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114★ル・アーヴルの靴みがき

’11年、フィンランド、フランス、ドイツ
原題:Le Havre
監督・脚本・プロデューサー: アキ・カウリスマキ
撮影: ティモ・サルミネン
キャスト:アンドレ・ウィルム、カティ・オウティネン、ジャン=ピエール・ダルッサン、ブロンダン・ミゲル、エリナ・サロ、イヴリーヌ・ディディ

 

誰一人嫌な人が出てこない、まるで童話のようなヒューマンドラマ。

「物語のエッセンスの抽出のされ方がまるで童話的、という意味において」、と付け加えるべきかな。移民問題をこんな風に捉えるなんて今まで見たことない、と驚いてしまう。捉えられた移民の車の中から、ふと脱走してしまう一人の少年。翌日のニュースで、「移民の脱走!アルカイダか?」なんていう見出しが。移民問題にきゅうきゅうとしているあの国の、神経を逆なでしそうなこの物語は、「隣人を信用する、愛する、困っている者に手を差し伸べる」というシンプル極まりない教訓。そんな優しい物語に寄せて描かれる大人のファンタジーは、まるで一番大事なことを教えてもらったかのよう。見終わってとても温かい気持ちになった。

どこか忘れられたような小さな港町。全体に漂う暖かな色合いが、古い価値観の優しい人々と見事に調和している。古い電灯に、アナログレコード。今時使わないようなストーリー話法と昔ながらのカットつなぎ。「困った者を助ける。たったこれだけのことが、どうしてこんなに難しい世の中になったんだろう。」この物語の中には出てこない「ここで語られない思い」が逆にヒシヒシと胸に押し寄せてくる。

少年が困っているから助けようと、近所の誰に示し合わせた訳でもないのに、周りの皆はよく分かっていて、パンを差し伸べたり余り物を分けてくれたりする。警察は、ほんの少しだけルールを曲げてくれる。それと言うのも、信頼出来る人にマックスが良い人間かどうかを聞いたから。警察と言えど自分の信用する誰かを信用して、その判断を下している。ある意味、その人を信用する気持ちというものが成り立つ社会だから、それが出来るのだ。最後に起きる奇跡も、まるで童話そのもの。この最後に描かれた奇跡のおかげで、単に移民問題それだけではなく、人知を超えた人間の力そのものについて語っているのだ、と思うことができた。

社会って、こんな風に優しいもので居て欲しい。困っている者を排除するんでなく、助け合いが生きている社会。人々の善意を信じることの出来る世界。羨ましくてたまらなくなり、涙が止めどなく溢れた。映画も、こんなもので居て欲しい。優しくて人の温かさを感じるもの。画のつなぎ方も、優しげな色合いも、物語も。全てが好きで満ちている世界。

 

※ストーリー・・・
かつてパリでボヘミアン生活を送っていたマルセル・マックス。今はノルマンディーの港町ル・アーヴルで靴みがきを生業に、最愛の妻アルレッティと愛犬ライカと共に暮らしている。ある日、港に漂着したコンテナに乗ったアフリカからの不法移民たちが警察に検挙されるが、ただ1人逃げ出したコンゴの少年イドリッサと偶然出会ったマルセルは少年を匿う。が、同じ頃、アルレッティが病に倒れ、余命を宣告されてしまう。

 

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コメント(4件)

  1. とらねこさん、ご無沙汰しています。
    この映画ではアキ・カウリスマキの”ゆるぎない作風の強さ”を感じました。

    (チョット日本語変カシラ)
    ここまでお伽噺な話をイヤミなく見せてしまう手腕がすごいな、と。
    この物語をもしスピルバーグが撮ったら…(以下省略)

  2. moviepadさんへ

    こんばんは〜♪お久しぶりです!

    コメントありがとうございました。
    いやー、moviepadさんたらなかなか更新されないので、まだかーまだかーと待っておりました。

    て、この作品は私の方こそ「今頃」って感じですが^^;
    「揺るぎない作風」確かにそう。
    あー確かにスピルバーグが撮ったら…。私も正直、あの「良い話風」なところに、「ああ、またか」と興味を失ってしまいます。でもまあ、好きな人は好きですよね。

  3. とらねこさん、こんにちは!
    GWいかがお過ごしでしょうか~^^

    これ、やっと見れました。
    やっぱりカウリスマキ、好きだなぁ~って感じました。アナログ万歳!このゆるさ具合、色彩感覚、優しさ、良いですねー。

    とはいえ、ちょっとだけ、出来すぎかな・・・って思っちゃったので、4つ★にしてしまいました・・。

  4. latifaさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    おお、ご覧になりましたか!
    GWは香川〜大阪と旅行に行って来て、今日帰って来ましたよ。
    ヘトヘトですー。。latifaさんはいかがおすごしでしょうか^^

    この確固とした緩さ、俳優の面構え、どこをとってもカウリスマキの味わいですよね。
    ラストは確かに出来すぎのように思えるかもしれませんね。でも、私にはむしろこのラストのためにファンタジーレベルが一段引き上げられ、単なる寓話的という所見以上の物であり、物語における表現として考慮を要すべき事柄ではないか、と思うんですよ。




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