115★『少年と自転車』 – 名画座と私。
’11年、ベルギー、フランス、イタリア
原題:Le Gamin au velo
監督・脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
撮影監督: アラン・マルクーン
カメラマン: ブノワ・デルヴォー
キャスト:セシル・ドゥ・フランス、トマ・ドレ、ジェレミー・レニエ
ダルデンヌ兄弟の新作ということで、見たいと思っているうちに、多忙な中ついつい見損なっていた本作。前回UPした『ル・アーヴルの靴みがき』と二本立てで、目黒シネマにて見て来ました。この2本立ては本当に幸せ満載。
名画座って実は、新作をきちんと追いかけてるファンにとっては、それほど行く機会の無い場所なんですよね。どちらか一本見ているか、もしくは両方見ている。さらに「もう少し待てばDVDがレンタル出来る時期だし」なんて思うと、見る気を失ってしまう。でも今回は、本当に目黒シネマで見て良かった、と思える体験をさせてもらいました。『ル・アーヴルの靴みがき』はユーロスペースでやっている際、デジタル上映だったけど、目黒シネマではちゃんとフィルム上映。目黒シネマ支配人曰く、「今現在、デジタル機械を買おうかどうしようか検討中」とのことです。「いずれ、デジタルを揃えなければ、と今は思っています」と言っていたので、今後デジタルが入る可能性は濃厚なのかな。目黒シネマ自体が好きなので、今後もますます応援しよう!という気持ちになってしまった。
目黒シネマはなんだか、「手作りの映画館」という感じがするのですよね。人が居心地良く過ごせるように、細かな心配りをしているのが感じられるんです。ポイントカードや割引券などで「次にまた来よう」と言う気持ちを持たせるのも上手。かける映画も、ハリウッドのような大作ものの方がきっと人は入るのだろうけれど、一方でミニシアター系の良作の2本立ても、ちゃんとやってくれる。だから私なんかは、ミニシアター系の時だけここぞとばかりに行ったりする。最近だと、『ノーウェアボーイ』と『ウッドストックがやってくる』の音楽二本立て、これがとても良くて気に入ってしまった。あと、『人生、ここにあり!』と『木漏れ日の家で』。こんな風に素敵な二本立てをやられると、普通に映画を1本見て感動した時より何倍も喜びが大きくなっちゃうんですよ。私にとってはすごく幸せな思い出。終わった後にあれこれ言いながら呑んだりね、それも楽しい。あ、ちなみに『ノーウェアボーイ』と『人生、ここにあり!』は、どっちも去年のベストに入ってしまうぐらいのお気に入り。
今回、いつも見ていたはずなのに初めて気づいたことがありました。目黒シネマは開始前に、チリンチリンと手ベルを鳴らすんですよ。今までは普通に何となく古臭いな、とボンヤリと思っていた程度だった。でも、これを『ル・アーヴルの靴みがき』とセットで見た日には・・。ル・アーヴルは、小さな田舎の港町の、素朴な人々の優しさについての物語。これを見た直後に、目黒シネマの手ベル「チリンチリン」を聞いたら、もうなんとも言えなくて。ここはどこだ?東京だったっけ?って。「東京にこんな場所があったのか!」なんて、再発見したみたいに心がふわっと優しさに包まれてしまった。
私はこれまでも、名画座って好きで良く通ってたんですけどね。学生の頃は、良く文芸坐に行ってた。「新文芸坐」になる前の「文芸坐」の頃ですね。一番好きだったのはここです。最後の2本の上映時に、10分過ぎると、値段が800円だったかな。値下がりするんです。それを狙って2週間に一度は文芸坐に毎回通ってた。あと、早稲田松竹も良く行ってましたね。あそこの特集上映が好きで。
ギンレイホールとかは、上手に使えばそっちの方が安いよなあ、と思ったりもするんだけど、飯田橋が近かったら使ってただろうな。年間パスポートの1万円は本当に安いもの。でも、あそこはいつ行っても結構混んでるんですよね。私のシネフィル友達は、新橋文化がオススメだそうw。確かに、あそこの2本立ての組み方って、何か面白いですよね。最近知ったのだけれど、新橋文化劇場さんのtwitterは、メチャクチャ面白いのです。数ある映画館の「中の人」アカウントの中でも、抜群かも。良かったら、一度見てみてください。→ 新橋文化劇場twitter
今頃ですが、この作品について。
ダルデンヌ兄弟のこれまでの痛々しさと違って、ほんのり優しさが見える作品で、見やすかったですね。
威勢の良い男の子は、周りの大人達が少し間違えると、もしかしたら取り返しのつかないことになってしまう可能性もあるんですよね。義理堅く、本来は優しい男の子なのに、不良の道に入ってしまう子も居るわけで。子供を育てるのが重荷になってしまった父親を、「親の責任」と責めるのは簡単なこと。でも実際そうなってしまった時に、じゃあ社会は何を出来るのかってことですよね。一個人の貧しさは社会全体のしわ寄せを受けてしまった姿とも言えるわけで。その無責任さを描いているわけではない。
で、これって意外と描き分けが難しい部分かもしれない。たとえば是枝監督の『誰も知らない』なんかも、親に捨てられた子供を描いていて。衝撃的な作品ではあるけれど、「あれって親が酷すぎるよな」という一言に終わってしまいかねないんですよね。それは、「社会全体の中での子供放棄」、という描写が足りないように思えてしまうからで。その点、ダルデンヌ兄弟は社会の姿を捉えた上で描いていて、父親全体ではなく社会やその制度の問題でもあると感じさせるのが上手いなあと。
少年のあの危うさ、手を放したら別の世界に行きかねないあの危うさ。サマンサが一時の気まぐれによる慈善行為だったら、あそこまでは出来ないんですよね。子育てって、本気と本気の魂のぶつかり合いなのだな、と。ただ、正直言うと、少年て育てるの大変そうで嫌だな、なんて思ってしまいました。でも女の子も思春期になると面倒臭そうだしなあ。
※ストーリー・・・
もうすぐ12歳を迎える少年シリル。彼の頭の中にあるのはただ1つ。自分を児童相談所へ預けた父を見つけし、再び一緒に暮らすこと。ある日、シリルは美容院を経営するサマンサと出会い、週末を彼女の家で過ごすこととなる。サマンサはシリルに愛情を注ぐことにより、彼の人生を変えようとするのだが・・・。
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コメント(5件)
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>少年て育てるの大変そうで嫌だな
あ、その通り。 もう私、お腹いっぱいです。 私ももういいよ(笑)
とにかく少年の子育ては面倒ですよ・・・。
名画座、横浜ジャック&ベティに行きますね。ここは本当に涙ぐましいまでの努力をしていて、応援したくなっちゃうんだよね。いつまでもパワフルに頑張ってほしいシアターです。
rose_chocolatさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
日参ありがとうございますー。昨日は楽しそうでしたね!
へえ〜!roseさんのお子さんは息子さんなんですね!
いいなあ、こうやって映画も見ながら、ちゃんと子育てしてるのは私には羨ましい…。
横浜ジャック&ベティも名画座なんですね。確かにジモティーだったら、私もここ通ってしまいそう!
しかも、涙ぐましい努力してるんだったら余計、愛着が湧いてしまうんですよね。
同じく。大変です。一概には言えないけれど少年は危うさを兼ね備えていて、どうしていいか分からなくなったりします。異性っていうのもあるんでしょうね。
子供の頃はひたすら可愛かったのに、ある日いきなり別人になってしまうというか。(本当はいきなりじゃないですけどね)早く笑い話になる日がくればいいと思う半面、それも寂しかったりもして、親も複雑だああ。
くりりんさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
お、くりりんさん宅も男の子がいらっしゃるんですね〜!
私は、自分自身が思春期にめっちゃ面倒くさい女の子だったので、ガラスのような神経の女の子なんかより(笑)、男の子の方が可愛げあっていいなあ…なんて思ってたんですが、男の子の子育てって、異常なまでに疲れそう!お母さん振り回されてヘトヘトになりそうだなあ…。聞くだに恐ろしい〜。
ふむ、くりりん’sジュニアは今や大人になってしまったんですね…。確かに男の子は、たとえ悩み事あってもなかなかお母さんに話してくれなさそう…。親もこんなに悩むものなんですね。うう…