よしはらさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ですよねー!私もこれ、イマイチ面白くは思えなかったのでした…。
よくできているのに何故?って感じですよね!
「サービス精神を見せると演歌っぽくなる」。
あー、確かに!なんだか暑苦しいメロドラマになっちゃうんですよね。
この作品はそれはないし、むしろリアリティもあるのに。
>キャスティングのせい?
私もそれ、途中で疑っちゃいました。妻夫木も浅野忠信も上手い俳優のはずなのに、なんだか井筒作品だと物足りなくって。『パッチギ』とか『ヒーローショー』は荒々しくて良かったですもんね。
でも私チャン・ミンは良かったですよ。彼だけすごく光ってたんじゃないかなあ。
でもおっしゃる通り、他の映画よりはいいんですよね。私も全く同意見です。
先日の井筒監督トークでこれを書こうと思ったのかな??
>「面白さとしては普通」
うん、確かに。辻褄合わないこといっぱいでしたもんね。
でもそんな小賢しいことを言わないのが井筒監督? この映画も、「おまえら、よぉ見とけ!」って感じでしたもんね(笑)
rose_chocolatさんへ
こちらにもありがとうございます〜♪
いやいや、実はもう少し前に書き上がっていたのです。
先日のトークを見た後だったら、もっと手厳しいレビューになったはずですw
んー、私はroseさんとちょっと違い、リアリズムはすごくあったと思ってます。それとは真逆で、なんだか嘘を語る語り口に、ロマンをそれほど感じなかったというところでしょうか。