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33★深紅の愛 DEEP CRIMSON

’96年、フランス、メキシコ
原題:Carmin Profond
監督 :アルトゥーロ・リプステイン
製作 :ミゲル・ネコチャ、パオロ・バルバチャノ
製作総指揮 :ティナ・ロンバルド
キャスト:レヒナ・オロスコ、ダニエル・ヒメネス・カチョ、マリサ・パレデス、パトリシア・レイス・スピンドラ、ジュリエッタ・エグロア

 

こんなに痛々しい物語を私は知らない。出てくる人たちは皆惨めな人生を送る人たちばかり。どうしようもない女にどうしようもない男。リアルで痛々しくて、なのに最後には胸を掻きむしられる、とても切ない物語。馬鹿な話なのに、憎めそうにない。忘れられない映画にまた一つ、出会えた。

まず、女の輝かしい時期というものをとっくにすぎた、とうのたった子持ちのデブ女が登場する。とても絵になるとは言いがたいファーストシーンだ。次に登場するのは、女の孤独を食い物にしている、ケチな詐欺師の男。男は、女の容姿を見て一度は引き返すものの、暇潰しだか何かの気まぐれだか、思わず女を抱いてしまう。男は本当はハゲなのだが、女との情事のために、カツラをかぶって現れる。女はこのハゲとの一度の情事で、なんと子供を捨てることを決め、男についていくことを決心する。ここでまず、観客は女の常識や倫理観を疑う。この映画、大丈夫なんだろうか、と。

女は、子供を捨てたそればかりか、彼の詐欺を手伝うことすら決めて、車に乗り始める。男は頭痛のため頭を掻きむしる。するとヅラがズレてしまい、痛々しいコメディになる。この瞬間の男のあまりの格好悪さがすごい。実は男と女はどっちもどっちだ。

これはトンでもないロードムービーになりそうだ。「世間とのズレ」は、物語が進めば進むほど加速してゆき、それに連れ孤立している彼らの、世間との溝もどんどん広がってゆく。醜い女とどうしようもない男の、クズ以下のラブストーリー。アウトサイダーも極まれり。こういうのって誰も見たことないんじゃないのか。そう思ったら、なんだか燃えて来てしまった。この映画は面白そうだ!あのハゲヅラを見て皆笑ってしまうが、なんだか笑えないものも腹の底に感じる。この闇っぷりがたまらない。とても痛そうだけど、とても目が離せない。

二人の詐欺っぷりも本当に最悪だった。詐欺の標的に選ぶのは、孤独で惨めな女たちばかり。いかにも簡単に騙せそうなオールドミスたちばかりを狙う。彼女たちの話がまた、どうしようもない気持ちにさせらるんだ。人生の盛りを過ぎ、孤独で、なのに金も無くて。無い無いづくし。こんな可哀相な人間たちを、平気で狙うなんて、いや、彼女たちの話を聞いて何とも思わないなんて、どうなってるんだろう。そう思った瞬間に、このヒロインの女・コラルは、もっと信じられない行動に出る。詐欺師の男・ニコラス(ハゲヅラを途中で無くしたりする)が優しくしたりした、などというクダラナイ理由で、この可哀相なオールドミスたちを殺しまくる。冷水を浴びせかけられたみたいな、どうしうようもない気持ちになったのは久しぶりだった。こんな可哀相な惨めな女たちに、なんと嫉妬しているなんて!ヒロインの心理がまるで共感からかけ離れていて、もはや驚くやらショックやら。

警察に捕まり、銃殺される彼らは、世間に背を向け水たまりの中をどんどん歩んでゆく。処刑される瞬間、手を繋いで、「今が一番僕たちはシアワセなんだ」というニコラス。ニコラスは、常識を超えて自分を必死で愛してくれるコラルに、次第に本気で惚れていく。自分のために犯罪を犯し、人殺しをするコラルを、「自分をここまで愛してくれるなんて」と、ニコラスの愛は深まっていくのだ。つまり、世間や常識とのズレが、広がれば広がるほど逆に、彼らの縁はよりいっそう強固なものになっていく。

「普段の人の到達出来ない、愛情の果て」へ彼らは到達したのだ。世間には背を向け、後ろから射殺され、顔から水たまりに突っ伏して死ぬことになっても。すごい「幸せの境地」だと思いませんか。

 

P.S・・・そうそう、これって’70年の『ハネムーン・キラーズ』のリメイクだったのね。実際にあった事件を元にしたとか。私は、’07年に公開の『ロンリー・ハート』という、ハリウッド製の出来の悪いリメイクでこの事件を知った。ストーリーが「ロンリー・ハート」に似てるなあ、と思いきや、この『深紅の愛〜』自体もリメイク。ああ、『ハネムーン・キラーズ』も見れば良かった!今度機会があったら絶対見たい。

 

※ストーリー・・・
看護婦のコラルは、文通で知り合ったニコラスに恋をする。ところが、彼は結婚詐欺師で元妻を殺害したことも判明。だが彼女は全く動じず、子供を捨てて詐欺の相棒となる・・・

深紅の愛・DEEP CRIMSON@ぴあ映画生活

 

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