8★ヒミズ
’11年、日本
監督: 園子温
脚本: 園子温
原作: 古谷実
製作: 依田巽
エグゼクティブプロデューサー: 小竹里美
プロデューサー: 梅川治男、山崎雅史
撮影: 谷川創平
音楽: 原田智英
キャスト: 染谷将太、二階堂ふみ、渡辺哲、吹越満、神楽坂恵、光石研、渡辺真起子、黒沢あすか、でんでん、村上淳、窪塚洋介、吉高由里子、西島隆弘、鈴木杏
は〜ぁ。この程度かあ。
園子温が古谷実の大傑作、『ヒミズ』を映画化する!と聞いて、「これは・・・!」と期待を込めて待ってしまったんですよね。『恋の罪』なんてすごく面白くて、もしかしたら園子温監督だったらやってくれるかも・・!と期待が絶好調に高まった折も折。それより以前にも、ヴェネチア映画祭で新人賞のマルチェロ・マストロヤンニ賞を染谷将太と二階堂ふみが受賞した、との嬉しいニュースが聞こえてきたり、随分早くから聞こえてきた前評判の良さ。期待はいや増すばかりだったんですよ。いやーしかし、開けてみたら、正直ガッカリしてしまいましたー。だって原作は、ものすごく深いんですよ。
園子温らしいと言えば、らしい作品には凄くなっているので、この監督のファンだったら喜ぶのも分かる気はする。この監督がいつも毎回言ってる同じ事、ああまた同じだな、そういう安心感(?)。あ、ちなみに私は、『冷たい熱帯魚』はさほど面白いと思えなかった人。他もいろいろゴニョゴニョ…なんですけどね。しかしこの監督さん、とにかく今飛ぶ鳥を落とす勢いなので、今はみんな文句は言いづらいんだろうなー。あの毒舌な宇多丸だってあの程度。
何よりあの震災の風景!冒頭から不穏な空気を漂わせていたけれど、私について言えば、思わずドタマがブチ切れそうになった。何度も何度も同じ映像を映しだす、不器用なこの監督のよくやる手だけれど、その度イラついてしまった。ヒミズの脚本にも製作にも震災は関係していなかったのに、後から震災が起こって無理やり突っ込んだだけらしいじゃないですか?そういう風に気軽に扱わないで欲しかったな。
園子温監督って、期待されたらつい無い袖を振ってしまうタイプなのかもしれませんね。考えるより前に、とりあえず今目の前にある、この震災の映像を撮ってしまおう!そんな勢いなんだろうな。ちょうど、『愛のむきだし』の主人公ユウの盗撮を思い出しますよね。こういう勢いが嫌いでない人には、もう無条件にブラボー!って思えてしまうのかも。
ラストが変わってしまったのは、震災を絡めてしまったせいなのでしょうね。「希望」の話をせざるを得なくなった。たとえラストが、原作と全く逆であるとしても。でもこんなにあちこち変えるなら、ヒミズを原作にすることなかったのに。もちろん、原作と映画は別物、そう私も思っているけれど、ただですよ、いつもの園映画を作るんなら、最初から原作ありきな作品にしなきゃいいのにねー。
これ、原作が本当に凄いんですよ。漫画でありながら、ものすごくリアリティがあって、人間は薄皮を隔てて皆病的なものを持ってるんだなあ、と、反吐の出そうな思いにさせられる。「悪夢」。一言で言えば、「見たくなかった悪夢」でした。正直、原作を読み終えた後、具合が悪くなってしまった。今まで避けて通っていた、見たくないものを偶然見てしまった感じでしたよ。でもね、それこそが「ヒミズ」の存在なんです。日を見ない存在の姿なんですよ、出会ってはいけないもの、自分がなってはいけないもの。私が思うに、原作のテーマはもっともっと深いんです。何も、ヒミズがイコール、ミミズって、それだけじゃない!ヒミズの理由を簡単に説明してしまった時は、「えっ」て感じでした。「ヒミズが何か」は、原作では明らかにされていませんからね。
原作は、何度も言いますが、ホラー好きで、人間の闇を覗くのが大好きな私が、「勘弁してよ」、って泣きたくなるほど絶望的な思いにさせられましたね。これを描くには、園監督みたいに、とりあえず投げて何が当たるか見てみよう、みたいな、行き当たりばったり製法じゃ、とても到達出来ない完成度だと思うんですよ。
※ストーリー・・・
15歳の住田祐一の願いは“普通“の大人になること。同じく15歳の茶沢景子の夢は、愛する人を守り、そして守られて生きることだった。そんなふたりの日常が、ある事件をきっかけに180度変わってしまう。罪を犯し、破滅へと向かう住田を茶沢は救おうとするが・・・
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