17★メランコリア
’11年、デンマーク、スウェーデン、フランス、ドイツ、イタリア
原題:Melancholia
監督・脚本: ラース・フォン・トリアー
撮影: マヌエル・アルベルト・クラロ
キャスト: キルステン・ダンスト、シャルロット・ゲンズブール、アレクサンダー・スカルスガルド、ブラディ・コーベット、シャーロット・ランプリング、イェスパー・クリステンセン、ジョン・ハート、ステラン・スカルスガルド、ウド・キア、キーファー・サザーランド
鬱監督による、鬱人民のための、鬱映画決定版。
カラーで撮られているのだけれど、なんだか古いトリアー監督作品のよう。「ドグマっぽい」という言葉が良く似合う。見ている者に分かってもらおうというよりは、理解を拒むかのような作り。でも、決して嫌いじゃない!!!不思議と興味深く見れてしまう画作り。「名作」というのとは全く違うけれど、トリアー作の中で忘れられない作品として、随分経った後から評価されるタイプのものかもしれない。冒頭のスローモーションは『アンチクライスト』と同じだけれど、こちらは圧倒的に美しくて、心地良いんだ。冒頭のシーンを見ただけですでに満足してしまった部分もあったかも。
スローモーションが終わった後に続く、あの結婚式の不穏な出だし!あそこからして、この結婚は絶対上手くいかないな、というムードが伝わってきた。車を運転しているシーンの、手ブレの気持ち悪さ。「来た来た、いきなりトリアー的だな」なんて感じさせられた。車は細い道を曲がり切ることが出来ず、そこでエンコしてしまう。その後のシーンでは、姉妹二人で馬で出かけるシーンがあるけれど、いつも必ず橋を渡るシーンのところで、馬が嫌がったりする。そして橋より向こうは描かないんですよね。あの「空間」はどこか切り離された場所のよう。まるで別世界のように感じさせることに成功している。迷い込んでしまった森の中の様に、「人間の心理」を表しているかのように。
キルステン・ダンストの演技の一つひとつがもう上手くて、改めて惚れ直してしまった。もちろん、評判の高いヌードシーンの美しさも手伝って。ドイツのローレライ伝説、妖精セイレーンのように描かれていて魅惑的。月の光を浴びるlunaticな姿は、美しすぎて別世界の生き物のよう。キルステンは、父親がドイツ人で、ドイツの市民権も得たそうですね。ドイツにマンションを買うことも検討しているとか。近く、ドイツ語映画に出るキルステンに会えるのかも(ソースはこちら)。カンヌの女優賞も獲ったことだし。それにしても、映画を見ている間中ずっと、カンヌでの「ナチに共感」トリアー発言の時に、固まってたキルステンの表情を思い出してしまいましたよ。(ソースはこちら)
昔だったら、この手の映画がもっと好きだったかもしれない。私は、見た目には全くノーマルに思われることが多いし、時には明るい人のように思われることもあるのだけれど、昔から時々酷く躁鬱病的症状が進んでしまうことがあった。酷い時は歩くのもしんどいぐらいになり、部屋から全く出れなくない時期もあったり。まるで水の中に沈み込んでいるかのように、川面に上がってようやく人と喋る、っていうそんな感じ。昔、ひたすら本ばかり読んでいたのは、自分だけの考えに囚われるより、誰か別の偉人の考えに沿って自分の感情を操作する方が落ち込まずに済むから。本が一番、感情操作にはいい代物だと思う。映画は、所詮2時間やそこらなので、自分の気持ちをすっかり変えてしまうには、少し時間の対効果性が弱いかな、と。
四体液説ってありましたよね。古くは古代ギリシャのヒポクラテス、古代ローマのガレノスの体液説「血液、胆汁、黒胆汁、粘液」と言われていたけれど、これに12世紀のアラビア医学の影響を受けて確立された、人間の気質分類の「四体液説」。ここでの分類は、「多血質、胆汁質、憂鬱質、粘液質」でしたっけ。ああー、昔チラッとやったなあ、なんて感じですよね。今じゃ医学では全く顧みられることのないものだけれど、現代の我々も「血液型分類」なんて全く科学的に証明されていないことを、平気で信じているんだから、昔の性格分類のことを全く言えませんよね。(血液型の会話って大嫌い!)
デューラーの「メランコリア」
よく見ると怖い、小児の天使画像(左)
※ストーリー・・・
ジャスティンは姉クレアとその夫ジョンが所有する豪奢な邸宅で開かれている結婚パーティーで、みんなから祝福されていた。しかし、人生で最も幸せな時にも関わらず、彼女の心には虚しさがあった。同じ頃、巨大惑星メランコリアが地球に近づいていて・・・
2012/03/18 | :アート・哲学 キルステン・ダンスト, ステラン・スカルスガルド, ラース・フォン・トリアー
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コメント(8件)
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こんばんは。
初トリアーだったのですが、SF映画と勘違いしたせいもあって、しんどかったです…
冒頭の幻想的な美しさと、キルスティンのヌードは鮮明に覚えているのですが、どうにも話自体は…
血液型の話が嫌いなのは同感です。
健太郎さんへ
こちらにもありがとうございました。
初トリアーはしんどいでしょうね。SF映画と勘違いした、って・・またまた(笑)
トリアーは女優を酷い扱いすることで、昔から有名なんです。ビョークとはもう何度も大げんかになったそうですし。彼の『ドッグヴィル』の裏を描く、『メイキング・オブ・ドッグヴィル』という作品があるのです。この監督の独特すぎる撮影方法や、気の狂った演出方法のあまり、ニコールを始め俳優たちがとことん追い込まれてゆく様を如実に語っているものでした。
ここでは、俳優たちがあらゆる不満をカメラに向かってぶちまけます。いやあ、とてもあれでは監督は務まらないんじゃないか、と思いました。監督の鬱病は今は酷く進んでいるらしい、とマスコミは取り上げ、もはや有名になりました。この先彼は映画を撮ることが出来るのだろうか、と私達ファンは心配しました。それなのに、こうして問題作と呼ばれる新作がどんどん撮れてしまうんだから、驚きます。やはり当代随一の鬱病監督を、一度は見て良かったのではないでしょうか?!
ちなみに、これに懲りずに、是非『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を見てくださいな。私はゼロ年代ベストに入れました。こちらの方がトリアー初心者には、面白く見れると思います!
遅くなってしまいましたが、TB&コメントありがとうございました。
あの予告観たら「地球に惑星が激突するSF映画」と思いますよ。
びっくりです。
鬱ですね。
>『ダンザー・イン・ザ・ダーク』
ビョーク主演で、「観ると病気になる」あれですね。
勘弁して下さい。
健太郎さんへ
こんばんはアゲイン!コメントありがとうございました。
そんなイエイエ、何度も来ていただいて申し訳ありまセン。
あ。。ネタでなく、本当にSF的なものを求めて行っちゃったんですか?ww
『ツリー・オブ・ライフ』ではそう言う人もいますけど、この作品でそれはちょっと珍しいタイプですね^^;
ダンサー・イン・ザ・ダークは、しつこくススメて申し訳ないのですが、ここは引けません(爆笑)!
下手なつまらない映画を100本見るより、ずっと価値のある映画ですよ。