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40★きっと ここが帰る場所

’11年、イタリア・フランス・アイルランド
原題:This Must be the Place
監督: パオロ・ソレンティーノ
脚本: パオロ・ソレンティーノ、ウンベルト・コンタレッロ
撮影: ルカ・ビガッツィ
キャスト:ショーン・ペン、フランシス・マクドーマンド、ジャド・ハーシュ、イブ・ヒューソン、ケリー・コンドン

「ロードムービー」、もしくは「自分探し」。このキーワードって、10代・20代にしか似合わないものだ、とどこかで思ってしまっていた。飽くことなく渇望する人たち、未だその手に何も手にしていない、未来ある若者のためテーマだ、とばかり思っていたけれど。いくつになっても人って「成長」するものなんだ、変われるものなんだ。そんな風に思えた。ゆるゆるなロードムービーが、不思議と心地よく心に沁み入る。

主人公は、50を過ぎ、くたびれた見た目の元ロッカー。見える全てを手に入れ、でも生きるための欲望をあまり持ってはいない、もぬけの殻のような存在。作品の底辺に流れるのは、どこか悲しげな、鬱を患っている初老の男。ミュージシャンというより、ドラッグクイーンにすら見えるその容貌。つまり、ロードムービーの主役に据えるには、あまりに不似合いな人物に思えた。

初め自分はどこか、この主人公シャイアンに対して、見た目で判断するような気持ちがあったのだろうと思う。かつての音楽好きである私にとっても、「老いた」ミュージシャンは、正直あまり興味なくて。音楽は反抗する若者のためのものでいいし、「Die Young」、むしろ、27歳で死んだ人たちの方が伝説で格好いいじゃんと思っていたり。「じわじわ生きながらえるぐらいなら、パッと燃え尽きた方がずっとマシだ。」これ、誰の台詞を引用したって、カートが言ってたっけ?

でも、この作品は全然違った。人生の意味を、その人生の終わりにふと考える。これ、誰もに訪れる瞬間なのだろうと思う。ショーン・ペンの演技はとても心に沁みる。大好きな年上の友人のような気持ちになって、応援してあげたくなった。不思議と心温かくなり、涙で画面が見えなくなる瞬間もあった。シャイアンはむしろ、普通の人々よりずっとマトモな感覚を持った、とても温かい人物なんだ、ってことが次第に分かってくる。

強引に物語が進む訳でもなく、ゆっくり生きる彼のペースに合わせて、ゆっくりと進んでいく。変容していくのも少しづつではあるけれど、勇気を出して彼が進んで行くその道筋を、温かい気持ちで見続けたくなった。

「息子に会いたい」の意味が分かるラストも、胸打たれる良いシーン。ただ、シャイアンは正直、いつもの姿の方が魅力的だと思うけれど。

 

※ストーリー・・・
かつて人気ミュージシャンだったシャイアンは、今やその見る影もなく、妻とひっそりと暮らしていた。そんな彼の元に、ある日、30年も会ってない父から危篤の知らせが届く。彼はすぐに父の元を目指すが、時はすでに遅く、死に目に会うことは叶わず・・・

きっと ここが帰る場所@ぴあ映画生活

 

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