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30★私が、生きる肌

’11年、スペイン
原題: La piel que habito
監督・脚本: ペドロ・アルモドバル
製作: アグスティン・アルモドバル、エステル・ガルシア
原作: ティエリー・ジェンケ
撮影: ホセ・ルイス・アルカイネ
衣装: ジャン=ポール・ゴルチエ
音楽: アルベルト・イグレシアス
キャスト: アントニオ・バンデラス、エレナ・アナヤ、マリサ・パレデス、ジャン・コルネット、ロベルト・アラモ、ブランカ・スアレス、スシ・サンチェス

ひどく変態的で、倒錯的愛に満ちていて、偏狭的。なのに上品さを感じるサスペンス。

ペドロ・アルモドバルが帰ってきた、という感じ。前作の『抱擁のかけら』は大好きだったけれど、何となく「小さくまとまった作品」だった。その前の『ボルベール 帰郷』が鮮烈過ぎたせいかも。

どの辺りがアルモドバルらしくて、どの辺りがそうでないんだろ。近年の女性三部作のイメージで、すっかりそうした作品こそがアルモドバルぽく思えるのだろうか。自分にとっては、鮮烈な色を感じさせる映画、スペインらしく派手で、人間の生き様が強烈で。本当は熱くてネットリしたものを内部に抱えている。でも、どこか見た目はクールな感じがして、描く対象とある程度の距離を保っている。アルモドバルはそういうイメージ。もっと「スペインらしい」感覚を持たせる監督もいるかもしれないけれど、私にはアルモドバルが一旦物語を解体してそこから語る、この感覚がとても好き。ベタベタせずに、ドライさや冷静さを同時に感じさせるのはそのせいかも。

ああ、アルモドバルにはすっかり酔わされてしまう!思わず思い出すのは、同じくバンデラスを起用した『アタメ 私を縛って』、それからチラシを見て、何となく『オープン・ユア・アイズ』のイメージも。見てみたら、『ブラック・ジャック』のピノコを思い出したり、谷崎潤一郎の『痴人の愛』だったり。自分好みの理想の人を一から育て上げる、紫の上的な世界ならまだしも、自分の好みの人を創造してしまうなんて、相当の変態度。問題作扱いされるのも当然なのに、目が離せない。こちらの想像を軽く超えて語られる物語が、気持ちが良くて、最高に好き。最大の賞賛を送りたくなってくる。間違いなく、今を代表する監督の一人だと思う。

たとえ同性愛の男性でも、「女性の肌」、これだけは適わないと思うかもしれない。女性の肌特有のきめ細やかさ、すべすべした感覚。遺伝子操作で人間の部位を創り出す・・・。奇想天外な物語に見えて、意外と近い未来に、こういうことが起こりえるような気もする。

ペネロペ・クルスにしろ、アントニオ・バンデラスにしろ、ラッセル・クロウにしろ、ハリウッドで出演作がドンドン増えるに連れて、彼ら外国出身の俳優たちの個性は、ハリウッドに呑まれていく感じがしてしまう。初めはフレッシュでも、なんだか個性の部分だけカリカチュアされて、「味の変わったフルーツ」のように好まれ食されるけれど、時間が経つとポイと顧みられなくなってしまう。アルモドバル御大は、そんな俳優たちの生命を、また吹きこむような気がした。特に、ペネロペ・クルスに至っては、アルモドバル作品に出ている姿を見ると、ハリウッド作品の何倍も彼女が輝いて見えた。「単なる美しい容器」ではなくて、血の気の通った人間に戻る感じ。ハリウッドが空虚な役柄を彼女に与えていたことから考えると、同じ人間ではないぐらいに違う。バンデラスはスペイン時代の印象が薄いせいもあって、どうだろう・・と思ったけれど、きっと彼も、アルモドバルにとっては、誇り高きスペイン出身の俳優なのかな。などと思ったりもする。あ、『長靴をはいた猫』のスピンオフ版は、ちょっと見たいな・・w

今回の女優さん、エレナ・アナヤは、どこかペネロペを彷彿とさせる人で、とても美しい人。しかも彼女の役柄の名前が、「ベラ・クルス」。この苗字を聞いて、「アルモドバルってよっぽどペネロペが好きなんだなあ」と思ったりもした。あと、ネタバレで一言言いたいのだけれど:::::::::::::::::

 

 

 

やっぱり、見た目は女でも、中身は男がいいのね(笑)

 

※ストーリー・・・
天才形成外科医のロベルは、“完璧な肌“の創造に執念を燃やしていた。その目的は亡き最愛の妻を再び創造すること。モラルを完全に捨て去った彼は、やがてある人物を監禁し人工皮膚の全身移植実験を実行。しかし、その実験の途中で思わぬ事態が発生してしまう・・・

私が、生きる肌@ぴあ映画生活

 

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コメント(15件)

  1. エレナ・アナヤは、
    『この愛のために撃て』の何倍も輝いてましたね。命を吹き込まれたという表現はピッタリです。

  2. cucuroseさんへ

    おはようございます〜♪コメントありがとうございました。
    『この愛のために撃て』見てないんです。エレナ・アナヤ、『ジャック・メスリーヌ〜』にも出てたんですね。この作品では、超絶綺麗だな〜と惚れ惚れするほど美しかったですね。

  3. 『この愛のために撃て』はスピード感のあるフレンチアクションです。『スリーデイズ』のリメイクの元ですね。よかったんでぜひ!
    先日フランス映画祭で『リヴィッド』っていうフレンチホラー観てきました。間違ってチケット買っちゃったんだけどこれが予想外の良さで!こんなに素敵なホラーなら作って作ってって言いたくなるよ~。日本公開もあるそうなんでおすすめ。

  4. rose_chocolatさんへ

    こちらにもありがとうございますー♪
    フランスのホラーは、面白いのが多いですよー。リヴィッド、覚えておきます。きっと上映されると信じて。Nというより、ヒュートラ渋谷辺りでかかりそうな感じもありますね。
    「この愛のために撃て」も面白いんですね。個人的に、フランスのアクション/サスペンス/ノワール系に好みなモノってあまりないので、すっかり見逃しておりましたー。ローズさんがそこまで言うなら、期待しておきますー。

  5. はじめまして。
    この作品、海外解禁ポスターを見た時から、ジョルジュフランジュの顔のない眼を想像していましたが全然違うみたいですね!
    楽しみな作品です。

  6. はじめまして。
    この作品、海外解禁ポスターを見た時から、ジョルジュフランジュの顔のない眼を想像していましたが全然違うみたいですね!
    楽しみな作品です。

  7. ラウ・チェンさんへ

    初めまして♪コメントありがとうございました!
    へえ、『顔のない眼』って、59年のフランスの古典ホラーなんですね。私知りませんでした。
    あらすじを読んでみたら、もしかしてこの作品から影響を受けたのでは?と思ってしまいました。
    フランスのホラーって最近面白いものだとばかり思ってました。早速これも借りて見るリストに、トップに入れましたよ!教えて下さり、ありがとうございました。

  8. わたしもバンデラスはマスク・オブ・ゾロとかスパイキッズとかそういうのでしか観てなかったな~ 本当はもっとギラギラした変態役が上手な人なのね? 見直しました

  9. SGA屋伍一さんへ

    こちらにもコメントありがとうございます〜♪
    バンデラスはねー、スパイキッズなんかより、『デスペラード』ですよ。マスク・オブ・ゾロも似合ってましたけど。私スペイン時代も見てますけどねー。
    でも何気にシュレックの猫が、バンデラスの一番のハマリ役だったりしてw

  10. とらねこさん、こんにちは!
    やっと見ることが出来ました^^
    面白かったですー。

    そして、とらねこさんの記事も面白かった~(^○^)
    >やっぱり、見た目は女でも、中身は男がいいのね(笑)
    私も思いました。
    絶対何か男がらみがあるに違いない~と、最初から疑ってかかっていたので、もしやあの美女は男なんでは??って、思っちゃったんですよー。

    とらねこさんの去年度のベスト3、しかも記事のトップの写真はこの映画のポスターでしたね☆

  11. latifaさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。

    そうなんです!私の去年のベストの記事は、この作品の画像だったのです。
    長い間これを1位にしようかと思って一番上に挙げておいたので、思わずこれを一番上にしてしまったのです。実際の一位は『ル・アーヴルの靴磨き』でした。

    面白く読んでいただきありがとうございます〜。私はペドロ・アルモドバルはかなり好きな監督なのですが、ブログを始めてから意外にベスト10にも顔を出すことがなくて寂しく思っていたので、今回こんな風にしてベスト10入りを果たすことが出来て嬉しかったです!

    ほー!latifaさんは男を見破ってしまいましたか!それは凄い。
    私はかなり呆気にとられました。この監督の想像力は本当に思いもよらなくてすごいなあと思います!




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