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113★残酷メルヘン 親指トムの冒険

’10年、フランス
原題:Le Petit Poucet
監督:マリナ・ドゥ・ヴァン
脚本:マリナ・ドゥ・ヴァン、ベルトラン・サンティーニ
製作:シルベット・フリードマン、ジャン=フランソワ・ルプティ
原作:シャルル・ペロー
撮影:バンサン・マチアス
音楽:アレクセイ・アイグイ
キャスト:ドニ・ラヴァン、アドリアン・ドゥ・ヴァン、レイチェル・アルディティ、バレリー・ダッシュウッド、イリアン・カラバー

なかなかありそうでなかった、残酷童話メルヘン物。

とても丁寧な作りの、よく出来たホラー・ファンタジーで、怖くはないけれど雰囲気がバッチリ。
「現代の童話」とでも言うべき、現実にどこか即した、リアリティのある怖さと、「うわあそんな」という現実から離れたファンタジー部分の、このフュージョン(融合)ぷりが素晴らしい。こういう映画が見たかったし、今後も作られればいいのになあと思ってしまうほど、大好きな分野でした。でも、この作品ほど完成度の高いものはなかなか望めない。それほど面白いのです。
(それなのにレイトショー限定公開だなんて、本当に残念!)

マリナ・ドゥ・ヴァンは、これまでオゾンの『8人の女たち』や『まぼろし』の脚本家で、さらに『イン・マイ・スキン』の監督兼脚本(出演も)もしていたのです!なんとっ。「さすが、良く練られたいい脚本だなあ」と思ったのですが、それも当然の出来だったのですね。ちなみに私『まぼろし』は大好きな作品(『イン・マイ・スキン』は結構怖いので、見る前に覚悟してからどうぞ)。
ここに挙げたどの作品も、全て脚本の完成度が相当なもので、どれも面白く、退屈をさせない驚くべき展開のものばかりだと思いませんか?

時代は、飢餓の蔓延する片田舎。トムとその4人兄弟の家族は、ひっそりと森に住んでいます。働いても次第に手に入る食べ物は減ってきて、仕方なしに父親は口減らしを考える・・・というストーリー。

何より、「食べる」という行為は、この本能こそが私達を生かしているんだ、と。当然分かってはいるけれども、普段改めて考えたりはしない。そんなことを再認識させられるホラーでした。家族たちは食べるためにウサギを殺そうとするが、その時に「太らせてからにしよう」と「長男の誕生日である、次の日曜日まで」待つことにします。この全く同じ台詞を、兄弟達は鬼に捕まった時に言われてしまう。「太らせてから食べよう」「末娘の誕生日の翌日の日曜まで」、と。彼らはこの間ウサギたちを「生きるために食べた」けれども、今度は自分たちが食べられる方に回る。

作品の中では、執拗に「食べる」行為が繰り返されます。
「食べること」は生命に結びついていて、食べられない危機は命を脅かすものであり、食べられるという恐怖も味わうことの出来るホラー。ここで描かれる「食べる」シーンが強烈であるのは、普段こうしたことに考えを巡らせない我々に、実感させるためかもしれません。
この飽食の時代に、本来自分たちの生活の最も身近なところに、ホラーの題材が転がっていたとは・・!本能に直結しているからこそ強烈な印象を与える。私は感激してしまいました。

前半の静かな中での緊張感とは打って変わって、後半はまるで「ドニ・ラヴァン・ショー!」彼の演技を見ているだけで、ものすごく面白かった。私、こういう癖のある親父の演技を、「もっとも美味しいもの」として堪能してしまう性癖があります。雨の中、家に帰る道すがら、ホクホクと幸せな気持ちで、ドニ・ラヴァンの演技を反芻してしまいました。

かさぶた一つを食べる時のあの表情とかね、常人じゃないし!

パンズ・ラビリンス』の残酷ファンタジー感とか、『ヘルボーイ』のロン・パールマンのCG要らずな鬼っぷりの好きな人には、きっと楽しめる本作だと思いますよ。

 

※ストーリー・・・
イギリスのとある田舎。5人兄弟の末っ子として生まれた親指トムは、大飢饉のあおりを受けて、両親に他の兄弟と共に森の奥に捨てられてしまう。森で迷ったトムたちは偶然にも立派なお屋敷にたどり着く。しかし、そこに住んでいたのは人喰い鬼だった・・・

 

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