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サウダーヂ #72

 

’11年、日本
監督:富田克也
脚本:相澤虎之助、富田克也
撮影:高野貴子
配給:空族
キャスト:鷹野毅、伊藤仁、田我流(from stillichimiya)、ディーチャイ・パウイーナ、尾﨑愛、工藤千枝、デニス・オリヴェイラ・デ・ハマツ

 

『国道20号線』が様々な関係者筋から絶賛され、評判を呼んだ富田克也監督の最新作。私たちの生きる「今」の社会の形そのものを浮かび上がらせようという野心が感じられる。確かな実力に裏打ちされた、安定感が感じられる作品に出来上がった!

’07年に作られた『国道20号線』は、どうにもならないドンヨリした空気感がハンパなくて、鬱々とした気持ちになってしまった私は、正直「苦手だ」と思った。登場人物の気持ちが良く分かり、何もかも嫌になって首でもくくりたくなってしまう、あの「トベナイ」感に、夢や希望や甘い思いが打ち砕かれてしまった証拠に。おかげで、新作も見るのにも正直、躊躇をしてしまうほどだった。でも見て良かった!今の自分の気持ちに何だかフィットしてしまい、とても苦しい気持ちになってしまったけれど。これは素晴らしい映画だ!

登場人物のそれぞれが、まるで今の自分自身の思いと重なっているようで、なんだか苦笑してしまった。今居るこの現実世界に目を向けるより、それぞれが自分にとっての「翔べるモノ」を手に入れようともがいている。そうした登場人物の姿は、『国道20号線』において、どうしても拭い切れなかった諦念や、渦巻いていた濃密な乾燥した思いよりも、より共感出来るものに仕上がっていた。

パチンコの話ばかりするオヤジたちとは違うと言わんばかりに、タイやフィリピンパブに通うのを好む男たち。もしくは、それら全てをどうしようもないと思い、ラップにしたためる男もいる。しかし本当は、どちらも周りの環境に追い詰められているかのように、逃げ道やここではない何処かを求めている姿のようだ。こうした諦念に対してポジティブに動いてそれらを求道する姿は肯定的に映る。今居る現実に何も感じずに見える人たちよりも、より別の世界に目を向けて生きている人たちの方が、キラキラしているように見える。そうした夢がたとえ偽物であっても。自分も同じかもしれない、そう思うと、なんだかいたたまれなくなった。

ラスト、時空が歪んで過去を思い出したかのような、商店街を歩くシーンが秀逸だ。あの、BOØWYの『わがままジュリエット』が流れるところ。仕事も夢も無くなった男が、夢と希望に満ち溢れていた頃の自分を、一瞬思い出すかのようなあのシーン。

あの瞬間こそが「サウダーヂ」だったんだなあ。などと思ったら、なんだか後から泣けてきた。「サウダーヂ」という言葉は、ポルトガル語で、なんでも「郷愁」だけでは終わらない、「懐かしさ」や「切なさ」、「何とも言えない思い」を意味する言葉らしい。

BOØWYってのがまた、懐かしくて切ない。私大好きだったんですよねー、中学生の頃。そうそう、高校で初めて自己紹介する時には、こう言ったんですよ。「〇〇◯子です。◯◯中から来ました。好きな音楽はBOØWYです。BOØWYは解散したけど、永遠です。」

高校一年の5月の連休に初めてダブルデートをしたんだけど、後楽園遊園地の待ち合わせで、みんなに会う前に近くにあった本屋でBOØWYの本を買った。デートはそれほど盛り上がらず終わり、後で家でBOØWYの本を読んだ。氷室京介の言葉で、「蝶は嫌いだ。まっすぐ飛ばないから」という言葉に、偉く感動して、いまだに覚えてる。

BOØWYは意外に骨太なんですよ。『ONLY YOU』や『B.BLUE』を初め、ラブソングが有名なので、なんとなくポップなイメージを持つでしょう。でも、彼らの一番初めのアルバム『MORAL』はめっちゃハードコアなんですよ。自分は『MORAL+3』を聞いて、以来BOØWYを一生忘れられなくなったな。

でも、バンド始めてからはBOØWYの名を無意識に出さなくなってましたね。英語科だったので、周りがモトリー・クルーとかガンズとか言ってるのにBOØWYだなんて。ブルハや筋少、ユニコーンならまだしも。その後もビジュアル系には一度もハマったことがなかったのは、心の中ではBOØWYが、ビジュアル系の走りとして一番好きだったからなのかも。

ハッハッハ!余計な話ばっかりしてしまった。久しぶりにBOØWYの動画を見てたら、あまりに氷室さんがカッコ良かったもので、ついつい余計なことを思い出してしまったな。それもまあ、「サウダーヂ」ということで・・。

P.S.・・・トークショーは、山本政志さん(映画監督)、吉永マサユキさん(写真家)、北村信彦さん(ヒステリックグラマーのデザイナー)の来ていた回に行きました。トークショーはまた、90分近くあったような。でも面白かった!

氷室さん、マジカッコいいッスわー。本当は布袋派なんですけどね。この曲も、本当名曲ですよ。
別れる女に、「お体だけはどうぞ、大事に・・」とかいきなり丁寧にしゃべるところも、何か泣けるー!w

 

P.S.2・・・宮台真司による『サウダーヂ』レビューが素晴らしい!これは必読です。

傑作『国道20号線』を送り出した富田克也監督の度肝を抜く最高傑作『サウダーヂ』

 

※ストーリー・・・
ヒップホップ・グループ“アーミービレッジ“のクルー、猛が建設現場で働き始める。それをきっかけに猛は外国人労働者を敵視するようになるが彼の元恋人、まひるは移民との共生を信じていた。やがて猛は日系ブラジル人が率いるヒップホップ集団の存在を知り・・・

サウダーヂ@ぴあ映画生活

 

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コメント(8件)

  1. >「蝶は嫌いだ。まっすぐ飛ばないから」

    天才だな、ヒムロック。。。

    あのいいシーン(スローモーション+爆音+わがままジュリエット)に入る前に、真っ黒のスーツ姿の男が3人ぼやけて映ってる意味深なのあったじゃん。あれ、たぶん、氷室の全曲ボウイ・チャリティー・ライブに呼ばれなかった、あと3人の怨霊だったんじゃないかなぁって、思った。

    トーキングショーのことだけど、つまみ具合とギターのチョーキングの差とか、フィルムとデジカメの差とかは、たいした問題じゃないと思うんだよね、もはや。デジタル機材つかえば誰でもプロになれるってわけでもないじゃないですか。あそこでスローモーションと暴走族とわがままジュリエットを組み合わせることができるかどうか、それだけがクリエィティビティで、もういいんじゃないかって気がしましたよ。

  2. ウラヤマアンドさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
    ねね!この氷室の一文、カッコ良すぎるよね〜。私も虫や蛇は怖くないくせに、蝶だけが嫌いなんだけど、「燐粉が飛んで来そうで気持ちが悪いから」とか言ってたの。確かに、どっちの方向に飛んでくるか分からないから余計怖いんだよね!でも、この氷室の言い方の「蝶は嫌いだ。まっすぐ飛ばないから」とか言うと、別の意味で「生き方のカッコ良さ」みたいな、哲学めいたものさえ感じさせるじゃん。うーん、物は言いようだな、ってねこりん感心しちゃったよ!!

    アナログとデジタルの違い・・これは、当分映画業界の人や映画好きやらには、大きなテーマになりそうなものだよね。「表現方法が違う」という答えが正解なんだろーね。それらが違う上で、それとどのように向き合っていくか、ってことになるんだろーな・・。
    手をおいでおいでするシーンから始まって、わがままジュリエットと暴走族、それら全て無音になって白黒になるまで・・あの瞬間のためにこの映画あったんだなあ!って思うよね。ああいうの見るとすごいなあ。あの時も話したけど、あれってデジタルもフィルムも使ってるんじゃないかと、私は思ったんだけど、どうだろうね?

  3. ボク、ボウイ全盛期の高校時代に、アゲハチョウを蹴り殺したことがあるのね。友達の目の前で。体育でサッカーやった勢いでさ、ちょっとふざけて飛んできたチョウにボレーシュートをかましたら、、、ひらりひらりって交わすと思うじゃない(まっすぐに飛ばないから)。あっという間に死んでましたよ。志賀直哉の『城の崎にて』と、同じ気持ちになったりして。合掌。。。

    白状すると、フィルムとデジタル撮影の違いとかって、わからないのよ。あはは。テレビで映画みはじめて、そのまんまビデオ時代に突入して、あんまり映画館で映画みる習慣なかったので。。。

    そのかわり、テレビ映画だとCMが入るから、カットの切れ目とかにはちょっと敏感かも。CM前のショットを覚えとかないと、つながんないからね。

    そうだよなぁ。あのカタルシスのために、その前の3時間があったといってもいいですよね。でもあれにカタルシス覚えるのってもしかして、ボウイ世代に限定されるんじゃないのかね。

  4. ウラヤマアンドさんへ

    こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
    おお!『城の崎にて』!私も読んだよ。うん、こういう昆虫やら動物虐待やらで生物や命について考えたりするね。蝶を偶然死なせちゃった話、聞かせてくれてありがとう。そうそう前回、「氷室の全曲ボウイ・チャリティー・ライブ」に呼ばれなかった3人の話、せっかく面白話してくれたのに、サックリ無視してごめん・・。ちゃんと面白かったよ。アゲハチョウのようにボレーシュートかましたわけではなかったのよ。

    そっか、君ってそう言えば、映画はビデオやDVDで見ることが多い人だもんねえ。DVDで見る人と、映画館で見る人だと、感想を書くにも、思い入れが大分違うと思わない?やっぱり上映方式の違いって大きいと思うんだよ!そのあたり、デジタルになったら、別にPCや家の機械で見ても、大した差がなく感じるように、時代が変わっていくのかしら。そうしたらたぶん私、映画館通わなくなるな。

    ボウイ世代にカタルシスは限定されるんじゃないか、って。そうね、たとえば海外や、別の時代の人が見てそれを分かるかどうか、という話ね。あのシーン、あそこでBOØWYがかかりながら、途中で暴走族たちが走っていくじゃない?そこで、暴走族が何を意味するかということを、見ている方は考える人も居るだろうね。何故なら、暴走族はこの映画では出てこないからね。この暴走族と「サウダーヂ」を結びつけるのは、それほど難しいとは思わないな。たとえBOØWYを知らなくても、映画のシークエンスとして成立はしていると思うよ。でも確かにそうね、BOØWYを知っていれば、無条件にそれが分かるけれど。でも、それこそサウダーヂの意味するところと言え無くはないかしら。だって、サウダーヂって、もともと共通概念があってこそ成立する、という郷愁や懐かしさの念だから。タルコフスキーの『ノスタルジア』を見て、ロシアに対するタルコの思いを、日本人である私達が共通認識を持って理解できないのと同じで。




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