32★先生を流産させる会
’11年、日本
監督・脚本・製作: 内藤瑛亮
脚本協力: 佐野真規、松久育紀、渡辺あい
撮影: 穴原浩祐
キャスト:宮田亜紀、小林香織、高良弥夢、竹森菜々瀬、相場涼乃
このおっかないタイトル!実際にあった事件を映画化したばかりじゃなく、タイトルにまで持ってくるこのセンスが凄すぎる。公開前からだいぶネットでは吹き上がる人も居たり、相当な祭りになっていたけれど。この度胸。開けてみれば今作は、すごくキレのいい、心底邪悪で背筋の凍る話だった。以下、ネタバレです。
これ実は、予告を見た時から相当期待してたんですよ。音楽の使い方といい、タイトルの出し方といい、センスの賜物としか思えない映像といい、これは絶対見る!と思っていたのでした。まあ正直なところ、予告編を見ただけで大体の内容から、どう展開するかまで全部分かってしまったし、こういうのは本当にどうかと思うけれど。それでもほんの一瞬の画で、あの寒々しい恐ろしい画。全編見たらどんなものが撮れてるんだろうと、すでに期待に胸高まっていたのでした。きっと、私のように思っていた人も多いはずだと思う。
まあ正直、物語としては想定内ではあった。もう少し突っ込んで深みを出してくれていたら、絶賛したくなっていたけれど、描きたいことがものすごくシンプルにまとまって、かつ印象深い画を描くことに成功している。エピソードの積み上げ方も好き。かなり気に入りましたね。
実際にあった出来事は、男子生徒で、それを映画で女子生徒に変えてしまったことは、私も初めは疑問に思っていた。でもこうして見てみると、女子生徒だからこそより深く陰湿で、より不気味に感じさせるのに成功していた。これらの理由づけとして、中学の女子生徒が持つ、セックスに対する生理的嫌悪感、生理の始まりなど、自分の体が知らないところで勝手に変わっていく底知れない恐怖感など、思い当たることばかりだった。「性」にまつわるものを不潔なものとして、想像することすら気味悪く思えたり、こうした表現には思わず唸らされてばかりだった。また、一番残酷な首謀格の女子生徒が、おそらく母親が出て行ったばかりなのだろう、彼女の持つ母親の「女の部分」をより憎悪する気持ちも分かる。
私も中学の時、担任の女性の先生がとにかく嫌いだった。理由は?未だに分からない。真面目な新米の担任の先生で、顔はそれほど美しくはないけれど、胸が大きかった。男子生徒に対する態度が、若干嬉しそうだったことも気に入らなかったし、男性教師と話す時は声のトーンが少し高くなっていることにも、私達女子生徒は気づいていて、そんなところが特に嫌いだった。何故か「要(かなめ)は(←名前を呼び捨て)淫乱」などと酷い噂があって、誰かがこの先生のセックスしているところを見たらしい、そんなまことしやかな噂まで飛び交っていた。私の友人は、普通の子だったけれど、そうした噂話を率先して吹聴して回っていた。
まあ何が言いたいかと言うと、サワコ先生の台詞にもあったように、「自分も女子生徒だった時代があるから、覚えがある」というやつです。モテなそうな女の先生のことは、やれ「性器に蜘蛛の巣が張っている」だの、「モテなすぎてヒステリーになって可哀想」だのと言い(いや、私の友人がですよ)、プライベートに男っ気のありそうな先生は、その女っぽさがもっと嫌で、反吐のように嫌っていたな。
廃墟になったという設定のオンボロなラブホテルがまた、素晴らしい画だったな。ド田舎の田んぼのド真ん中に、ポツンと立つ不似合いで馬鹿馬鹿しい建築の城。こういうのを見て育ったりね、見たくないものを見ないで済む世の中じゃないんですよね。
冒頭のうさぎのシーンは、『人間・失格』という野島伸司脚本のドラマを思い出したり、経血が流れるシーンは『キャリー』を思い出したり。ホームルームに潜む陰湿な物語は、どうしても『告白』の影響を感じてしまう。妊娠女の終わり間際のシーンは、『屋敷女』を思い出す。こんな風に、インパクトという点で言えば、二番煎じ的なものを感じなくもない。しかし、画のセンスには相当凄いものを感じるし、考えて撮っている感じがすごくいい。さらに素晴らしいことに、台詞はいかにも「中学生が言いそうなこと」で構成され、「嘘っぽさ」が皆無なところが監督のキレの良さを感じさせる。何を表現したくてその画作りをしているのか、きちんとした計算の元に浮かび上がってくるので、見ていて全く退屈しない。
最後、「命に関する授業」に変わっていったところがまた素晴らしかった。まさか、こんな「ゾッとする」画作りばかりで冷酷に進んでいく物語で、しかも初めは女教師も「こういう先生って嫌だな」と思わせるような落ち度がある。酷く冷めていて、「教育熱心ではない」と生徒にすら分かってしまう嫌味な態度を生徒に取るのだ。しかし生徒といつしか真剣に向かい合い始める。そして命の大切さを身をもって教えようとすることで、ラストでは見事に「教育者」に変わっている。ここも見事だった。生徒はこの後どう変わっていくかは分からないけれど、充分納得の行くラストシーンだった。(その辺の土手にアレを埋めていいのかは置いといて。)このバランス感覚がまた素晴らしい。熱さやベッタリした人間らしさからは一定のスタンスを取ったまま、「物語の型」として、いつの間にか昇華しているところがすごいのだ。
※ストーリー・・・
郊外で中学教師をしているサワコが妊娠した。クラスの生徒たちが騒ぎ立てる中、生徒のひとり美月が「気持ちわるくない?」と同級生に呼びかけ廃墟になったラブホテルの一室である会を結成する。その名は“先生を流産させる会“。彼女たちは行動を開始し・・・
2012/06/12 | :ホラー・スプラッタ 内藤瑛亮
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コメント(6件)
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こんばんは!
こちらにもお邪魔します!
僕はどんなに頑張っても女子学生になれなかったのでその当時の心境と言うものは皆目わからない部分はあったのですが、やっぱ「性」を不潔に思う感情は、あの時代の少女達にはもちうる感情だったのですね。
僕はこの映画の改編で一番肝になっていたと思っているのはそこで、男子生徒だったら面白半分の悪ふざけと言った部分で捉えかねられない事件を、女子学生の話にすることによってガチンコな話へと昇華している。そこが良かったなと思いました。
廃墟と化したラブホテルも画的に素晴らしかったし、何よりあの落とし方ですよね。サワコ先生の教育者としての成長が伺えると言いますか・・・上手く言葉では表現が出来ないけれど、完全に先生と言う立場を離れて復讐の鬼と化した『告白』よりも一枚上手を行っていたのかなと。
タイトルのインパクトだけで押している映画ではないという事は、この辺の演出の巧みさからも証明されているのでしょうね。
まぁ、オープニングのうさちゃん殺しの描写はちょっと嫌でしたけどね(笑)
蔵六さんへ
こちらにもありがとうございます〜♪
私も、蔵六さんと同じように感じました。女子にしたからこその、得体の知れない怖さというのがありますよね。
私も、始まる前はなんでだろう?って思ってましたが、見てから合点がいきました。2ちゃんでも見てない人は結構この点を非難する人が居ましたけど、見てから言うべきですよね!
さらに、美月にとっては、「女性性」を忌み嫌う理由があったと思います。母親が「母であるより女であることより選んだ人」でしたから。母親が出て行ったという描写は、台詞のほんの一言、二言でしか描かれていないけれど、映画好きだったら行間読んでしまいますからねー。
あの荒廃したラブホテルの描写は良かったですよね。画が部分部分でビシーっと決まっているんですよね。全体的に。私は正直、告白の方が好きではありますけど、こっちの方がミニマムにまとまっているとも思います。
オープニングのウサギ殺しは、ショックですよね。蔵六さんはもっと文句を言うかと思った(爆)