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6★哀しき獣

’10年、韓国
原題:黄海
監督・脚本: ナ・ホンジン
撮影: イ・ソンジェ
音楽: チャン・ヨンギュ、イ・ビョンフン
キャスト: ハ・ジョンウ、キム・ユンソク、チョ・ソンハ

 

チェイサー』を見てしまったからには、それに続くナ・ホンジンの次回作!と来たら、期待せざるを得ませんでした。

狂犬のような一個の男の、どうしようもない生き様が、相変わらず痛いんです。人に噛み付いたら最後、その命が果てるまで狂い、吠え哮りながらもがき苦しむかのような、名も無き野犬。相変わらずの過剰なまでのバイオレンス、バイオレンス、バイオレンス…。『息もできない』を思い出す人も居るかもしれない。

このような一個の狂犬の姿を描きながら、いつの間にかクローズアップされるのは、一人の人間の暴力よりもっと大きな、一社会が個人を呑み込む無力さ。警察権力の滑稽さや愚かしさに対する、心からの憤り。無力で孤独な、同情する余地のない、馬鹿でまっすぐで猛々しい男たち。

背景となる、「延辺朝鮮族自治州」(←Wikiへ)に関しては、今まで全く聞いたことがなかった。妻は韓国からもらい、出稼ぎに出ているまま、連絡が取れなくなっている。そして相変わらず、繰り返し繰り返し描かれる、韓国警察の愚かしさ。

しかし今回は、無理やりさ加減を感じてしまう部分が大いにある。ナ・ホンジン監督らしい強引さや有無を言えわさぬ展開は、あまりにしつこく感じるかも。今回はいい方に驚きに満ちていたと言うより、その欠点の方が目についてしまった。

たとえば、主人公がハマってしまうどうしようもない境遇は、仕組まれたと分かっていながら、いかにもまんまとハマっていくのであるが、この辺りの描写が雑に感じてしまった。前半、少しミステリー仕立ての印象もあり、娯楽的な面白さもちゃんとあるのに、展開の無理くりさ加減で、なんだか全てどうでも良く感じてしまう。主人公に同情を寄せられないところは、設定からしてもう仕方がないのかもしれない。が、もう少しミステリ風に楽しめれば、グッと面白さが増したのでは。

特に辟易するのは後半で、同じような描写がずっと続くせいで、いい加減飽きてしまう。暴力に次ぐ暴力シーン、まあそれが描きたいとは言え、主人公がとにかく死なない。よくもまあ、これでハ・ジョンウもキム・ユンソクも生きているもんだと…。冒頭に話した「とにかく皆を噛み殺しながら、憎まれながら、恐ろしいほど強い狂犬」同様に。

 

※ストーリー・・
北朝鮮とロシアが隣接する中国領。タクシー運転手のクナムは、韓国に出稼ぎに出ている最愛の妻から半年も音沙汰がないのを心配している。そんな折、借金のカタにある男の暗殺を請け負い韓国へ。妻の行方も捜しつつ任務遂行直前、予期せぬ出来事が起こり・・・

哀しき獣 THE YELLOW SEA@ぴあ映画生活

 

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コメント(3件)

  1. こんばんは。

    凄まじい映画でしたね。
    コリアン・チャイニーズ/朝鮮系中国人だけあって、アジアンパワー炸裂で凄まじいものがありましたね。

    邦画や洋画なら銃撃戦になるところを、ひたすら包丁と手斧。
    斧怖ぇ。
    あんなんで殴られたら死ぬって。

    奥さんの話はやりきれないものを感じましたが、凄まじさが半端なかったです。

  2. 健太郎さんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    本当に凄まじかったですね!延辺朝鮮族自治州なんて、全然知らなかったです。主人公には、想像を絶する憎しみや怒りが渦巻いているのかもしれないなあ…などと、精一杯想像するのみでした。
     斧は恐ろしいですよね〜!斧を持った殺人鬼、というとリジー・ボーデンを思わず思い出します。個人的には、斧より『チェイサー』のトンカチの方が衝撃度は高かったかな。




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