108★ライク・サムワン・イン・ラブ
’12年、日本、フランス
原題:Like Someone in Love
監督・脚本:アッバス・キアロスタミ
プロデューサー:堀越謙三、マリン・カルミッツ
撮影:柳島克己
キャスト:奥野匡(タカシ)、高梨臨(明子)、加瀬亮(ノリアキ)、でんでん、森レイ子、
大堀こういち
タイトルから想像するような物語でも、エラ・フィッツジェラルドの同名の主題歌「Like Someone in Love」(劇中とエンドロールの二度かかる)から想像するような、恋の物語とは大分違ったけれど。そこがまた、ビターテイストな大人の味。ちょっとした演出から、それぞれの登場人物の輪郭が浮かび上がってくる。まるで映画との出会いが、行き当たりばったりの偶然な出会いであるかのように。もしかして本当に半分、脚本無しの俳優のアドリブで作られてるんじゃないだろうか。だってこの臨場感だもの。前作の『トスカーナの贋作』ほどの傑作ではなく、さらに日本が舞台であるということで、ある程度退屈してしまった部分はあった気もする。でも自分なりに反芻することは、なかなか楽しめた。
元大学教授のタカシは、奥さんが亡くなって以来、寂しい一人暮らしを送っていた様子。「教鸚」の絵を部屋に飾っていたのはおそらく、この絵の女性が亡き妻に似ているから。そして、この絵に似ていると言われる明子も、亡き妻におそらくは似ているのだろうな。彼女が来る前から、彼女の出身地の海老のスープを準備して待っていたなんて、彼女に対する思い入れが特別であると分かる。デートクラブでバイトをする明子は、そんなバイトを2年もしながら、「ムカデの結婚のジョーク」のオチの意味が分からない。あれはどういう意味だったんだろう。時々そういう、プッツンでユーモアセンスの無い女の子っているけれど、おそらくは、「自分のやることの意味がまだ良く分かっていない子」ぐらいの意味なのかな。
明子の現在の彼氏、ノリアキを登場させる距離感がなかなか良かった。まずはじめに電話越しの相手。かなりしつこい性格で、(トイレのタイルの数さえ数えさせる)この電話の明子のやり取りを聞いていて、ウンザリさせられた。居るよね、そういうシツコイ性格の彼氏。初登場は大学の入り口のところで。車の窓ガラスのフレーム越しに遠目に眺める。この彼が、だんだんと近づいてくる。この距離感がいい。火を借りるため助手席のウィンドウを開けさせ、その後隣の席に座る。私だったらこの時点で、こういう男とはお近づきには絶対なりたくないタイプなのだけれど、こちらは老人であるが故に、変に構えず話をする気になれたのは、自然なことにも映る。「相手が嘘を言いそうなことは、初めから訊かないようにする。これは経験によるもの」とか、「相手が嘘を言っていると思っても、それを受け入れる」などなど。老人がノリアキに言った話は、長年に渡り、夫婦関係を上手にやって来た人の、賢者の台詞だなあ、と思った。
ところでこの俳優の演技を見ていて、脚本はラフに書かれてるんだろうか、という疑問が湧いた。ある程度の脚本があり、あとは役者がアドリブで演技をし、台詞も自分なりに話しているように思えたんですよね。正直に言えば、同じ台詞を無駄に役者が繰り返したり、繰り返し同じ演技をするところは、自分は退屈してしまい、わざとらしさを感じて疲れた。キーポイントとなる台詞を渡されたら、そればっかり喋ってしまう退屈さ、俳優ならではの力量に任されたが故の台詞の不完全さを感じてしまったので。たとえば、明子役の高梨臨の演技は、とても見辛く感じた。でも、加瀬亮の演技、これがあったから私には退屈せずに済んだ。彼の演技は、ピタっとハマって納得の行く出来。奥野匡の台詞もさすがは年の功、すごく良かったし台詞も強烈で心に残った。加瀬亮は『アウトレイジ・ビヨンド』を見てすぐこちらを見たためか余計、ブチ切れ演技を恐ろしく思えてしまって。それに、『海炭市叙景』でも彼、DV旦那の役をやっていたし。いやあ、『永遠の僕たち』といい、『アウトレイジ・ビヨンド』での忘れられない死に方といい、今年は加瀬亮のステップアップの年だったように思えました。今後がますます楽しみ!
※ストーリー・・・
元大学教授のタカシは、デートクラブを介して亡き妻に似た明子を家に呼ぶ。明子は女子大生で、家族に内緒でデートクラブでバイトしていた。そんな翌朝、明子の様子を見に来た恋人・ノリアキは、タカシのことを明子の祖父と勘違いしてしまい・・・
2012/12/08 | :ヒューマンドラマ アッバス・キアロスタミ, 加瀬亮
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
美容師にハマりストーカーに変身する主婦・常盤貴子 『だれかの木琴』
お気に入りの美容師を探すのって、私にとってはちょっぴり大事なことだった...
記事を読む
-
-
『日本のいちばん長い日』で終戦記念日を迎えた
今年も新文芸坐にて、反戦映画祭に行ってきた。 3年連続。 個人的に、終...
記事を読む
コメント(3件)
前の記事: 107★WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々
次の記事: 109★ロラックスおじさんの秘密の種
ノリアキは、というか加瀬くんの役全般的に言えることなんだけど、暴力的なものが多いですよね。
ぱっと見は普通の人なんだけど実は身内には激しい暴力で支配する、みたいな。
今回もそれを感じました。
私も知らない人には例えば「火を貸して」以上の近づきはご免被りたいので、車には乗せたくないですね。
前作よりも私はこちらの方が好きなんですよね。前作もこちらも人物にある程度の不快感を持たせるのが目的なのでしょう。高梨さん、私はこれには合ってたと思ったんですけど、こうなると好みの問題もあるのかな。ちょっとシロウトっぽさを抜かないでいるところなど、よかったです。
rose_chocolatさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
あ、加瀬くんの役が暴力的、と言ったら可哀相だったかな。熱意と狂気を心の奥に秘めている…これって、役者としてはすごくいい素質だと思います!私の大好きな『永遠の僕たち』では違ったけど。
そうそう、不審に思った彼が近づいてきて「火を貸して」と言ったシーンは、すごくハラハラしちゃいましたね。
高梨さんのシーン、割と見ている者にフラストレーションを与えるシーンが多いんですよね。例えば、冒頭の電話のシーン。彼女の行動を疑っているらしい、嫉妬深い彼氏とのやり取り、これがかなりシツコイんですよね。それから、おばあちゃんの留守電、何故せっかく田舎から出てきたおばあちゃんと会わずに友人と飲んでいるんだ、っていう。彼女も素直ないい子という訳ではないんですよね。彼氏が不審に思うのも分かる。あと、やりたくない仕事をさせるでんでんとのやり取りも。あれほど嫌だと言っているのに、寝不足にもかかわらず、無理やり仕事に行かせようとする。明日はテストだったのに。
『ライク・サムワン・イン・ラブ』
ライク・サムワン・イン・ラブ
元大学教授とデートクラブで働く女子大生
自称 彼女の恋人である青年の3人を中心に愛を描く…
【個人評価:★★☆ (2.5P)】 (自宅鑑賞)
日・…