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112★ル・コルビュジエの家

’09年、アルゼンチン
原題:El hombre de al lado
監督・撮影:ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン
脚本:アンドレス・ドゥプラット
製作:フェルナンド・ソコロウィッツ
音楽:セルヒオ・パンガロ
キャスト:ラファエル・スプレゲルブルド(レオナルド)、ダニエル・アラオス(ビクトル)、ユージェニス・アロンソ

これまた変わり種の物語だった。面白い!まず、見たことない映像に、聞いたことのない設定。何がどうなっていくか分からないストーリー展開。サスペンスタッチを期待していたのだけれど、そうしたサスペンスタッチの方が逆に「よくあるスタイル」に落ち着いているものなのだ。そうでなく、「よくあるサスペンスタッチ」でないからこそ、「一体何コレ?」って思わせる。だから余計、これを評価したくなってしまうの。うーん脱帽です。

それにしても、たったの103分の映画なのに、私にとっては、最初から感じていたストレスがかなり高いもので。まずファーストシーン、これ予告にも使われていたけれど、ここだけでグングンとストレスが上がるのを感じてしまった。画面を二分割に映し、片一方は壁を壊す映像、もう片一方は壊される映像。一回ハンマーで叩くごとに、壁がピキっと割れていく。とうとう穴が空いちゃった!「こんにちは〜」。こんなの見たことないですよね。

もし自分だったら!?と考えてしまい、相当参ってしまいました。私だったら、怒り狂ってしまいそう。ぽっかりと空いた穴から、いきなり隣人がニョキっと出てくる。見たくない悪夢です(笑)。凄い!穴が一箇所空いただけのこの恐怖!ミニマムな表現に悪夢を再現する、目の付け所が神だと思った。

普段、隣人同士で距離が近いからこそ、相手を憎んだり自分と比べたりするのだ、と気づいてしまう。壁によって見えない、向こう側の相手だからこそ、勝手に想像したり、変に疑心暗鬼が生まれたりもする。そのたった一枚の壁が壊れることが、いかにストレスを感じるものか!ギョッとして怖くなった。お隣の壁の一部が壊れるだけで、もう今まで当たり前に享受してきた社会生活が脅かされるなんて!

ここから先はとにかく、ストレス度の高い映像がドンドン続いてゆく。電話番号を教えてくれ!と言われるのもゾッとすれば、大体隣人のビクトルは顔が怖く、いかにも知性とは皆無の屈強な姿。姿を見るだけでも怖い。電話が鳴るのも嫌だし、一緒にバーに行くだなんてトンでもない!自分たちを監視していることを感じさせるのも、本当に虫唾が走る。何故レオナルドはすぐに法律的手段を取らないんだろう?と思ってしまった。

でも「日常と法律は違う」これ、まさにそうですよね。レオナルドは、相手が怖いからこそ余計、相手と上手くやって行く必要が生まれてしまったのかも。まさに「壁をブチ抜いた効果の賜物」?、FACE to FACEでやり取りが出来る相手なのかどうなのかを、相手は探ってきているのだから。

しかし、一旦決まったはずの取り決めの、目線より高い細長い窓を、レオナルドがビクトルに一方的に中止を宣言した時から、隣人ビクトルの要望が、それほど常識外れなものではなかったことに思い至る。「単にちょっとだけ陽の光が欲しいだけだ」というそれは一貫していたのだと。でも、その頃にはレオナルドの生活はすでに脅かされ、妻とは不仲になり、娘との関係性も表面化し、仕事は遅れるばかりになる。ル・コルビュジエという建物の立派さに誇りを持てば持つほど、そして自分の社会的成功や地位と隣人のそれとを考えてしまうと、平等の考えは到底思いつきもしないし、相手の権利を初めから考えていなかったのだと分かる。いくら妻の反対とは言え。「ル・コルビュジエの家」は、まるで彼らが初めから持っていた、自負の大きさだったのだなあ。

ラスト、ビクトルを助けないレオナルドの姿が。おそらく彼は自分をそんな人間だとは、物語の冒頭では思っていなかったに違いない。そんな皮肉な終わり方がステキです。とっても。

 

※ストーリー・・・
世界的な成功をおさめたデザイナー、レオナルドとその一家は、アメリカ大陸に唯一存在するル・コルビュジエのデザインした邸宅に住んでいた。そんなある朝、レオナルドはハンマーの破壊音で目覚め、隣人が我が家へ向けて窓を作ろうとしていることを知る・・・

 

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コメント(4件)

  1. これは年間ベストに入るか入らないかくらいの位置づけで迷ってます(笑)
    結構好きですよー私これ。 賃貸時代に住居問題でいろいろ隣人トラブルありましたから他人事じゃないです。
    賃貸なら引っ越せるけど買ったらそうはいかんもんね。

    かといって切ない願いの、この映画のおじさんの希望を全部シャットアウトする権利も、大邸宅の人にはないような気もするんだよね。。。

  2. rose_chocolatさんへ

    こちらにもありがとうございます♪

    これ良かったですよね!そうですか、ベストになりそうなほど!?そりゃすごいなあ。

    確かにすごく良く出来ていたと思います。変わった題材を変わった調理法してましたよね。私も好みです。

    そうなんですよ、ビクトルの希望は、実は決して望み過ぎではなかったんですよね。でも、印象が悪すぎて、そうは思えないという。

    この作品、最初っからすごいですが、ラストがまた凄いですよね。最後レオナルドはビクトルを見捨てましたよね。ちなみにビクトルは、近所だから、というだけで、一も二もなく助けに来る。




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