50★テイク・ディス・ワルツ
’11年、カナダ
原題:Take This Waltz
監督・脚本:サラ・ポーリー
製作:スーザン・キャバン、サラ・ポーリー
撮影:リュック・モンテペリエ
キャスト:ミシェル・ウィリアムズ、セス・ローゲン、ルーク・カービー、サラ・シルバーマン
あどけない中にもさりげなく毒の効いた、女の怖い本音の話。
予告を見た瞬間から、「これはきっと私の嫌いなタイプの映画だぞ」という予感がバシバシだったんですよね。とは言え、去年人の心を気持よく引き割いてくれた、『ブルー・バレンタイン』を思い出させる作品ではある。ミシェル・ウィリアムズが出ている、うまくいっていない若夫婦の話。・・・というだけの共通点にも関わらず、何となくこれだけで釣られてしまう。見たい気持ちと、見たくない気持ちとの葛藤の中で揺れていた。
サラ・ポーリー。私にとって彼女は、『死ぬまでにしたい10のこと』という、アルモドバルプロデュースの作品で感動させた次に、『ドーン・オブ・ザ・デッド』(好き!)に出演して度肝を抜いた、変わり者って感じだ。その後、同イザベル・コイシェ監督の似たようなテイストの女性っぽい作品『あなたになら言える秘密のこと』に出た後に、またもや『スプライス』(大好き!!!!!)に戻ってくるという・・・。何なんだろうこのループw。女優として幅を持たせるために、同じような作品に出演しないようにしているのだろう、とは思うのだけれど、女性っぽい作品に出るのかホラーに出たいのか、どっちつかずの人、というのもちょっと珍しいよな。・・という認識の人ではありました。
物語冒頭の早い段階では、ミシェル・ウィリアムズをはじめ、女優たちの赤裸々なシャワーシーンがある。男性から見れば、ミシェル・ウィリアムズのオールヌードに目がいくかもしれない。しかし私に言わせれば、全く違うメッセージを含んだシーンだ。それは、「サラ・ポーリーには監督としての手腕があり、女優たちに安心感を抱かせ、このシーンが成り立っている」ということ。女優たちも彼女に監督としての信頼を置いている、その成果があのシャワーシーンなのだ。また同時に、監督の「女性を等身大に描きますよ」というメッセージが詰まってもいる。ふーむ、これは良さそうだぞ、と思わず座り直したくなる冒頭だった。
マーゴとルーは、子供が居ないながらも仲睦まじい夫婦生活を送っている。二人だけに通じる可笑しなユーモアセンス、意味不明な子供っぽいやり取り。この辺りはとてもリアリティがあって、「あれは私たち自身の姿だ」、と思う観客も多いかもしれない。あるいは、「自分たちの一番いい時代」を見ているかのように思うかも。それは、コミュニケーションがとても上手くいっている、理想的な夫婦像だった。
ただ一点、曇りもある。マーゴが子供を欲しがっているマーゴに対して、ルーはまだその気持になれずにいる。これは、目で見て分かる夫婦の齟齬の姿。しかし、マーゴの持つ、どこか落ち着かない気持ち。これは、男に理解を求めることの出来る類の感情だっただろうか?この落ち着かなさは、ダニエルに会った時から始まっている。
「倦怠期」というテーマは、幸せな結婚を内部からじわじわと蝕む、病だ。実は相当に深刻な問題である。どんなに幸福だった結婚も、「時間」というものには勝てず、夫婦生活も長くなると、新鮮さを保つことがどんどん難しくなっていく。「新しいものも結局は古くなる」。ラストで愕然とさせるシーンがあり、驚く人も多かったと思うが、実は全く同じことを冒頭のシャワーシーンで、他の女性によってサラっと言わせていたのだ。このキレの良さ、私は好きでしたね。
以下、ネタバレで語ります。
以下、ネタバレ*************************************************************
マーゴというヒロインを、あどけない天使のような存在として描く理由。私は、世の女性が心の奥底では隠し持っている願望を描くためであると思えた。ルーのような完璧な旦那を持ちながらも、惹かれてしまうのは、魅力的で女性の心を捉えるのが上手な、ダニエルのような存在。「安心」とは正反対の「新鮮な冒険」に、同時に女は心を惹かれるという事実。よく出来た人格の女性であろうと、「妻」として在るより、「ただの女」として翻弄されてみたいという葛藤。それがたとえ良くないことであったとしても。たとえば、私などは、韓流アイドルにハマるおばさまは、自分の願望を幻想化し、分かりやすく目に入るアイドルや韓流スターに投影しているのだろう、と思ったりしている。時代によってそれが『光源氏物語』であったり、ハーレクイン・ロマンスであったり、韓流スターだったりするように、妄想の世界の欲望の姿は、分かりやすく形を変える。
退屈な現実から逃れる愛の逃避行。それはある種、主婦の見る果てしない理想の一つであるように思えた。思わず冒険へと手を伸ばすか、それとも理想は理想、として目をつむり、退屈な現実に戻ってくるか。結局「新しいものは古くなる」へと戻ってくるラストは、毒気たっぷり、ほろ苦い後味のラストは、なかなかに納得のいく仕上がりだった。
「女は安定を求め、男は冒険を求める」。よく言われる一般的な物言いとは真逆のお話。この作品が男性から嫌われるのも当然ですわ。女が、ビッチでもないのに別の男の元に走ったら、そら男性は気に食わないわな。
「Video Kills the Radio Star♪」
この曲がポップに流れるシーンがなんだか忘れられない。古いものが新しいものに取って代わったところで、結局同じものなんですよね。
※ストーリー・・・
結婚して5年目を迎えるマーゴとルーは、仲睦まじく暮らしていた。昔のように激しい恋愛感情こそ消えていたが、穏やかな愛情を育んでいた。そんな中、マーゴは、仕事で訪れた島でルーと正反対のタイプであるダニエルという青年に出逢い、惹かれてしまう・・・
2012/09/06 | :ヒューマンドラマ サラ・ポーリー, セス・ローゲン, ミシェル・ウィリアムズ
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コメント(16件)
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サラ・ポーリー。 哀生龍が彼女をしっかり認識したのは「go」でした。 苦手な顔立ちだな、と言う印象が強かったので(苦笑)
>「女性を等身大に描きますよ」というメッセージが詰まってもいる
変に美化して綺麗に撮ろうとしていないからこそ、同年代の女性には身近に・リアルに感じられるのかもしれないですね。
このシャワーシーンでも会話が、物凄く印象深かったです。
サラ・ポーリーはまだ若いのに、中高年女性にこんな事を言わせられるのかと。
>「新しいものも結局は古くなる」。
心の中で、「いつか思い知ればいい!!」と彼女に対して思ってしまった、酷い哀生龍です。
哀生龍さんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
『go』って結構面白い、変わった映画でしたよね。もう一度見たいなあ。
私は、彼女の出演作では『イグジステンス』辺りで気づいても良さそうなのに、その時は名前を覚えませんでした。
彼女ってまだ33歳なんですね!もっといってるかと思った。
あのシャワーシーンは印象的でしたよね。「女性たちが裸で本音を語り合う」・・そんな風に台本に書いてあったとしても、あそこまで裸をさらけ出すのには勇気がいるだろうに、すごいなあ・・と驚いたシーンでした。
>心の中で、「いつか思い知ればいい!!」と彼女に対して思ってしまった
自分が誰かにしたことは、いつか周り回って自分に戻ってくる。
私もそう思います。この作品は、その部分は書かれていないというか。鋭いなあと感心する部分もある作品でしたが、全体的には女性に都合がいい描き方だな〜なんて。
新しいものを求めても、結局は同じ…なのかどうかと思うから、求めちゃうんでしょうかねえ。
なんだか分かるんです、その気持ち。自分の奥さんだったら困るけど!
ボーさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
>新しいものを求めても、結局は同じ…なのかどうか
日本の表現でも、「誰と結婚したって同じ!」みたいな言い方ありますよね。私は違うと思います。そう思うのも、まだ私が悟りの境地に入れていないからなのかしら。
字幕には「新しいものを求めても結局は同じ」とあるのでしたっけ?記事文中に書いた「新しいものも古くなる」というのは、英語の表現を訳した言い方で、こういう台詞だったのでした。「新しいものも結局同じ」なのと、「新しいものも古くなる」では、弱冠ニュアンスが違うと思いません?
そうね、あのシャワーシーンが伏線でした。うっかりすると聞き逃すセリフだけどね。
結局人間の本質ってその人が持っている者に帰結するというか、常に常に何かしらに満足できなければ永遠にそこからは逃れられない、という呪縛の法則みたいなものを提示したサラ・ポーリー。
いやはや、参りましたでござるよ。。
rose_chocolatさんへ
こちらにもありがとうございます〜♪
あのシャワーシーン、サラリとしたいい伏線ですよね。伏線は変にもったいぶっていない方が好みです。
>結局人間の本質ってその人が持っている者に帰結するというか、常に常に何かしらに満足できなければ永遠にそこからは逃れられない、という呪縛の法則みたいなものを提示した
なるほど、roseさんがおっしゃるのは自己の意識のあり方ですよね。私も、幸せがどこから来るかを考えたら、己の意識からと思います。
マーゴは別の愛を選んだ結果、その新しい愛から醒めたことを彼女自身も分かっていて、たとえそうだとしても、彼女は変わらずのうのうと生きていくのだと捉えました。
私は、恋愛結婚をした多くの女性の皆が心の内で隠し持っている感情(一度目であれ二度目であれ)、という風に解釈したので、roseさんが記事に書かれたような「彼女に鉄槌が下っている」という解釈とは少し違うかもしれません。
マーゴは、自分のそうした冷静な感情を表面に出すのは、自分にとって不利なこと、とよく分かっていて、そうした思いを外に出さないようにすることの出来る、「自然な計算の出来る女性」だと思いました。狡猾なのか、ナチュラル愛され女なのかは、後者であるように描かれていると思います。だから余計罪が深い・・。
とらねこさん、こんにちは~。TBありがとうございました。遅ればせながらウェディングおめでとうございます。いいね~、マチュピチュ。行ってみたい。
この映画ですが、私はもうイライラしました。特にバーでの会話のシーンで、、「早く寝ろ!」って(爆)。あのシャワーシーンには、いろんな意味が込められてると思ったなぁ。。会話ももちろんですが、おばちゃん(おばあちゃん?)たちも映してましたよね。人間、年とりゃ誰でもこうなるんだよ、ってことかなあと思いました。
あと、夫婦間で子どもに対する気持ちが食い違うとやっぱり厳しいですね。まぁ、マーゴはきっと子どもを産んでも、「子どもなんか産むんじゃなかった」と思うと思いますが・・・。結局、無いものねだりなんですよね。実は私もそうなんですけど(笑)。
真紅さんへ
こんばんは〜♪お久しぶりです。お祝いコメントもありがとうございました。
旅日記も読んでくださってありがとうございます〜。なんだか相変わらずすごく長〜い旅日記になっちゃってますが。飽きずに読んでくださったら嬉しいです〜。
あ、バーの会話がイライラしちゃったんですね。なるほどw
私の場合は、なんか分かる気がしちゃいました。簡単に寝るだけの関係を作ってしまうのは「つまらない」と思ってしまうタイプだからかもしれませんがw。体じゃなくて相手の「心」が欲しかったら、欲しいものをそのまま与えるだけって芸がないなって。
やっぱり無いものねだりなのかもしれませんよねえ。マーゴの気持ち、分からないでもないんですけど、ああやってても解決なんかしないと思うんですが。セス・ローガン本当可哀相でしたね。
もしかすると、旦那や自分のパートナーを大事にする人ほど、この映画ってダメなのかもしれないなあ。なんて考えています。
おはようございます 連投します
>予告を見た瞬間から、「これはきっと私の嫌いなタイプの映画だぞ」という予感がバシバシだったんですよ
自分も全くそーゆーのがバシバシだったし「誰やこのぶっさいくな女は?! なんでこんな奴がヒロインやねん!!」と思ってましたもんで 行きませんでしたが
そーですか ミシェル・ウィリアムズさんだったのですね
そーですか それは どないかせんとあきませんね
そーですか
>「倦怠期」というテーマは、幸せな結婚を内部からじわじわと蝕む、病だ。実は相当に深刻な問題である。どんなに幸福だった結婚も、「時間」というものには勝てず、夫婦生活も長くなると、新鮮さを保つことがどんどん難しくなっていく。「新しいものも結局は古くなる」。
それはダイジョウブと思いますよ 「倦怠期」は早いうちにくるケースもあるし
通り越して 離婚とかを決意しまくっても なんとかなっちゃうこともあるし
夫婦関係は親子関係よりオモシロイと思います
それより この映画なんとかしないとね
すんませんでした
よしはらさんへ
こちらにもありがとうございます〜♪いいですねー、たまには連投も…^^*
ミシェル・ウィリアムズさんを評して「ちょっとブス入っていて、なんかいいなあ」っていう感想笑いましたw。
私も初めは彼女、『ブロークバック・マウンテン』で見たんですけど、ヒース・レジャーが彼女と結婚してたんですが、「この人になんで騙されちゃったの?!」と愕然としました。
特に初めて見ると、本当おっしゃる通り「ちょっとブス入った人」にしか見えないですよね!なーんて自分のことは棚に上げまくりですけど…。
これが何故か、見ている内に次第に綺麗に見えてくるんだから、目って不思議です…!
結婚についての男女の話、倦怠期の話など、聞かせてくださって本当に嬉しいです。
何かあっても上手いこと乗り越えていけたらいいなあ、と思ってます。夫婦生活って一人で出来ないことだし、解決方法も何通りにもありそうで。でも私も上手いこと乗り越えていけたらいいな。
今後もこの話、もっともっと話させてくださーい♪
ただ、この作品なんですけど、これまた劇薬系ではあるんですね。これ勧めて大丈夫かなあ…。
『ブルーバレンタイン』は2011年のNo.1劇薬映画だったんですが、この作品がこれまた2012年の劇薬映画(後からジワジワ系)なんですよね。
でも、人によっては絶賛されているし、どちらもその年のベスト10に入れてる人が多い2作なので、きっと見て損はないと思いまっせ〜!