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55★最強のふたり

’11年、フランス
原題:Intochables
監督・脚本:エリック・トレダノ、オリビエ・ナカシュ
キャスト:フランソワ・クリュゼ、オマール・シー、オドレイ・フルーロ、アンヌ・ル・ニ

こちらの作品、観客動員数の最多フランス映画に、最近なったらしい。『アメリ』を抜いて。

物語の冒頭が鮮やかで素晴らしい。まるでアクション物に見まごうようなカーチェイスから始まる。捕まった時には、スリル満点に追手を巻いたり。ヒューマンドラマの感動物を期待して見たはずなのに、アッサリと裏切られる冒頭。もし前情報について何も知らずに見たら、というのは私がいつもそうなのだが、二人の関係性が一体どんなものなのか、よく分からないぐらいだ。何故彼らはこのような状況なのだろう?さらに言えば、どちらが介護する方でどちらがされる方なのかも、判明つかず・・。(車のシーンは下半身が映らない、だからすぐに見分けがつかない。)

そして、まず初めに疑問を抱くのが、彼ら二人はちっとも、よくある被介護者と介護人でないこと。何故だろう?大きな疑問符が浮かんでしまう。この疑問符を、物語の中で観客それぞれが納得してゆくこと。このプロセスが、物語の肝になっているようだ。

そもそも、何故彼らが、対等な関係と成り得るのか。スラム街出身のドリスは、周りの環境に引きずられて、なかなかマトモに働くことが出来なかったこと。全てを持っていて自信満々な紳士に見えるフィリップも、女性に対する遠慮から、その一歩がどうしても踏み出せなかったこと・・。嫌味なく語られる物語の中に、次第に引きずりこまれる。

主人公は二人のどちらだろう?あるいは、彼ら両方なのかもしれない。初めから介護などサラサラする気のなかったドリスが“介護人”として来るまで、フィリップの雇い入れる人は皆一週間と持たなかった、という。正直、ドリスの介護の仕方は、まるきり丁寧さが足りなくて、今にも取り返しのつかないひどいミスをしでかしそうだった。見ていてヒヤヒヤするぐらい。あんな介護があるんだろうか・・と、開いた口のふさがらないようなトンデモ介護。何故かフィリップは彼を気に入っているけれども、あけすけな口の聞き方一つ、介護の際の手際一つを取ってみても、何故彼がお気に入りなのかと、初めは頭をひねりたくなる。

でも、フィリップにとってはそここそが問題だったのだ。コワレモノのような扱いを受けることが、彼にとってはきっと嫌なことだったんだろう。飾らずに真っ直ぐ、本音で話し合える人。話をしていて退屈しない人?(笑)何より、心からの友人を求めていたのだろうな、と思う。本当に対等な関係を。

この作品が何より素晴らしいのは、描き方が粋であること。これに尽きる。一切の無駄な説明や、ヒューマン・ドラマのテイストの物語が、ベースに持っているようなジメジメした葛藤や悩み。そうした“本来あるべき面倒くささ”が、全然しないことだ。カラっとした軽快なコメディのように、二人の掛け合いを楽しむことが出来る。

ただ、 だからこそ少し物足りなくもある。綺麗なものだけでキュッとパッケージングしたような印象を持ってしまった。物語が描こうとする部分がとても美しい部分で、とても分かりやすい。でもそればかりではなくて、描くものの中から、「ついはみ出してしまう何か」を私は期待してしまう。「はみ出す何か」だなんてとても抽象的だが、一言に言えば「等身大の人間の持つ人間臭さ」であるかもしれない。去年見たイタリアの、やはり事実を元にした『人生、ここにあり!』のような、「事実の凄み」。噛み切れない事実の重みがあった方が、より物語に膨らみがあったように思う。

 

※ストーリー・・・
事故で全身麻酔となった大富豪フィリップの介護者選びの面接に、スラム街出身の黒人青年ドリスが現れる。しかも、彼は失業保険をもらいたいがために不採用を望んでいた。しかしフィリップは、他の者と違って自分に同情しないドリスを雇うことを決め・・・

最強のふたり@ぴあ映画生活

 

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コメント(10件)

  1. そう“粋”だよねえ。確かに突き抜ける物はないんだけど、凄くセンスの良い人たちが作ったよくできた映画。
    誰にでも自信をもってオススメできる映画って案外無いです。
    大ヒットしてるのもこれは納得。

  2. ノラネコさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    本当、粋の一言ですよねー。センスが最高に良かったですよネ。
    韓流ドラマみたいな面倒臭い展開の苦手な私には、スカッとするものがありました。
    ただ、私はアメリの方が好きですわ〜。アメリの記録を抜かさないで欲しかった(爆

  3. 『人生、ここにあり!』は昨年スルーしちゃってて今年のEU Film Daysでようやくキャッチ出来ました。これはシリアスでしたね。シリアスというよりもどうしようもない現実でした。
    確かにそれに比べたらこちらは少々おとぎ話っぽいかな?
    「お話」として、浮世のあれやこれやを忘れたい時にはこれはいいと思いました。

  4. rose_chocolatさんへ

    こちらにもありがとうございます〜♪
    『人生、ここにあり!』はすごく気に入って、去年のベスト10に入れたんですよ〜、私。確かにシリアスですけど、すごくポジティブな後味ですよね。今思い出しても、胸がいっぱいになるぐらい好き。
    でも、この作品も良かったと思いますよ〜




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