120★ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋
’11年、イギリス
原題:W.E.
監督:マドンナ
脚本:マドンナ、アレック・ケシシアン
製作:マドンナ、クリス・サイキエル
製作総指揮:スコット・フランクリン、ドナ・ジグリオッティ、ハーベイ・ワインスタイン
撮影:ハーゲン・ボグダンスキー
音楽:アベル・コジェニオウスキ
キャスト:アビー・コーニッシュ、アンドレア・ライズボロー、ジェームズ・ダーシー、オスカー・アイザック、リチャード・コイル、デビッド・ハーバー、ジェームズ・フォックス
商業音楽の一時代を君臨し続けたクイーンであるマドンナであるが、映画界では完全無視され続け、彼女の出る映画は見事に次から次へラジー賞入りを堂々果たし続けて来た。マドンナは、エドワード8世を国王の座から去らせたアメリカ女性ウォリス、英国王室から完全無視を決め込まれた彼女に自己を投影しているのだろうか。彼女の心中を暴くことで、英国王室にアメリカ女からの復讐を与えると同時に、自分に見向きもしない映画業界に復讐をするかのように。「英国物はアカデミーの賞に絡みやすい」というのは、揺るぎない定説のようで、それが「英国王室」と来ると、より彼らの好みのド真ん中になってしまうようだ。一石二鳥で素晴らしいアイディアのようにきっと思えたのかもしれない。
『ワンダーラスト』でゴチャゴチャしたサブカル的若さを備えた作品で、監督デビューをしたマドンナ。今回の作品がアカデミー狙いとは言わないまでも、これまでMAVERICKなどの音楽レーベルを立ち上げた商売上手なマドンナが、次の作品で「“少し文化よりの良作を好む映画好き層”に認知されること」を目的として、このテーマをチョイスしたことに、なるほどと頷ける。先ほどの件に付け加えて。前作『ワンダーラスト』に全く興味の無かった私も、つい“英国王室物”が見たくなり、足を運びこのように後悔している次第であるし。・・・
一人のアメリカ女性に入れ込み、不倫の関係を続けていた国王エドワード8世が、王国を捨ててまで恋を選ぶ。こんな生き方をした国王など、今までしたあまり聞いたことがないものね。「まさに全世界を捨てて」選んだ恋。この結末は・・。これは誰しもとっても気になる最後のロマンチックさを持ったもの。イケメン国王として、かつてモテモテのよりどりみどりだったウィンザー卿が、そうまでして惚れ込んだ一人の女性。一体どんな女性だったんだろう、興味を惹かれてしまうもの。
物語は、二つの軸が描かれる。先に挙げたウォリスとエドワード国王の物語が一つ。もう一つの軸は、ウォリスに憧れる存在として、現代に生きる女性ウォーリー。周りには何不自由ない真面目な医師との結婚をしたように思われているが、内実は愛のない結婚生活。仕事を捨てて家庭に入ることを望まれながら、子供を欲しがろうとしない夫。どうやら浮気をしている様子だ。
錯綜する2つの物語を絡めるように、幻想を混ぜながら、上品に描かれる。女性の内面の孤独を描くような情感を出すことになかなか上手く成功していた。さすがはマドンナ、才能のある人を発掘したのが、今回は功を奏している様子。良い脚本家やカメラマン、プロデューサーや音楽などに恵まれて、上手に紡ぎ上げられた物語になっているのでは。前作の『ワンダーラスト』のような、せわしなく細切れにしたカットは、エドワードの国王時代のシーンのみ。ここでは、相変わらず瞬きをする暇もないほど忙しいカットで繋いでいたけれど。
ただ、「国を捨てたエドワード国王の喪失ではなく、ウォリス自身の喪失は何だったのか?この視点を誰も見ようとしない」と、思わずテーマをそのまま言葉にしている台詞はどうなんだろう。こういうのって私は覚めちゃうんですよね。映像の中で語るべきことなのに、わざわざ口にしちゃうのかー。そう思った途端に、“DVを描いて女性が家庭内で受けている悲劇を描こう”という手も、安易なことに思えてしまう。DV描写もすごく中途半端で、「DVを描いたことで女性の気持ちを寄り添わせよう」なんて思いが見え見え。
エドワードがパーティの際に幻覚剤を混入するシーンでは、セックス・ピストルズがかかる。うわあ、マドンナPunkだなー!と驚いてしまった。セックス・ピストルズに英国王室と言えば、誰もが思い出すのは『God Save the Queen』の不遜な曲。お上品な英国王室の社交場を、一気に不埒な空間へと仕立てあげる幻覚剤とセックス・ピストルズ。これはすごい。ウォリスは、イギリス王室へどうしても受け入れられることがなかったアメリカ女。本当は国王との駆け落ちを断って、前夫の元へ戻ろうとしていた彼女の手紙。あれは本当にあったことだったのだろうか。そうか、ウォリスの名誉のために、復讐のためにこの作品は作られたのだな。なるほど、あのセックス・ピストルズはこのためだったのか。マドンナのパンク精神がチラリと垣間見えた。それにしてもこのシーンは酷い。英国王室をドラッグでハイになってみんなをヘロヘロにさせる。冒頭から一貫して上品ぶっていたマドンナも、ピストルズとパンク精神で下品さを露わにしたシーン。もう下品そのもの。ようやく、彼女の本性が出ましたね!英国王室をポヨンポヨーンにしちゃった!
2012/12/21 | :文芸・歴史・時代物 アビー・コーニッシュ, アンドレア・ライズボロー, マドンナ
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コメント(3件)
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そんなに酷評じゃないじゃないですか(笑)
>ウォリス自身の喪失は何だったのか
確かにそこが弱かったですね。あとエドワードのキャラ描写も。
主要キャストが4人いるとどこかが弱くなりそうですね。
ただ私、これ好きなんですよね。なんかウォリスもウォリーも、いじらしくて。
rose_chocolatさんへ
こちらにもありがとうございます〜♪
ぬぬー。酷評じゃないと言われてしまった…。すみません!
「言いたいことが言えなくなってはブログの価値が激減する」と思っているワタクシ。人の顔色を伺うように、ヌルい記事しか書けなくなるなんて私らしくないですよねー!
反省しました!
そして、書き直しちゃったー。ちゃんと酷評出来ていますかしらっ。