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31★オレンジと太陽

’10年、イギリス
原題:Orange and Sunshine
監督: ジム・ローチ
原作: マーガレット・ハンフリーズ
脚本: ロナ・マンロ
撮影: デンソン・ベイカー
キャスト: エミリー・ワトソン、デビッド・ウェンハム、ヒューゴ・ウィービング、リチャード・ディレイン、ロレイン・アシュボーン

さすがは父親譲り。誠実で、確かな手腕を感じさせる、静かな良作。巨匠を父に持つなんて、さぞかし恐ろしいことだろうなあと思うのだけれど、その七光りをバネに?見事な社会派作品を作り上げた。

岩波ホールって、特別好きな映画館ではないのだけれど、東京の骨太なミニシアターの中でも、特に個性の光るミニシアターには違いない。この作品、公開後すでに2ヶ月も経過していたにもかかわらず、ほぼ満席と言えるぐらい混んでいて大盛況。ここだからこそ見に来る観客も居るのだなあと、毎回つくづく実感する。レディスデーは無いし、劇場自体は見やすいわけではないのに、何故かいつも混んでる。こんなところもすごい。

今まで聞いたこともなかった、イギリス政府の黒歴史。こうしたところにまっすぐに切り込みを入れてくるのが、さすがのローチジュニアだなあと。物語は決して暴力的なことを描いていないのに、背筋がゾッとするような瞬間もある。彼ら夫婦がこの隠された事実を明らかにするのに、さぞかし多大の心苦を重ねたのだろうなあと、容易に想像する。

特別変わったことをする訳でもない、技術的な小手先のテクニックを効かせる訳でもない。むしろ淡々と事実を追いかけるような、エピソードを積み上げていくだけの確実な手法。まるでドキュメンタリー映画でも撮っているかのようなのに、思い出せるのは極めてケン・ローチ的なアプローチ。(韻踏んじゃった)

物語の抑揚として、一体どんな風に盛り上げていくのだろう、と思ったけれど。淡々としているようで、着々と物語を紡ぎ上げていくところが見事だった。いかにもな感動作ではないところも好きだし、途中、オーストラリアとロンドンとを行き来する彼らが、彼らの目的自体も、どこへ向かうべきかが途中で分からなくなる。彼女が人間らしく迷ったりするところもリアルだった。そして、彼らが戦っている相手の影が、だんだんと形を表してくる。ミステリータッチに盛り上がり、隠された過去の姿が浮かび上がってくるところも良かった。

自分の家族を大事にしながらも脅しに屈せず、正々堂々と戦うヒロインの姿が眩しかった。不思議な事に、この作品を見ながらずっと考えていた事は、「自分が本当にやるべきこと、やり甲斐のあることを見つけ、それを仕事にすることの出来るヒロインが羨ましい」ということ。自分にとって仕事は、日々、やりたくもない雑務に追われたり、大して重要でもない業務をこなすだけ。自分が四つに組んで、生涯戦うべき相手も特に居ない。私は、ジム・ローチが彼女に惹かれた理由や、この映画が力を持って人々に訴えかける理由が分かる気がする。ジム・ローチもまた、初監督作品ではあるけれど、表現として本当に言いたいことを、彼女のおかげで、きちんと見つけることが出来たのだろう。

 

ところで、twitterでは、エミリー・ワトソンは市原悦子か大竹しのぶにしか見えない、などと言ってごめんなさいでした。彼女が圧倒的なので、リアリティが恐ろしいほど出るし、グイグイと物語を引っ張っていく。ヒューゴ・ウィービングは、写真で初めに一瞬出ただけで、「あっ、ヒューゴ・ウィービング!」と気づいた。そんな自分を、褒めてもいいですかー?(初めに「私の兄が居るらしい」、と写真を出すシーンがあったよね。)それにしても、ちょっと老けたなあ。髭剃れば印象違うと思うけど。あと、まさかのファラミア(ロード・オブ・ザ・リング)!誰も信用しなかった彼から、確実に信頼を勝ち得ていくシーンは結構好きだった。

 

※ストーリー・・・
マーガレットはイギリスでソーシャルワーカーとして働いていた。そんな彼女のもとにシャーロットという女性が、「私が誰なのか調べてほしい」と訪ねてくる。初めは彼女の話に半信半疑だったマーガレットだったが、調査を続けるうちに思わぬ事実を知る・・・

オレンジと太陽@ぴあ映画生活

 

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