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61★ディクテーター 身元不明でニューヨーク

’12年、アメリカ
原題:the Dictator
監督:ラリー・チャールズ
脚本・製作:サシャ・バロン・コーエン、アレック・バーグ他
製作総指揮:ピーター・ベイナム、マリ・ジョーウィンクラー=イオフレダ
撮影:ローレンス・シャー
音楽:エラン・バロン・コーエン
キャスト:サシャ・バロン・コーエン、アンナ・ファリス、ベン・キングズレー、ジェイソン・マンツォー、ジョン・C・ライリー、ミーガン・フォックス

知的でかつ下品という、彼独特のコメディスタイル。今回は決定版です!これまでサシャ・バロン・コーエンが苦手だった人にも、是非チャレンジして欲しい作品。面白さがこれまでより、分かりやすくなっているところがポイント!

今作は、これまでのサシャ作品(『ボラット〜』&『ブルーノ』)と違って、突撃ドキュメンタリー路線ではなく、きっちりフィクション仕立て。ストーリーが初めからあり、物語が起承転結に従ってちゃんと進むなんて、驚いてしまいましたよ。いわば、ハリウッド式!?何より、物語の決着をきちんと落としているという、ここに驚いた。

これまでのスタイルとは違うとは言え、作品のテイストを損ねていたり、サシャらしさが無くなることは全くない。監督は、初作品から同じラリー・チャールズで、かつサシャが脚本書いてるので当然と言えば当然なのですけどネ。

今回の笑いが分かりやすいのは、物語に含まれる笑いの、圧倒的テンポの良さ。あれこれ場面が代わり、コント仕立てな寸劇が入るのだけれど、切り替えが早くて、ネタの繰り返しが必要以上に何度も行われたりしない。だから見やすいのですよネ。私が、「今回が一番の傑作!」と言う理由は、ここなんです。

「ディクテーター」と言う意味を調べた人にはすぐ分かるであろう、元ネタはチャップリンの『独裁者』。私は勉強不足でまだ見てないんですけど(今度見ておきま〜す)、ストーリーを調べると、ボディ・ダブルを使う「入れ替えモノ」。喜劇で「入れ替えモノ」というのは、シェイクスピアの時代から使われるスタイルなので、何もかもチャップリンを引き合いに出すつもりはないけれども、明らかにタイトルで今作が『独裁者』にオマージュを捧げているのは見てとれる。

それにしてもまあ、今のこの時代に、「独裁者」をネタにする。この危険度の高さ!この目の付け所が、圧倒的知性の裏付けがあるから。最後まで見ると分かるようになってます。

相変わらず、ブラック・ユーモアを通り越して、猛毒ユーモア!満載です。知的だなんだと言ってますケド、お笑いはやっぱり下品のシュガー・コーティング(!?)が思いっきりかけられている。さらに、相変わらずタブーにドカドカと土足で(クロックスのサンダルで!?)踏み込んでいる、濃い内容のお馬鹿ギャグ。相変わらずチ●コも尻も出し、ゲイネタもありーの。圧倒されるお下劣ギャグは健在!・・・まっ、それが無きゃサシャじゃない。

ラストのスピーチ、ここで一気に畳み掛けてくる。この長いスピーチで話される内容はすべて、アメリカのことを差していますよね!アメリカ経済の格差問題、戦争を仕掛けること、医療制度、銀行の問題、etc・・・。「“独裁者”は何も個人とは限らない、“独裁的国家”であるかもしれない」。独裁者をネタにジョークにしているようで、もちろんそれもジョークではあるのだけれど、この表現にはちゃんとその裏もあったんですよ。ここが一番のポイントなんですよね。ドキュメンタリーのように言いたいことをそのままに言葉にすることなしに、作品の内容でシンボライズされ、言いたいことが伝わるようになっている。立派な映画作品が持つ、テーマ性が見事に存在している。だから私は最高傑作だと言いたいのです。

この作品、エジプトやアラブその他中東諸国等10カ国で、上映が禁止されているらしい。(ソースはコチラ)それを聞いてガッカリしてしまいました。この作品は何も、中東はじめアラブ諸国を笑う作品ではない、むしろそれを笑う人達を笑う作品なのに!でもこのニュース、悔しいばかりじゃありません。『ボラット 栄光なるカザフスタンのためのアメリカ文化学習』でさんざんネタにされた、カザフスタンがこの作品は全世界と同時上映し、大ヒットしているんだそうで!カザフスタンの人々は分かってくれたのね!嬉しいなあ〜。

日本においては、中国の反日暴動事件が相次ぐ中、アメリカにとっては同時に、各国で反米騒動が起こっているという現実が。そのキッカケとなったのも、『Innocence of Muslims』という腹立たしい短編映画のせいだ。イスラム世界に対する彼らの偏見は、まさにサシャ・バロン・コーエンがジョークの中でスッパ抜いたことと同じ。毎度毎度、タブーへと挑戦し続けるバロン・コーエン。アメリカ人がまさに持っている、アラブ諸国に対する偏見やタブー、これに誰よりも早く鋭く切り込みを入れたサシャ。もう偏見というレベルで笑っては済まされない時代が来るのかもしれないけれど。

ここまで尖った作品はなかなか無い。いろいろ言ってしまったけれど、何より笑いがちゃんと面白いので、是非是非見て欲しいよ〜!

 

※ストーリー・・・
ワディヤ共和国の将軍アラジーンは、ある日、国連サミットに出席するためニューヨークを訪れる。しかし、そこで何者かに拉致され、ヒゲをそられてしまう。そして、将軍の威厳を失ったアラジーンは、反撃の機会を狙い、スーパーの店員として潜伏することに・・・

ディクテーター 身元不明でニューヨーク@ぴあ映画生活

 

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コメント(1件)

  1. ディクテーター 身元不明でニューヨーク

    14 : 名無シネマ@上映中[sage] : 2012/09/07(金) 18:13:30.82 ID:l3ZQavUc今年のギャグ映画で一番笑った。客入りは続けて見た最強のふたりの5分の1以下だったけど笑い所での場内の一体感はこっ …




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