104★この空の花 長岡花火物語
’11年、日本
監督:大林宣彦
脚本:長谷川孝治、大林宣彦
撮影:加藤雄大、三本木久城他
編集:大林宣彦、三本木久城
キャスト:松雪泰子、高嶋政宏、原田夏希、猪股南、笹野高史、富司純子
なんだか今年見た日本映画は、面白いものが多かったなあと思う。今回のこの作品も、それほど期待してはおらず、単に「長岡の花火が好きだから、ちょっと見てみようかな」程度の知識で観に行っただけ。
まさか、こんな作品が出てくるとは夢にも思わず、感激してしまった。
震災をテーマにした作品は、私にはなかなか納得が行かなそう。
震災のことに関しては、まだまだ終わっているとは言えないし、ロクに考えずに世に出す作品はあまり見たくない。
こちらの作品も正直、「復興がテーマ」と謳われていると知ったら、自分は見に行かなかったかもしれない。
でも、この作品は全く違った。もっとたくさんの事を広く現在の日本を、歴史と共に捉え直そう。そんな勢いを感じた。
今日本に住んでいる人には、絶対見て欲しい作品。
大林宣彦監督という、大御所の監督の作品でありながら、ミニシアター系扱い、というこの扱いの小ささ。
こんなに凄い作品なのに、シネコンではこれがかからないなんて。
これほど「日本人が、今見るべき」邦画なんて他にあるの?
じゃあ出来の良い作品か、と言われると全く逆なのです。
情報過多、詰め込みすぎ、台詞多すぎ。台詞の臭さや大仰さ、演出が気になれば、
せわしないカットも、トンデモない編集の仕方も。ナレーションはそれほど好きではないし・・。
全くもって好みとは言えませんでした。「劇映画」に慣れた私には。
それでも、この作品をこんなに評価する理由は、そんなつまらない「映画の基本」なんかより、
作品の持つバイブレーションの圧倒的な熱さ。これに尽きる。
物語を「伝えたい」情熱の素晴らしさ、溢れ出る思い。
こんなのめったに感じられないよ!
この映画には言いたいことがたっくさんあるんですよね。
震災も、原発も、戦争も、歴史も、長岡も、長崎さえ、全てが繋がって私達の世界を形成してる。
過去と、現在と、未来と。親と、友人と、もう一度会いたい人。
そうしたことの一切が繋がって、
まるで『時をかける少女』のように、物語が時空を駆け巡る。
めくるめく魂の冒険
「劇映画」でまるでないのは、当然の話で、何故ならこの作品は、
ドキュメンタリーにフィクションが入り混じり、ゴッチャゴッチャにかき混ぜられ、
同時に表現としては、「演劇的ダイナミズムさ」でもって「映画」を形成しようとしているからなのです。
こんなものが、劇映画である訳がないんですよ!!
私達の今感じているリアルに、伝えたい事実をつなぎ合わせるために、
「想像力」というものが使われている。
途中から、フィクションとドキュメンタリー、それすら超えて、
歴史も現実も霊界も全てを総動員して、私達の住む「日本」に突き付ける。
メッセージを届けるための演劇的ダイナミズムは、途中に演劇作品を入れているから、ばかりでなく、
この物語全体からはみ出る「身体性」からそれと感じることが出来るのです。
この物語の混沌とした感じは、私には唐組を思い出しちゃいましたね。
演劇の身体性は元より、フィクションに「人間の想像力」が殴りこみをかけ、その隙間を破らんとする辺りが。
この作品の凄いところは、最後の大団円に、「長岡の花火大会」とその驚くべき事実(ノンフィクション)、
あの圧倒的な日本一の花火が、それをドドーンと飾っているところなのです。
そうそう、私、長岡の花火については、元々大好き。仕事で何度も行ったばかりでなく、プライベートでも行ったことがありました。
「長岡の花火大会は日本一」というのは、私は昔からずっと言い続けていて、 他の花火大会、特に東京など都会の花火大会しか見たことのない人は、想像もつかないぐらい、花火のスケールが凄いのです。
たとえ、良席でなくても、ゴロンとテキトウにその辺の芝生の上から見てもいいし、長生橋付近の橋から歩きながら眺めてもいい。
とにかく、一度でいいから長岡の花火を観に行って欲しいな。
この作品を見た人は、長岡の花火の背景に、こんな物語があったことや、市長の観光誘致でない」発言に感激したと思うのですが、
長岡の花火を見れば、その感激は、何十倍にもなっちゃいます。本当に凄いんだから。
この作品も絶対見て欲しいけど、長岡の花火も、一度は是非本物を観に行って欲しい!
長岡の花火大会は毎年8月の2日と3日。曜日は全く関係無く、毎年この日程でやってます。
東京からだと旅行会社の日帰りツアーなんかも出ているし、新幹線代高いし面倒だなあという人は、ツアーに参加するのもありかもしれない。是非どうぞ!
※ストーリー・・・
地方紙記者の遠藤玲子は、新潟県長岡市で教師をする昔の恋人・片山健一から、生徒が創作した舞台と花火を見てほしいという手紙を受け取り、導かれるように長岡を訪れる。中越地震を乗り越え復興し、東日本大震災の被災者を迅速に受け入れた同地の様子を、新聞記者として取材したい思いのあった玲子は、行く先々で出逢う人々と、数々の不思議な体験を重ねてゆく。そしてそのほとんどが、実際に起きた長岡の歴史と織り合わさっていた・・・
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コメント(13件)
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これ、多摩映画祭で最後に見た、、、かなり早めに寝ちゃって、ストーリーわかんねーまんま。大林宣彦監督って 『大林宣彦』 ってジャンルですよね。時をかける少女の最後のガチャガチャした画面とか、あれなんつーの? 手法。誰もやってないじゃんあんなの。みたいな画面が、まだ現役でしたね。爆弾のアニメ処理とか、カッコいいし。窓の向こうの景色がわざわざはめこんであったり。ちょっとゴダールっぽい感じもした(つまんないとことか)。
本人さんの受賞スピーチが、これまた映画に負けないくらい長かったんだが、もうニッコニコでね、やさし~口調ではなされてるのに、ずーっと説教されてるみたいで。オレなんかぜんぜん映画のこと、好きでもなんでもないんだなぁ、この人に比べたら、、、って、反省した。いまでもこの映画の脚本、直してるっていってたし。
ウラヤマアンドさんへ
おはようございます〜♪コメントありがとうございました。
いい話!ありがとう!
そうそう、これこないだ多摩映画祭でやってたよね。何の映画がかかるのかと賞を誰が取るのかについては、何気にしっかりチェックしてたよ。前田敦子が女優賞取ってたのが残念ぷー。それだけでどうでもいい映画祭になっちゃうのにね。
君はこれ、最初の方から寝ちゃったのね。分かる気はする。私も物語出だし付近、かなり退屈だった・・。でも、それさえ乗り越えればなかなか面白くなってくるんだけどな。残念。
なんだか狂った作品でした。本当、ジャンル「大林宣彦」としか言いようがないクレイジーさですよね。今度、立川談志のドキュメンタリーをやるんだけど、ちょっと興味ある・・。
でも、スピーチがすごく長かったのね。いいなあ、私もそれ聞きたかった。映画愛に溢れるスピーチだったのか。
あ、ウラヤマさんも観てたんだ。この映画。そいであんましわかんなかったんだ。ぷぷぷ。まあわたしもいろいろわかんなかったんだけどね! まあそのわけわかんないところが痛快な映画でありました。今年はここまでぶっとんだ洋画にお目にかかれなかったし。
長岡の花火は観光のためじゃなく鎮魂のため、という言葉にじい~んと来ましたよ。いつか見てみたいっすね、長岡花火。上越新幹線で行けばいいのかな?
SGA屋伍一さんへ
こんばんは〜。コメントありがとうございました。
そんなに分からないかな?確かに時流が交差したり、たくさんの要素が混じってるからね。
難解なテイストではないし、上手に説明してるように思えたんだけど。
でも確かに、ぶっとんではいるw。
そう、長岡の花火は本当に素晴らしいんですよ。鎮魂のためって、すごく感動しちゃいました。「商売じゃない」って市長がハッキリ言うところが好きで。
長岡も、長岡の花火も余計好きになって、あそこがまた感激しちゃった。
そう、上越新幹線で言って長岡へそのまんま。昔って、直江津から乗り換えなきゃ行けなかったけど、今だとそのまんま行けるのね。
そう、これは私も花火のドキュメンタリーと思って危うく見逃す所。
ところが実際に観たら、とんでもなく凄い映画で、圧倒されてしまいました。
これは大林宣彦という元祖映像の魔術師にしか撮れない映画で、74歳の老巨匠からの日本への遺言(というにはパワフルすぎるけど)みたいな作品でした。
間違いなく今年の邦画を代表する一本です。
ノラネコさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
本当とんでもない映画でした。なんだか常識を超えていて、このいろんなことをピョ~ンと飛び越える感じが逆に気持ち良かったです。
大林宣彦監督の熱い思いが伝わってきて、何度も頬を熱い涙が・・。
感激しました。遺言という言葉が本当にピッタリで、頷いてしまいました。
今年の邦画は『桐島』が最高だ!と思っていたのですけれども、その桐島と同じくらいか、超えるぐらいに気に入ってしまいましたよ。
今年見逃した1本です。行けてなくて。
どっかでやらないかなあ。。。
rose_chocolatさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
いやあ、そう言ってもらえると嬉しい。でも私も遅くに書きすぎですよねえ・・。来年からは反省致します><
観てきましたよ!
何と3月に奇跡的に映画祭があったのです。ここ逃したらもう劇場で観れないと思い、必死で(!)行って来たー。
この映画、私も正直好きなタイプじゃないんです。というかこれが大林作品なんでしょうがないのですけどね。
ほんとに詰め込み過ぎなんですよ(笑) だけど、このくらいイントロを長くしないとぜーんぶ語れませんから!って言われてるようでした。
日本人は反省だの総括だのをしない国民ですよね。第2次大戦もそうでした。そして今回の福島もそうなるんです。だからこれは、例えばの話ですが、毎週1回全国の映画館で上映する時間を設けて、どこでも見に行けるようにしないといけないくらいなんです。そうじゃないと日本人はすぐに忘れます。否、忘れさせようとしている人たちもいるのです。忘れてはいけない、たったそれだけのことなのです。
私はAKBのシングル「So Long!」DVDを先に観てからこっちだったんですけど、とらねこさんもしご興味あったらAKBの方もご覧いただけるといいと思います。
「So Long!」DVDだけ見ると単なるキワモノ?と思いがちなんですけど、両方見てみると、これも立派な長岡物語だったんですよね。監督の想いがひしひしと来ますよ。
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
わーい!roseさん、ご覧になれたんですね。良かった!
私も好みのタイプではないんです。でも、言い方が悪かったかな。だって、大好きな映画でしたもん!
あの熱さにすごく感激しましたし、「映画はこうでなくちゃ」とすら思えました…。2012年の邦画のナンバー1はこれにしました!
>ほんとに詰め込み過ぎなんですよ(笑) だけど、このくらいイントロを長くしないとぜーんぶ語れませんから!って言われてるようでした。
おっしゃる通りだと思います。こういう映画があったっていいし、映画の文法が一つじゃなくたって、それをぶち壊していたって構わない。
映画って自由なんだなあ、って思えて、後から後から泣けてきました…。
>日本人は反省だの総括だのをしない国民ですよね。第2次大戦もそうでした。そして今回の福島もそうなるんです。
これですよね。だから戦争を語っていても、戦争だけを語っていたのではいけないんですね。私達の全てを語る必要がある。
すごく納得出来るやり方だったと思います。
この作品とAKBのドキュメンタリーとで、AKBが先に来ちゃったんですね、roseさんてば(笑)
なんて珍しい!
ただ、申し訳ないんですが、AKBには全く興味が無いから、見ることはないかも…。
AKB関連のニュースも本当にうんざりするばかりです。ごめんなさい。