110★わたしたちの宣戦布告
’11年、フランス
原題:La guerre est declaree
監督:ヴァレリー・ドンゼッリ
脚本:ヴァレリー・ドンゼッリ、ジェレミー・エルカイム
撮影:セバスチャン・ブクマン
音楽:パスカル・マイヤール
キャスト:バレリー・ドンゼッリ、ジェレミー・エルカイム、セザール・デセック、ガブリエル・エルカイム
こうして映画の感想記事を、シコシコと6年間も書いていれば、さすがに思うところがあるんですよね。たとえば、レビューの文体を整え、きちんとしたレビューにしてみたくなったりする。でも、単に映画のあらすじを書いたり、基本情報を並べたり、文体を整えても、逆に映画の面白さが伝わらなくなっちゃう、と思うことがある。大事なことは、文を整えるより、映画の持つパワーや何やらを表現するために、いろいろと嗜好を凝らしていろいろな伝え方をすることが出来るんじゃないかと。映画の面白さに近づくために、文を整える以外のことをしてもいいんじゃないかって。ただの感想とは言え、好きで書いているのだからこそ、余計に。
映画を見て感じたことを自分なりに、自分の言葉で、生き生きと表現する。自分がどう思ったかを、自分のその時の心の動きや、いろいろ揺れ動いたこと。心が動いたことを、動いたままに書いたりする方が、読む方からしてみたらずっと面白いのではないか。つまり、「伝えたいこと」って、綺麗に整えただけの文では逆にこぼれ落ちるものがある。「こんな風に自分の思いを伝えたい」、そんなパワーがより熱く伝わってくることもままある。そんな風に思う。
何故この話をしたかというと、この作品のテイストがまさに、そんな風に熱く伝えられる物語のようだったから。「こんなことがあって、あんなこともあって・・・」。溢れる思いをそのまま、映画にしたような。監督が経験した事実であり、監督とそのパートナーが演じている。とことんパーソナルな物語である。ドキュメンタリー的でありながらも、事実をそのまま述べるのではなく、映像で語ろうとしている。作品として出来が良いかと言えば、必ずしもそうとは言えない。でも、事実をそのまま述べるのではなく、彼らが経験した思いを映像にする、このパワーに何より圧倒させられ、心が動かされてしまった。
途中、ジュリエットとロメオが向い合って歌を歌うシーンがあって、ここはとても変わっている。特に監督の方は、歌がそれほど上手くないため、音程はこれでいいのかと、ついつい注意深く聞いてしまうので、リラックスは出来なかった。また細胞のシーンを入れて不安感を煽ったりもするが、このシーンはもう少し少なめにしても良かったかもしれない。パーソナルな物語であるが故に、客観性からは遠くなり、そのために冗長になっている部分もある。おそらく、彼らの心のままに描いているせいだ。たとえば、それぞれの家族たちに告げるシーンがとても多かったり。
でも、そうしたこと全てのために、よりこの作品の溢れる思い、というものを感じることが出来た。客観性なんてそもそも、映画に必要なものだったっけ?違いますよね。むしろこの変わった作風に慣れ親しんでいった。勇気づけられもした。映画って自由なものなんだ。
一組の夫婦に突然起こった悲劇、幸せだった時期が全て嵐の中に引っ掻き回される有様が克明に描かれている。どんな人にも起こりうる物語だし、誰の身にも起こる物語なのだな、と。
いかにもプロらしい映像作品でなく、不慣れな手際が逆に彼らの思いの強さを表現する、稀有な魅力。
ただ一点だけ、この作品にかなり感動した私であるが、どうしても気になってしまう箇所があった。それは、2人の夫婦が煙草を吸うシーンが多すぎること。母乳をあげる時期にも、煙草吸う母の姿。あれはちょっと・・・。このため、せっかく感動している気持ちが、違うものに支配されてしまう。その代わり頭に思い浮かぶのは、あの海外で買うホラー煙草(知ってますか?胎児が奇形になっている写真や、肝臓が真っ黒になっている写真のついた、海外で買うと時々銘柄の半分に描かれている怖い煙草)の姿。「煙草を吸うとやはり胎児に影響があるんだ、発がん率も増えるんだ・・」そんなことばかり気になってしまう。煙草を吸うシーンは、いくつかのシーン毎に必ずと言っていいほど含まれていて、おかげでこのドキュメンタリーに感動する「難病を抱えた子供を持つことになってしまった、夫婦の絆が強まる姿」ばかりか、「煙草の怖さ」という別のメッセージが暗に含まれてしまうのだ。もし、これを裏テーマにしていないなら、この夫婦はあのシーンは控えるべきだったのではないか。別の話になっちゃうよね。
別の話と言えば、彼ら夫婦は一緒に脚本を書き、主演してはいるけれど、別れてしまったのね…。事実の苦々しさまでしっかり後味に残してくれた。その辺りにまた、複雑な別の物語があることを、感じさせながら。
※ストーリー・・・
ある日、運命のように出会ったロメオとジュリエット。ふたりは、息子アダムも生まれ幸せな日々を過ごしていた。しかし、アダムは、泣き止まず、歩こうとしない。ふたりは異常を感じ、病院にアダムを連れて行くと脳腫瘍であると診断されてしまう・・・
2012/12/10 | :ドキュメンタリー・実在人物 フランス映画, ヴァレリー・ドンゼッリ
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コメント(7件)
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子どもの前で煙草いっぱい吸ってる映画って未だにたくさんあるので、これはそんなに気にはならなかったですね。褒められたもんじゃないが(苦笑)
これね・・・。 幼児の親なら普通ならしないであろう方向への疾走感を描くのは斬新だと思ったけど、どうしても現実知っていると、彼らの行動をどこかふわふわしたものとして認識しちゃうんですよね。
そこがそう受け止められるかもしれないとわかっていてこれを作ったのなら、ファンタジーとしては完成形に近いと思います。
彼らも元夫婦であり実子もいるんだから、そのリアル感を消し去ったのか、それとも完璧に彼らのリアルとして作ったのかはわからないけどね。
rose_chocolatさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
roseさんもご覧になったのね。
そうかー、roseさんはタバコのシーンは気になりませんでしたか。
いやあ、「子供の前で」ばかりではなく、「妊娠前と、妊娠中と、幼児期も」でしょう?喫煙は母体と胎児の健康に深刻な被害を及ぼしますし、ましてやお子さんがなってしまった病気が癌ですからね。(ちなみに、外国のタバコにはハッキリそう書いてあるものもあります)。無関係とは言えないんじゃないかと思ってしまうんですよ…。ちょっとねえ、見過ごせなくなってしまいましたね。
妊娠時の私の友人なんかでは、タバコを吸う人の居る喫茶店やレストランには、行かないようにしている人も居ます。さすがにそれは気にし過ぎとは思うんですけど。
とは言え疾走感のある、リアルなファンタジーのようでもありましたよね。この辺がこの作品の魅力かな。
彼らの実体験から脚本を起こし、監督自身が元夫と協力して作り上げた作品ですからね、説得力も違いますよね。
あと、ラストに出てきた子供は彼ら自身の子供だとのことです。右半分麻痺ではありましたけど、元気だとのことですし、とっても可愛い子でした!
TBつかないので貼っておきますね。
http://blog.goo.ne.jp/rose_chocolat/e/d68bbb45c363e4e69dffa0ebbbfde4f4
rose_chocolatさんへ
あ!ごめんなさい。TB反映されてなかったんですね。
どうやら反映されたようです。ご迷惑をおかけしました。
とらねこさんへ。
実は、「わたしたちの宣戦布告」
(本作はまだ札幌には来ていませんが)
貴記事の前段拝読いたしまして、
ブログ記事のあり方に関しての記述、
私めの考え方とかなりマッチング
しておりましたのでぜひにと。
そうです!その通りなんです!
なぜに整えねばならんのか。
確かに公に披露しているわけですから
最大公約数視点、意識せざるを得ないのは
これ致し方ない。
しかし。
「キミはこの映画でなにを感じたか!」
読んで下さる聡い人々は↑コレが
知りたい!読みたいのだ!
と、私は信じ結論づけて早や8年か、
いや9年か、いや忘れましたが(笑)
その観点、自分の観方はコレだ!の
精神でいわば書きなぐって(笑)おります。
vivajijiさんへ
こんばんは。コメントありがとうございました!
(コメントシステムではお手数をおかけし申し訳ありませんでした)。
ブログ記事の書き方について誰かと話をするのはすごく久々なので、とっても新鮮で嬉しいです!
なんだか、vivajijiさんのブログの魅力の“秘密”が分かったような。貴重なお話ありがとうございます♪
>「キミはこの映画でなにを感じたか!」
分かります、分かります。
私も、誰かのブログを読む時は、映画のあらすじとか全く飛ばしてしまって、「感想」の部分だけしか読んでないんですよね。
なんだか、感情を巧妙に隠して、上手に整えたつもりの文だと
とっても物足りなさを感じてしまいます。
vivajijiさんのブログがとても力強いのは、本当にご本人の魅力や芸達者さ!?だなあ、と思いました。
8年、9年も続いてらっしゃるんですね。おそらく、読者の皆さんは
vivajijiさんがどう感じたかを読みに来られているのだなあ。と思います。
そういうのって素敵ですね。