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サラの鍵 #81

’10年、フランス
原題:Elle s’appelait Sarah
監督:ジル・パケ=ブレネール
原作:タチアナ・ド・ロネ
脚本:ジル・パケ=ブレネール、セルジュ・ジョンクール
キャスト:クリスティン・スコット・トーマス、メリュシーヌ・マイヤンス、ニエル・アレストラップ、エイダン・クイン

 

今年の終わりに出会った、素晴らしい作品。これは見応えあり。

どっしりと重量感のあるテーマに、暗い歴史が影を刺す。が一方で、命の重みと最後に残った希望がほんのりと輝く。

これは是非とも見て欲しい作品!こちらも『ミケランジェロの暗号』同様にナチスものでありながら、型にはまらない素晴らしい傑作でした。

ナチスものを描きながら、単にショッキングな歴史的出来事を描くのではないんですよね。むしろ現在の我々との接点とを、積極的に結びつけていくストーリーテリング。サラの持っていた鍵、そしてアパートの一角の扉は、パンドラの箱のよう。自分たちの全く与り知らない、過去の過ちであるばかりではなく、突然リアルな姿で立ち上ってくるところが、まず見事だ。

現在に生きるジュリアと並行して、第二次世界大戦に起こったフランスの黒歴史を描いていく。ナチスがその勢力をどんどん広げる真っ只中、フランス警察に捉えられる、何万人ものユダヤ人達。ヴェルディヴ事件だ。そこで起こってしまったとある一人のフランスの少女の悲劇が、交錯してゆく。恐ろしいながらも、固く閉ざされた秘密を紐解きたくなる楽しみもあり、物語が進むのに全く退屈さを感じさせない。

ジュリアが少女の行く末をとことん追求していくのに、彼女の母としての本能をも感じさせるところがまた、この作品の持つ陰影を幾重にも感じさせる。ずっと欲しかった子供がようやく授かったというのに、夫からは堕胎を勧められてしまう。人一人の命の重みというものについても。精一杯生きたサラという女性の足跡を辿りながら、彼女がどんな思いで日々生きたのだろう、幸せであったといいのだが…、いつしか祈るような気持ちになってしまった。おそらくジュリアも、サラには女性としての共感が芽生えていたのだと思う。不思議な共感覚と、目に見えない縁。

自分たちが一時この世に生を受け、精一杯生きて繋いでいく、命というもの。新しく生まれる命に対して、そんな風に尊い存在に感じさせるところがまた見事で、思わず口に出せない深い感動を与えさせられた。

一人の女性の波瀾万丈の秘密の生の物語、というと、『灼熱の魂』もまたそうではあったけれど、私は断然こちらの方に軍配を上げてしまう。

 

※ストーリー・・・
ジャーナリストのジュリアは、1942年フランスのヴェルディヴで起きたユダヤ人迫害事件を取材するうちに、あるユダヤ人家族の悲劇、自分の弟を守るために弟を納戸に隠した長女サラの秘密を知る。しかもその家はジュリアが現在住んでいるアパートだった・・・

サラの鍵@ぴあ映画生活

 

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コメント(29件)

  1. とらねこさんっ!
    先日はお疲れ様でした~。
    >ジュリアも、サラには女性としての共感が芽生えていたのだと思う。
    そこなんですよね。 そして私たちもそれに共感を覚えてしまうんだと思います。
    いつの世も女性たちにとっては難しく・・・ だからこその共感です。
    そっか、『灼熱・・』よりもこちらの方が断然よいですか。 参考にします。

  2. rose_chocolatさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    そうなんですよね。ただの記者根性だけじゃない、故人に対して寄り添っていくような優しさを、女性は持ちあわせてますよね。そういうものが描かれていたなあと思います。roseさんは本も読まれていたから、おそらくもっといろいろな事がわかっていらっしゃるんだろうなあ!
    すごくいい映画でした。roseさん、オススメくださり本当にありがとうございました!

  3. とらねこさん、こんばんわ♪
     先日はお世話になりました! 楽しかったですね♪
    レザボアCATsのとらねこさんだったんですね!
    TB&コメントさせていただいたことありました(笑)
    今後ともよろしくお願いいたします♪
     
    実際はサラの方が全然年上ですけど、
    ジュリアは母親のような気持ちになっていたのでしょうね・・・
    重いテーマを重くなり過ぎず、でも伝えたいことはきちんと伝えている。
    とてもよい映画でした!

  4. maru♪さんへ

    おはようございます〜♪コメントありがとうございました!
    あ、TBコメント、いただいたことがあったんですね!すいません、忘れていて・・><。
    こちらこそ、今後もよろしくお願いします!
    忘れない程度に・・相手してやってください(笑)

    ジュリアは、自分たちより前の過酷な時代を生きた女性に対する、尊敬の念があったのだろうなあ、と思います。
    テーマの深さがいいですよね、おっしゃる通り重くなりすぎず、見やすかったです。

  5. 2011年もあと少し、最後にまたいい映画に巡り逢えました。来年もよろしく。良いお年を。

  6. 朱色会さんへ

    おはようございます〜♪コメントありがとうございました!
    何故か朱色会さんのお名前が逆になっている…よろしければ、登録し直しておきますが、いかがでしょう?
    朱色会さんもこちら、ご覧になったのですね!私もこれはかなり良かったです。年末の番狂わせ、この作品でしたね!
    こちらこそ、来年もよろしくお願いします。良いお年を!

  7. 結果的に弟を自ら殺してしまったサラ。
    生涯そのトラウマから逃れられないのが何とも切ないです。
    彼女の本当の心が70年後のジュリアによって知るべき人々へと伝えられ、その想いが新しい命へと繋がるラストは感動的でした。

  8. ノラネコさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    サラの弟は不幸でしたね。確かにとっさにあの場所へ弟を隠したのは、子供らしい浅はかさではありましたけど、そのまま弟さんが生きて逃げることが出来れば、サラの行為は全く無駄ではなかったのに…などと、考えても無駄なことをついつい考えてしまいました。
    サラは辛い思いをしながらも、彼女なりに強く生きたなあ、と思います。
    ジュリアと旦那の関係は残念でしたが、中絶しなくて本当に良かった。ラストのシーンは思わず胸が熱くなりました。

  9. こんばんは ななです。
    お正月休みに東京へ出る機会があったので新宿でこれを観てきました。
    こちらの映画館ではかかっていなかったので・・・。
    サラと弟の悲劇だけで終わる物語かと思ってたら
    その後の「命の重み」や「伝えていくことの大切さ」を
    深く考えさせてもらえる作品だったのですね。
    予想外の感動があって,観てよかったと思いました。
    サラの人生を辿るうちに,ジュリアもまた変わってゆく・・・というところも
    よかったですね。サラのことがなかったら
    ジュリアの,あの娘は生を受けていなかったですものね。
    ラストの,サラの息子とジュリアが心を通わすシーンは
    切なさとともに心が温かくなりました。

  10. ななさんへ

    おはようございます〜♪コメントありがとうございました。
     おお!東京にいらっしゃる機会があったのですね。これ、ななさんの地元ではやらないのですか?でも、見れて良かった!
     おっしゃる通り、命の重みについてきちんと触れているところが良かったですよね。ななさんが、深いレベルでこの物語を楽しまれたのが分かります。丁寧なコメントありがとうございました。
     私も深く感動させられました。いつも映画からいろいろなものをもらえる気がします。こういう作品はいいですよね。

  11. こんばんは。
    これは昨年度のマイベスト2位です!
    そうですね、ジュリアがサラのことを知りたかったのは、取材や住まいに関係することだから、だけでなくて、自分自身が新しい子の母親になろうと決心したりして母性的な感情から、まるでサラが自分の娘のような気まで、もしかしたらしていたのかもしれない、なんて思います。
    いま原作を読んでいる途中です。
    ほんとに、いい映画との出会いでした。

  12. ボーさんへ

     こんばんは!本当にお久しぶりです。コメントありがとうございました!
    初めの頃から仲良くしていただいていたのに、長い間ご無沙汰してしまった薄情な私でスミマセン。でも、来てくださってありがとうございました。

     ボーさんはこちらが去年のベスト2位だったのですね!私も随分と気に入って、去年のベスト10には入れました。
     そうなんですよね、ジュリアとサラは、女性としての生き方を重ねるように描かれているので、ここがまた物語に深味を与えていますよね。
    いいなあ、原作読まれているのですね。私も本を読みたいなあと思いつつ、最近全く進みません・・。今私はまた、またマリリンの本が読みたくなってます。




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