マネーボール #75
’11年、アメリカ
原題:Moneyball
監督:ベネット・ミラー
脚本:スティーブン・ザイリアン、アーロン・ソーキン
製作:マイケル・デ・ルカ、レイチェル・ホロビッツ、ブラッド・ピット
製作総指揮:スコット・ルーディン、アンドリュー・カーシュ、シドニー・キンメル、マーク・バクシ
原作:マイケル・ルイス 同名小説
原案:スタン・シャービン
撮影:ウォーリー・フィスター
音楽:マイケル・ダナ
キャスト:ブラッド・ピット、フィリップ・シーモア・ホフマン、ロビン・ライト、ジョナ・ヒル、ディミトリ・マーティン、クリス・ブラッドリー、スティーブン・ビショップ、ケリス・ドーシー
『もしブラッド・ピットがメジャーリーグのマネージャー(の役)をやったら・・』
違います!そんなタイトルではありません!『もしブラ』って説明したら、すごくゴロがいいかもしれないけれど。今年話題になった(?)ある邦画にソックリ!?・・って、えっ!?そっちが元祖なんですか?(んな訳ない!)
久しぶりに母親と一緒に映画を見て来ました。ま、そんなことはどうでもいいか。
この作品が見たくなった理由は、アーロン・ソーキンが脚本を書いていたから。今年『ソーシャル・ネットワーク』でアカデミー賞を受賞し、今度スティーブ・ジョブズを題材にした脚本を書くと噂の、アーロン・ソーキン。今までの作品はさておき、ソニー・ピクチャーズでアーロン・ソーキン脚本の、「事実を題材にした」シリーズ第2弾?!なんだか、勢いがついてるのを感じません?
ちなみに今までこの人が好きだったか、というとそれほどでもないだけど、『冷たい月を抱く女』から見始めて、これは結構好きだった。それから、『ア・フュー・グッドメン』も面白かった。『アメリカン・プレジデント』は見たかどうかを覚えていない。『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』はまだ見ていない。
で、こちらの作品だけれど、これまた『ソーシャル・ネットワーク』と同じように、初めから終わりまで独特なテンポが続く良作。安心して楽しく見られる。とても強い印象か、といえばそうでもないけれども、心のどこかにちゃんと残るものがあるんですよね。
ストーリーは、お金がある球団にいかにして貧乏な球団が勝つことが出来るか。それについて徹底的に戦う気持ちになった、とある貧乏GM(ゼネラル・マネージャー)の奮闘。日本のプロ野球好きにも、決して無視の出来ないテーマ。思わずこれを聞いただけで、へえー、なんて身を乗り出したくなる。
「マネーボール理論」と呼ばれる、とても風変わりな理論を使ってメジャーリーグの世界に打って出ていく。どういうものかというと、
・打率よりも長打率よりも、出塁率を重視する。
・打者の能力を評価するのに、打点には意味がない、とする。
・選手の将来性には期待を抱かず、高校生は獲得しない。
・被安打は投手の責任ではない。
・勝ち星も防御率も投手の能力とは関係ない。
というものだそうです。
周りの反対も多く、何より一番の敵はコーチだったりして、この理論を実践するまでに、観客は長らく焦らされたりもする。このさじ加減が絶妙なんですよね。さらに、彼の現役時代での野球選手としての追憶がちょいちょい挟まれるんだけれど、これがまた物語に重層性を与えてもいる。何に役立つかというと、ラストでの味わい深さに彩りを添えている。人生の苦味により複雑さが足される。彼は「ラッキーな人生であった」とは言えないかもしれない。成功していると充分に言えるかどうかすら、よく分からない。成功物語の単純な喜びとはまた違った、複雑な苦味。私はおそらく、このラストの味わいのために、この物語が「好きだ」と言いたくなるのだろうな。
ブラッド・ピット演じるビリー・ビーンが、ラストでとある大きな選択をしなければならない。ここが物語の落とし所だ。この揺れる様を充分に見せるところがまた、この映画が成功している所以(ゆえん)だ。彼が重要視するのは、お金ではない。・・・というのはハッキリしている。その上で、彼が何を選ぶか。ここを注目して見る観客は、その単純さに、思わず泣けてしまうほどだ。
思わず思いつくのは、「アメリカン・ドリーム」的成功物語の型が、変わってきている。そんな気を起こさせるところだ。『ソーシャル・ネットワーク』で鮮やかに見せてみた、あの何度も見たような成功物語のポイント、この辺を外してきている。
ブラッド・ピットが好演しているのがまたいい。ブラッド・ピットはやはりこういう、いつも魅力的で、余裕のあるキャラがすごく良く似合っている。本当は恐れがあっても、決してそれを見せない。
これに似ている映画はというと、意外とそれほど思いつかない。『ジ・エージェント』、『エニイ・ギブン・サンデー』、『がんばれ!ベアーズ』辺りかな・・?
※ストーリー・・
元メジャーリーガーで貧乏球団“アスレチックス“のゼネラル・マネージャーに就任したビリー・ビーン。彼は、変わり者で短気な性格のため、選手とうまくいかずチームも低迷していた。しかし、ある日、データ分析の得意なピーター・ブランドと出会い、ある理論を思い付き・・・
2011/11/17 | :ドキュメンタリー・実在人物 アメリカ映画, アーロン・ソーキン, ブラッド・ピット, ベネット・ミラー
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コメント(19件)
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こんばんわ
ボクはこれにするか迷ったあげく「コンテイジョン」を観てしまいました(^^;
野球は見るのが好きなクチですけど、マネーボール理論ってどーでしょう?
野球には「流れ」とか「アヤ」とか目に見えない物も多分に含んで勝負が決まるので
理論だけでは・・・と思うのですが。
ただ、決して否定的というわけではなく実際にはどんな理論なのかと興味もあるし
なんせ「御大・とらねこ様」のおスミつき作品なのでぜひ観に行きたいと思いまする~♪
P.S.見るのが好きとかカキコんだんですけど、今の仕事してからはとんと見なくなっちゃって
最近は地上波で放送しないですし・・・たまには見たいなぁ
サイ5150さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
おっ、サイさんはこれと迷って『コンテイジョン』にしちゃったんですか!私は、『コンテイジョン』と『インモータルズ』と迷って、『インモータルズ』にしちゃったんですよ、こないだ。で、『コンテイジョン』は面白かったですか?
インモータルズも結構面白かったですよ。ただ、もしまだサイさんが『ミッション:8ミニッツ』をまだ見てないなら、『マネーボール』の前に、そっちを見ることをオススメします〜!絶対サイさん好みだから。あ、もちろん私も大好きでしたよ。
えっ・・「御大・とらねこ様」って・・そんな持ち上げんでも^^;
うん、「理論だけじゃないだろ?」って気持ちは、確かに分かります!というか、普通の野球ファンは大概そうだと思うんですよね。言ってみればこの映画は、そういう一般論を覆すよう描かれていなければいけないんですよね。覆す、とは言わないまでも、この作品の中で納得がいかなければ、この作品は成立がしないのか。なるほど・・・。
私はスポーツ観戦は、アナウンサーの喋りが聴こえる中で見てた方が好きなクチですわ・・。うう。
ばんわ~♪
げっげっげっww
『ミッション:8ミニッツ』はすでに見ておりますw
映画通ほど騙されるとかって言うから・・・ラストはどうーいうこと?って
考えすぎちゃって、web上で他の方々の意見を拾ってみたら
「なんだ、素直に受け止めて良かったのか」と落ち着きました
とらねこさんの予想通りに、ワタクシ好みの作品で満足でした
『コンテイジョン』はまあ面白かったです。
ただ、淡々と進行していくので好き嫌いがはっきり分かれる映画かなぁ
ドラマとしてではなくシミュレーション的な感じなので。
致死ウィルスのパンデミックに関わる群像劇はサスペンスチックではあるものの
盛り上げたりしないので、人によっては退屈と感じちゃうのかも。
ボクは楽しめたんすけど
帰り道、「まずはうがいに手洗い。インフルエンザの予防接種しとくかな?」と
考えたのでありました(笑)
*あの俳優さんが、あんなことになっちゃって・・・とぷちショック・シーンがありました ストーリーに必要なら何でもやるという映画魂&役者魂が見えましたね♪
サイ5150さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
あ、『ミッション:8ミニッツ』記事挙げちゃいました〜。あ、ラスト考えすぎちゃいましたか。そうそう、なんかそれほど難しいのは作るタイプじゃないのかな、ダンカン・ジョーンズは。分かりやすく、見た人全員が分かるような作りになっているかもしれませんね。私も、好みでしたよ♪
コンテイジョン、私もこれから観ようかなあ・・。候補に入れときます♪ジュード・ロウが何やら可笑しいらしいですね!?「あんなことになっちゃって」って何だろう?上手に、ネタバレをしないで教えてくれて、ありがとうございますー^^*
あ、本当うがいは大事ですよ!毎日家に帰ったらうがいと手洗い、これだけでだいぶ風邪は防げます。いや、本当に。と言いつつ、私今ちょうど風邪引いちゃってます・・。なんか風邪、最近流行ってません?昨日の午後から急に具合が悪くなっちゃって。うう・・しかし、寝過ぎたおかげで睡眠不足は解消出来ました。
こばわ
見ましたよ。面白くって良かったです。
自分の娘が歌う歌の歌詞が微妙にリンクしててラスト・シーンがググッときました
本筋とはちょっとズレるけど、トレードや解雇の通告シーンも入っていて
メジャーの過酷さ、シビアさも見せるあたり野球好きな製作陣の思いが感じられます
(僕らがメディアを通じて見えてるのはピラミッドの上の部分くらい。
華やかさの裏には報われない部分が相当あるはず・・・)
これを見て真っ先に思い出したのがID野球と称してBクラス・チームだったのを日本一まで上り詰めた野村ヤクルトです
いや~野球好きにはたまらん映画ですな野球映画は日本では無理だろうなー・・・
ユニフォームを着こなせる役者がいないもの
(体が大きい役者が揃わないって意味です・・・小さいと草野球の選手にしか見えないんで)
サイ5150さんへ
こちらにもコメントありがとうございます〜♪
そうなんですよね!ラストは娘への思いやら、娘から見た思いやらが交錯して、複雑な気持ちにもなるんですよね。なんだか微妙な思いになって、いろいろ考えちゃいませんでした?
そうそう、ちゃんとGMの辛さや厳しさも書かれてましたよね。一方、他の人から見たら評価されない才能を、見出す面もあったり。風変わりなやり方だけど、何より、貧乏球団がやってると思うと、応援したくなっちゃうんですよね。あとね、やっぱりビリー・ビーンは、「ここのチームで」勝ちたかった、って思いが強かったんでしょうね。つまらない意地かもしれないけれど、分かる気はする。私もビリー・ビーンみたいに、どっか不器用な人だから気持ちが分かるんだろうなー。
へー、野村監督のヤクルトって、ID野球なんていう言い方をしていたんですね。私の友達にもヤクルトファンが居たんですよ。
>野球好きにはたまらん映画
あー、こう言ってもらえて良かった!もしかしたら、「理論」て言われちゃうと、ちょっとアレ?ってなっちゃうかなーと心配もしていたのでした。
あーなるほど!小さいと草野球の選手に見えちゃうんだ。この言い方、ちょっと面白い。でもさすが野球好きから見たポイント!
にょほほ♪
>>へー、野村監督のヤクルトってそーなんです。映画でもビリーが「四球でもいい」とか「バントはどんどんさせろ」とかチームの戦術として教える場面があったけど、野村ヤクルトでは選手はもちろんコーチやネット裏のスコアラーにも徹底させたの。攻め方や考え方をリポートさせて。
それに選手のコンバート(守備位置変え)も。
一番のヒットは元はキャッチャーだったのを肩と足を買われてセンターにコンバートした飯田ですかね。
>>小さいと草野球の選手に見えちゃうんだ
石橋貴明がメジャーリーグ2に出演した時に、感じたんですよね
日本ではガタイがいい芸能人の部類に入るだろうに、あの中では特にデカいと思わなくて、むしろショボイなーと。
ちなみに数多く野球映画はある中でボクが好きなのは「ラブ・オブ・ザ・ゲーム」。K・コスナー演じるベテラン投手の話なんですけど、これもいいですよ敵地ヤンキースタジアムで完全試合なるかっ!?って進行していくんですけどね監督はサム・ライミ。フツーに撮っていて全然ライミらしくないんですけど・・・
いいんですよ。人生のわびさびが感じられて
サイ5150さんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。TOEICを今日受けて来たところです・・。あー。づがれだ。
へー、野村監督ってそんなやり方したんですね!知らなかった。さすが野球好きさん!
しかも、元キャッチャーだった人をセンターに!まるでこの作品の中の出来事みたい。
いろんなことを教えてくれてありがとうございます〜♪
>石橋貴明がメジャーリーグ2に出演した時
なるほどー!これすっごく納得。確かに、私もあれはビックリしたの覚えてます!日本人からしてみたら貴さんてすごいスタイルいい方なのに、アメリカ人と比べるとこんなに小さいんだなーって・・。外人なだけじゃなく、メジャーリーグの選手役と比べれば当然かあ・・。しかし、マドンナは存在感があるせいか、特に違和感は感じなかったような!?
w
『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』は、全く見たことなかったです!へー、サム・ライミは一生懸命追いかけていたつもりだったんですけど、確かに野球映画だと思ったらサラっとスルーしていたような・・・。すいません><。
フツーでも、ライミと思うと見てみたいな!早速、DISCASで予約しましたよ。
アーロン・ソーキンの映画には、人生の悲哀があるんですよね。
それも見せ方が実に映画的で上手い。
単純な成功物語はどこか他人事ですが、こういう風に物語を〆られると映画が向こうからぐっと近付いてくる様な感覚があります。
ジョブズ伝奇も楽しみだな。
ノラネコさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ノラネコさんが、今年のベスト最有力候補に選ぶとは!
脚本で面白く、さらに演出の素晴らしさがそれに輪をかけていて…
「映画が向こうから近づいてくる」、おっしゃる通り、この作品で狙ったのはこれですよね。私もこの鑑賞後感覚のために、この作品をグッと高く評価してしまいました。これが普通の映画にはなかなか出来ないことですから…
ジョブズ伝記が超楽しみです!俳優は誰がやるんだろ。
こちらにも失礼します。
「マネーボール理論」には僕も頭をひねる考えもあり、やはり古い人間なのかな? と思いつつ観ていました。
GMの理論が監督に伝わらず、編制と運用の不一致や、スカウトの拒否反応が凄くリアルでした。
レッドソックスのオファーを蹴ったのには男気を感じました。
理論が立派でも、実践するのは難しく、なのに実践出来る環境に移らないあたりは「理論が全てじゃない」と云っているようでした。
イーグルスのフロントに観てもらいたいです。
健太郎さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
きっと野球を長年好きで見ている人からすれば、引っかかる部分がありますよね。あまり野球好きとは言えない私からしてみても、アレ?ってなる部分はありましたから。でもそうしたことも含め、おっしゃる通り物語の運びがすごく上手なんですよね。とてもリアルに納得できる作りになってる。イーグルスのフロントに関しては、よく分からずすみません。