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83★鍵泥棒のメソッド

’12年、日本
監督・脚本:内田けんじ
エグゼクティブプロデューサー:藤本款、和田倉和利
プロデューサー:深瀬和美、赤城聡他
撮影:佐光朗
音楽:田中ユウスケ
主題歌:吉井和哉
キャスト:堺雅人、香川照之、広末涼子、荒川良々、森口瑤子

内田けんじクオリティの高さは相変わらず。

練に練られた脚本で、これまでのどの作品(『運命じゃない人』、『アフタースクール』)も全て圧倒的な面白さを誇る、安心の内田けんじ作品。劇場に安心して見に行けることの素晴らしさったら。

今回は以前より、少し分かりやすくなって、その分よりコメディっぽさが加味されている印象が強い。
このコメディ部分を主に牽引するのは堺雅人で、彼の演技では「振られた元カノにもらった写真を見て泣く」というシーンですら、思わず笑いが出てしまうほど。それにビッグヒートな香川さんが加わると、何が起こってもおかしくない、パルプンテ効果で、より目が離せないものになってしまう。

これまで、私は内田けんじ作品は、凝りに凝った脚本のため、構成ばかりに目が行って、本編をリラックスして楽しむ余裕が足りなかった。二度見れば、二回目は楽しめるのだけれど、一度目は大体、脚本の構成のことばかり考えてしまう。

今回は、より意図的に“間”が設けられていたように思えた。絶妙なポイントで仕掛けてくる台詞の一つひとつが際立っているため、この“間”によって、より可笑しく感じてしまう。まさに内田的絶妙な匙加減。この“少し長い間”のおかげで、不思議なことに、真面目に喋る香川さんの台詞でも、思わず笑い出してしまう。

何より、「香川さんの演技を堪能する」作品としても際立っていた。香川さんはあれほどの演技上手にもかかわらず、意外に「これぞ、香川さんの魅力が満載」という作品が思いつかない。今回のこの作品は、香川さんの二面性が際立っていて、それだけで何度でも美味しくいただける作品になっていた。

竹中直人がちょくちょく外すのを見て分かるように、フザケた演技はうざいだけで、実はあまり面白く感じない。香川さんの濃さはフザケてしまったが最後、竹中直人状態になりそうだ。あの「悲壮感のハンパない顔」のままで面白く感じるには、「トコトン真面目に演じきること」なんだなあと、今回の作品を見て大きく頷いた。思うに、悲壮感のある顔そのままで、可笑しさがこみ上げる俳優というと、スティーブ・ブシェミが居るけれど。香川さんがブシェミっぽい不思議なコメディ感を身につけるには、もしかしたら、歯並びの悪さと甲高い声が必要なのかもしれない。

真面目な顔をした香川さんが、オールバックの髪型でネルシャツを着て「35歳、らしいです」という台詞だけで噴き出してしまうし、正座してお弁当をつついたり、ご飯を食べながら自分のメモを取る香川さんが、最高にイイ。「私の知り合いに、なっていただけますか?」という台詞も、意外と今までの邦画で一度も聞いたことのない台詞だよね。私は思わず感心してしまった。

堺雅人は、今回は少しオーバーアクティング気味。後半、特に彼の人となりがバレた後の演技は、時々鼻についてしまった。特に、香川さんの役どころが演技達者っぷりを発揮し出した後、堺雅人がずっと「キョドったスタイル」なので、少しテンポが悪く感じてしまう。一方、広末涼子は、その真面目顔が怖いせいか、硬直した演技が見ていて疲れた。「やればやるほど不器用さを感じる、真面目な子」という設定だ。

堺雅人のオーバーアクティングと、広末涼子の演技の不自由さとの間で、縦横無尽に彩りを変える香川さんが、もう圧巻だ。

内田けんじ作品では、ついついサスペンス展開や、脚本の見事さばかりに目が行ってしまうけれど、今回もまた、優れた脚本の合間に、人の心を捉える「フック」、テーマとなるべき事柄が混じり合い、より味わいを添えている。才能のないダメ人間と、努力する人の人生、それから婚活女性を描き、「いくつになっても人生は変えられる」と肯定的なメッセージが、それとなく伝えられる。

また、「全ての伏線を必ず回収する」テクニシャンぶりが、とても心地良い。「30過ぎたら胸キュンは感じなくなる。婚活を始めた途端、胸キュンレーダーが壊れてしまう」との台詞(真実だと思う!)から、ラストの「胸キュン」シーン、これも実はテーマに何気なく繋がっていてニクい。タイトルロール後に、も一つ胸キュンが表現されていたりね。

 

※ストーリー・・・
貧乏役者の桜井は自殺を考えたが失敗し、銭湯に行き、羽振りのよさそうな男が転倒し頭を強打し気絶するのを目撃。そのどさくさに紛れて、鍵を自分のものと取り換え、彼になりすます事にする。がしかし、その男は伝説の殺し屋、コンドウだった。桜井は彼をコンドウだと思い込んでいるチンピラに殺しの大金の絡んだ危ない仕事を受けるハメに…。一方、婚活中の香苗は記憶喪失で途方に暮れているコンドウに出会い好意を抱くが…。

 

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コメント(7件)

  1. 確かに、香川照久って出まくってるけど、これぞという代表作が思いつかないかも。
    これは正しく彼の映画になってましたね。

    愛すべきキャラクターたちの愛すべき物語。
    実に幸せな二時間でした。

  2. ノラネコさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    この作品は香川さんの魅力が充分に堪能出来る作品で、大満足でした。
    これまでのストーリー・構成重視から、キャラクター重視でやってみた、という感じですよね。
    キャラクター描写と役者の演技って切り離せないですね。

  3. あれ・・・・コメント出来なかったかな・・・
    う~~ん、、、困った・・・。
    もし出来てなかったら、残念です・・

  4. latifaさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    なんだか、latifaさん、とっても苦労されたようで・・スイマセンでした!
    でも、苦労しながらもわざわざ来てくださって、本当にありがとうございます!とっても嬉しいですー。

    latifaさんもどうやら結構気に入られた様子ですね!わーい^^
    そうそう、「私の知り合いになっていただけますか?」って台詞、すごく珍しいですよね。
    香川さんの演技は、上手いが故に何となく可笑しい台詞で、この感じがすごくハマってて良かったです。歌舞伎でもおそらく凄いのでしょうけど、映画の俳優としての呼吸がきちんとハマっていて、すごく良かったです。
    演出なんかも内田けんじ監督は完璧なんでしょうね♪

  5. あっ、2回目のが投稿されましたね。
    最初の分、コピペしておいたんだ~^^良かったー☆
    貼り付けまーす。

    とらねこさん、こんにちは!!

    今、旦那のファイヤーフォックスから書き込みしています^^

    この映画、凄く面白かったです。
    やっぱり内田監督は凄いなぁ~って思いました。
    でも、とらねこさんのおっしゃる通り・・・↓こういう傾向はありますね。
    >凝りに凝った脚本のため、本編をリラックスして楽しむ余裕が足りなかった。二度見れば、二回目は楽しめるのだけれど

    >「私の知り合いに、なっていただけますか?」という台詞も、意外と今までの邦画で一度も聞いたことのない台詞だよね。私は思わず感心してしまった。

    そう言われればそうでした。

    私も劇場で見ているとき、うわっ、このセリフ新鮮・・・って思った事を思い出しました^^

    香川さんって歌舞伎の方もやって、こういう映画などでも活躍されていて、本当に凄い方だー。

  6. こんばんは。
    内田監督なので楽しみでしたが、期待通りの作品でしたね。
    まさか伝説の殺し屋の正体があんなんだとは思いませんでした。
    でも、映画の中の云われようとかで「ふってる」んですよね。
    いきなり塩を舐めたり、何でそんな雑誌? なのもきっちり後で回収してくれるなんて流石です。
    僕もキュンキュン警報鳴らしたいです。

  7. 健太郎さんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    ですね!期待通りの良作でした。
    殺し屋の実の姿。少しづつ分かるのですが、頑張り屋さんでもあり、その上もうひとひねりあって…本当に上手い脚本でしたね。
    そうそう、回収の仕方が何より素敵。
    キュンキュン警報良かったですよねー!
    なんだかいくつになっても胸キュンもあるし、人はガラっと変われるんだよ。そんなメッセージのように感じたりして、とても温かい気持ちになれました。




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