73★風水
’12年、中国
原題:Feng Shui / 万箭穿心
監督:ワン・ジン
脚本:ウー・ナン
原作:ファン・ファン『万箭穿心』
撮影監督:リウ・ヨウニエン
音楽:ヤン・スーリー
キャスト:イエン・ビンイエン、ジアオ・ガン、チェン・ガン
こちらの中国の作品は、TIFFで作品出品が取りやめになるだの、監督が来日しないだのと、上映前にTVのニュースですら取り上げられた、お騒がせ作品。いろいろと難航したけれども、TIFFなら最後まで諦めず、出来るだけ上映する方向で戦ってくれるに違いないと、信じていました。結果、Q&Aセッションのために監督その他の来日が実現することは出来なかったけれど、ちゃんと上映されることになり、ホッとした。そんな経緯から私もつい見たくなってしまったのが理由だったのだけれど、本当に見て良かった、見た後からもジワジワと考えてしまう、なかなか素晴らしい作品。私のお気に入りです。
これ、見ながらいろいろな疑問が湧くんですよね。まずお母さんの描き方が、偽悪的なところが気になってしまう。冒頭のシーンから一貫して「最悪に嫌な女」。「こんな女と結婚したら、さぞかし旦那は大変だろうな」と、家の引越し業者にすら言われてしまう。でも、こういう人って居るよね。旦那にとってはさぞかし、家の中が地獄なんだろうと。そして、離婚出来ずにいる旦那は、どんな思いで居るのだろう、なんて。これって、全世界共通なのではないかと思うわけです。中国だけでなく。
気の弱い旦那は、いつしか家の中で居場所がなくなっていく。不倫をするが見つかり、妻が警察に通報したせいで、旦那は主任から作業員へと降格される。本当はしたかった離婚も妻の奸計により邪魔される。家庭には居場所がなく、旦那は結果的に自殺をしてしまう。旦那がいなくなった後、女手ひとつで息子を育てるため、これまでの洋服屋の店員を辞め、運び屋になる。体力仕事をする内に、肌は焼け美貌は失ってしまう。しかし、大学に受かった息子より、突然復讐される。育てた自分の息子から、家を追い出されてしまうのだ。父親の自殺の原因が知りたくて、父親の本心を知った息子。母親はようやく家を出る時になって、はじめに彼が離婚したいと言い出した時に初めて反省する。「もしあの時素直に離婚していれば、みんな幸せに暮らせたかもしれない」、と。
わざと嫌な女の一生が描かれているわけです。こういうの興味深いんですよね。思わず、モーパッサンの『女の一生』を思い出す。あの彼女とはまた違うタイプだけれど、嫌な女でもって、観客にバーンと問いかけている。こういう試みは面白い。最悪に嫌なヒロインのどうしようもない一生。意外と無いよね。(嫌われ松子もそれほど嫌な女ではないし。)
偽悪的に描かれてはいるが、よく考えると憎めない部分もあるんですよね、この母親。自分を犠牲にして、強い心で子供を育てた、ここだけは評価されるべき。彼女は何度も間違いを犯したかもしれないけれど、「こうなってはいけない」という悪い見本。人の気持ちを踏みにじったり、思わず嫌なことを人にしてしまったりする。でもこういうのって、意外と誰にでも思い当たる節があるよね。かくいう私もその一人w。自分で自分の性格の悪さは、なかなか自覚はしないけれど。ああ、ごめんなさい、私が悪いんですー。こうならないようにしなくっちゃ。人生の最後に反省したって遅いんだからね。などといろいろ考えることの出来る、いい作品でした。
P.S.ラスト、変なヤクザに救われて良かった。彼女が今後、多少は幸せになれる。そんな確信が出来るところも好き。
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
美容師にハマりストーカーに変身する主婦・常盤貴子 『だれかの木琴』
お気に入りの美容師を探すのって、私にとってはちょっぴり大事なことだった...
記事を読む
-
-
『日本のいちばん長い日』で終戦記念日を迎えた
今年も新文芸坐にて、反戦映画祭に行ってきた。 3年連続。 個人的に、終...
記事を読む
前の記事: 72★シージャック
次の記事: 74★ゴア・ゴア・ガールズ
コメント