23★ニーチェの馬
’11年、ハンガリー、フランス、スイス、ドイツ
原題:A Torinoi lo
監督: タル・ベーラ
脚本: タル・ベーラ、クラスナホルカイ・ラースロー
撮影: フレッド・ケレメン
音楽: ビーグ・ミハーイ
キャスト: エリカ・ボーク、ヤーノシュ・デルジ
この作品を前にして、一体何を語ればいいんだろう。まさに「言葉を失う作品」。
とにかく画面から目が釘付けになって離すことが出来なくなり、 次に何が起こるのか分からなくて、
ずっと緊張したまま映像と対峙してしまう。恐ろしいほどの緊張感を与えられて、苦痛すら感じ始める。
そんな、圧倒的な力を持った画。
タル・ベーラはこれを最後に、映画を撮ることをやめると決意していて、インタビューでは、自分にとっての映画は芸術であると語っている。
もう、「ごめんなさい!!参りました!」という気分。自分の映画に対する覚悟が中途半端であると、もう無残にも彼方向こうの宇宙(夢の中)に取り残されてしまうんですね。
で、ちゃんとついていこうと覚悟を決めると、すっかり時代を忘れ去ってしまう。あれ、今私は何世紀に生きてるんだっけ?私の前世はこんなんだったかもしれない・・。ああ、そうだった。暴風が吹いていて、病気のお父さんの世話をして、手元にある食料は馬鈴薯だけになって、最後の時間を生きている・・・。
で、さっぱり意味は分からないんですけど、だから何?という気持ちにもなるんですよね。これが映画だ!という気持ちにも。
圧倒的な力の前に物語など存在しなくなる。我々の自我は確かにそこに居る。神や大自然の大いなる力の前に、瀕死の状態で、ちっぽけな存在の我々が横たわっている。井戸の水も枯れ、風の吹き荒れる最果ての地で。
もちろん、まだ自分は生きたいですよ、哲学のことなど考えず、俗世間の馬鹿馬鹿しさに紛れて。そうしたら、狂気を引き連れ馬の頭(こうべ)に巻きついたまま、街に繰り出せばいいんです。何を選択するかは自分次第なんです。映画に何を求めるのか、娯楽的な物語をまだ必要としているのか、物語や想像力が、ついぞ枯れたその地で…。
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コメント(4件)
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もうこれでほんとに引退してほしいですよね。約束どおり。
思い出した頃にこんな規格外の作品を見せつけられちゃうと、映画を見るモノサシが狂っちゃって困ります。
タルベーラさん、朝から一日中歩き回って、ロケハンしたんだそうですよ。まさに足で稼いだヒット!!
裏山さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
んねー!本当に引退するのかなあ。引退するする詐欺の人がこの業界、多いからw
「映画を見るモノサシが狂う」・・その言い方もなかなかいいね。
でもねこりん的には、こういうのだけ見てお腹いっぱい!にはまだまだなれないんだけどね。
あの完璧なセットは、自らの足で探したんだあ。すごいなあ。
あとね、これ、たったの30テイクで撮られてるんだって。。
TBしたぞよ。
同時期に『戦火の馬』も観て、同じ馬映画でもこうも違うかと唸ってしまったです。
タルさんが希望を失っても我々はあの暗闇からまたみっともなく這い出すしかないんです。その意味でもしかしたらスピルバーグのほうに肩入れしなきゃいけないんじゃないかと密かに思ったりもするのです。
>狂気を引き連れ馬の頭(こうべ)に巻きついたまま、街に繰り出せばいいんです。
そのとおりで。
すた☆ばねこさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!manimaniさん改め、すた☆ばねこさん。私個人としては、まにまにさんの名前が好きだったんだけど…。
TBありがとうございます。まにまにさんのレビューは読んでいたけど、TB遠慮してました。テヘ。
スピルバーグの方の馬も、「馬映画対決」として見るべきかなーと思ってはいたんですが、ここ最近のスピルバーグブーム&『タンタン』大コケで、なんか食傷気味でw。あ、でもDVDでは見てみたいなあとは思ってます。『シービスケット』みたいに感動モノなんじゃないのかなー、と期待しては居ます。あれ、好きだったのよネ。
>狂気を引き連れ馬の頭(こうべ)に巻きついたまま、街に繰り出せばいいんです。
ですよねー。私の友人は、映画という媒体そのものに対する終焉を示してるって見解でした。分かる気はするけど…。勝手に終わらすな!っていうw
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