ゴーストライター #77
’10年、フランス・イギリス・ドイツ
原題:the Ghost writer
監督:ロマン・ポランスキー
原作:ロバート・ハリス
脚本:ロバート・ハリス、ロマン・ポランスキー
撮影:パベル・エデルマン
音楽:アレクサンドル・デプラ
キャスト:ユアン・マクレガー、ピアース・ブロスナン、キム・キャトラル、オリビア・ウィリアムズ、トム・ウィルキンソン、ティモシー・ハットン、ジョン・バーンサル、デビッド・リントール、ロバート・パフ、イーライ・ウォン
今頃で何ですが、せっかくのポランスキーの傑作。ブログに感想UPしておこうかな、と。
セザール賞監督賞、ベルリン銀熊賞、ヨーロッパ映画祭作品賞その他受賞。
全体的なムードといい、事の起こるテンポ、盛り上げ方等々、全てにおいてキッチリ計算されていることが伺える。めったにないサスペンスの傑作。
薄暗いブルーグレイのトーンすら気持ちが良くて、たっぷり世界観にハマってしまった。御年87歳にして、入念に磨かれ余裕のある技術が、文句なしに素晴らしい。ガチャガチャしたアクションがたっぷり含まれたタイプのサスペンスの好きな人にとっては、物足りない作品であるかもしれない。でも私にとっては、至福の時でしたね!
こんなサスペンスを待っていた!サスペンス映画って今頃だと、すでに瀕死の状態のジャンルにしか思えないじゃないですか。それなのに、この冴えわたった演出は、一体なんなんだろう!?何が違うのだろう。とにかく、何もかも違うんですよね。最近で満足したサスペンスというと、『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』。あ、『ミレニアム〜』は、今度フィンチャーがメガホンを撮るのよね。そちらもなかなかの出来らしい。あちらの『ミレニアム〜』は、『羊たちの沈黙』を思い出させる佳作だったのだけれど、すでに慣れ親しんだ感じから出ることはなかった。フィンチャーがこれをどう調理するか?楽しみ!
さてこちらの作品に戻って、個人的には、あの大傑作『ローズマリーの赤ちゃん』を思い出させる出色の出来。あれは心底ゾッとさせるラストで、私的ホラーの大傑作の10本に入る作品なので、それに迫る傑作というと、かなりの満足度だったのですよ。『ナインスゲート』は私好みで好きだったし、『戦場のピアニスト』も良かったけれど、この作品には唸らせられた。
見終わった後、「トニー・ブレア以外の何者にも思えないんだけれど、なんて恐ろしい作品を書くんだろう?」なんて話していた。痛烈な鋭い毒を感じさせるじゃないですか。これはさすがにアメリカでは評価されないだろうから、アカデミー賞なんかは到底ムリだったんだろうなw。
ラストの無駄のないカメラワークがまたたまらない。ああそう来るだろうな、という嫌な予感が的中なので、感情だけで言えば「やっぱり」としか思えない終わり方。にもかかわらず、あのきっちりムダのない感じや、相反する高揚感に背筋がゾクゾクして、終わった後に思わずガッツポーズをしたくなるぐらいだった。
最後に印刷した紙が散らばるところが、なんだか象徴的に思えてしまったのは、私だけだったんだろうか?つまりどういうことかというと、ずっとPCで小説を書いたでしょう?だから本来、メモリスティックでも良いはずなのに、ラストの完成パーティの際には、わざわざ印刷した紙を持っているんですよね。それが最後に散らばる。それを見て、デジタル化迫る新しい時代が、古い時代を駆逐するような印象すら抱いてしまったのは、私の考えすぎなのか?最後に紙がパーッと散る。ああいう見事さとクラシカルな前時代性は、デジタル化された世界では味わえないものなのだよなあ、と。だからこそ、私は最後の感慨が余計ひとしおしみじみと感じてしまったのだ。何か苦い、何とも言えない感覚が心の中に残った。素晴らしいラストですよ。
※ストーリー・・・
ゴーストライターとして元英国首相ラングの自叙伝の執筆を依頼された文筆家。米国にあるラングの別荘に招かれ、取材に当たった彼は、自分の前任者が不審死したことに疑問を抱く。さらに、ラングが語る自らの過去のエピソードにも違和感を覚えるようになり・・・
2011/11/28 | :サスペンス・ミステリ イギリス映画, ユアン・マクレガー, ロマン・ポランスキー
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コメント(4件)
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ボク、途中いねむりしてたからトニーブレアうんぬんのとこがさっぱりわからんのだが、最後の原稿の束はね、あれは、前任者が書いた原稿に目を通しといてって最初に渡されたやつじゃない。だから、頭文字をつなげると秘密のメッセージが隠されていて、、、うんぬんの、トリックが、、、いまさら感たっぷりでそこは感慨ひとしおでしたが。
でも87歳にしてはデジタル機器が使いこなせていたんじゃないでしょうか。マナーモードでブルブル鳴りつづけるケータイとか、行きたくない家に無理に誘導するカーナビとか。前半にデジタル機器をいっぱい出しておいて、だんだんアナログへと回帰する、パターンじゃないですかね。最後に手紙が手渡されていくのは泣けましたよ。この電子メール時代に。
裏山アンドさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ありゃww居眠りしちゃいましたかー。私としてはあの勿体ぶったムーディーさが、ジワジワゾクゾクしちゃいましたが、人によってはかったるく思えた人もいるみたいですよね。
うんうん、あの原稿の束、確かに前もって存在が示唆されてるんですよね。だから突然最後になって出てきたわけでもないという。で、私はやっぱりちゃんと前もって出てきたところが嬉しく思えちゃうんですよ。たとえば、後になってこれがこうなってこうなりました、的な、時系列順に並べただけっていうのは、サスペンスとしては陥りがちなんですよね。解決する際に、「ラッキーなことにこんな出来事があった」的な、いわば「アンクルズレター」、誰々の叔父さんの手紙が届いて物事が解決した、みたいなやつですね。ギリシャ悲劇の素晴らしいところはですね、そういうのが一番安易とされたんですよね。前もって悲劇の要因となるものが物語冒頭から示唆されていて、それが最後になって露顕する、っていうのが一番高等な技とされてるんですよね。
あとやっぱり、全劇場が2年以内にデジタル化せざるを得なくなったこのご時世には、デジタル化の波について考えちゃいますよね・・・。『スパイ・ゲーム』なんか、すごく好きだった映画なんですけど、やっぱりPCだけ動かしてバシバシやってるんですよ。現場が主役ではないのね。最先端に居るのはロバート・レッドフォードの方で、現場に出向いてるのはブラピの方なんですね。身体で動くブラピが描かれてるから、その対比が面白いんですよ。話が逸れてすいません。
そうそう、最後に手から手に渡っていくの、あれいいですよね。顔が映らないところがよりフアンを、あ、ユアンじゃなくて、掻き立てるんですよね(最後に、ダジャレ言ってみた)。
こんにちは。
凄くイイ映画でしたね。
ピアース・ブロスナンが首相なのは笑ってしまいましたが、凄く似合ってました。
細部までよく作りこまれていたように感じました。
冬の海の寒さが作品にぴったりでしたね。
ラストの原稿が散らばるシーンは確かによいシーンでしたね。
あのシーンは紙原稿でないと意味のないシーンですから、意味深いシーンでした。
その一方でGPSの演出は巣晴らし方tです。
イラク戦争ネタは数多いのですが、こう云った使い方もいいものですね。
健太郎さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ピアース・ブロスナンは確かに一瞬「エッ!?」と思ってしまいました。
何とも言えないムードに満ち溢れたところがすごく良かったです。
ラストの原稿の散らばるシーンは、あれはアナログでないと出来ない表現でしたよね。
そうそう、GPSも使ってました。車に記憶されてるあの無言の証人・・。あれは思わずゾクっとしました。
深読みすればビックリするほど危ないネタでしたよね。おかげでアカデミー賞にはかすりもしないでしょうけど、私は支持します。