思秋期 #70
’10年、イギリス
原題:Tyrannosaur
監督/脚本 : パディ・コンシダイン
プロデューサー : ダーミド・スクリムショー
撮影監督 : エリック・アレキサンダー・ウィルソン
音楽 : クリス・ボールドウィン、ダン・ベイカー
キャスト:ピーター・ミュラン、オリヴィア・コールマン、エディ・マーサン
一言で言えば、アグレッシブ親父モノ。
『恋愛小説家』が好きだった人には、オススメできそうな作品。人生も終り近くになって、それでも行き場のない怒りを抱えたオヤジの姿は、『グラン・トリノ』も思い出したり。
これアメリカだったら、 ジャック・ニコルソンがいかにも得意そうな役なんですね。前述の『恋愛小説家』、『プレッジ』、『アバウト・シュミット』、この流れのジャック・ニコルソン・・・って言ったら、もう間違いないでしょ?(ちなみに、私はこの中だと『プレッジ』が一番好き。)
しかし!スコットランドにはこの人が居たんです。ピーター・ミュラン!!!この人が、本当に素晴らしい。映画自体はズッシリと来るようなヒューマンドラマなんだけれど、何より光ってるのは、この人が演じているから。ジャック・ニコルソンがワガママで勝手なオヤジ役だと、「さもありなん。この人はこれはこれでいいんじゃない?」という印象になってしまうんですね。キャラクターが確立されすぎてしまっている、と言うか。だから個人的には、前述の3つの作品だと、一番演出が抑えめだった『プレッジ』がオススメだったり。(もちろん、他のジャック・ニコルソン作品のお気に入り作品はさておき)
ピーター・ミュランのこの雰囲気は何と言えばいいのか、本当に画になる人で、ついグッと心に掴みかかってくるものがあるんですね。ストーリー自体は淡々と進むのに、目が離せない素晴らしさがあって。やはり役者の力と演出如何で、作品のパワーがすさまじく変わってくる、という、良い見本のような作品でした。
しかし、“怒れる親父モノ”は、何故心に響くんだろう。きっと人生半ばを過ぎても、自分のアグレッシブさややり場のない思いを、たぶん自分は持ち続けているだろうな、と想像してしまうからなのかも。『グラン・トリノ』のように、自己犠牲などの“大いなるもの”へ向かっていくのであれば、もっとドラマチックで陶酔感もあるかもしれない。だけどこの作品のオヤジは、何も持っていない、もっと等身大のオヤジなんですよね。この人を見て、「情けない、ただのグラスゴーの酔っぱらい」としか思えないなら、きっとあなたは素晴らしい人なんでしょう。でも弱い者同士が慰め合う姿を惨めだと思う人は、人生が半分過ぎた後に、苦味を味わう準備、それが出来ていないだけかもしれない。
このオヤジは、愛する者と死別してしまい、哀しみのうちに自分を許せなくなってしまったんですよね。もっと一緒に居る間に、思いやりを持って接してあげていれば良かった、優しい妻を傷つけてばかり居た、と告白する場面は、見ていて心が砕かれた。ガラクタ置き場をぶっ壊して、その中に椅子を並べて座っていたのは、彼の心の中そのものを表した表現。ほんの一時スレ違った人の気持ちを、少しだけ安らげることが出来たオヤジ。彼女の方は、結果的には間違った道に進んでしまったけれども、誰かの気持ちを和らげることができて、ようやく自分を許せることが出来た、そんな人の話。
ちなみに、エディー・マーサン!この人よく見る顔だけど、名前覚えたことないなー、なんて初めて出演作を見てみたらビックリ!すっごくたくさんの映画に出演してたのネ。最近の方からザッと見ただけでも、『アリス・クリードの失踪』(あの強面な方!演技も面白かったな〜)、『シャーロック・ホームズ』(警部役!『シャドウ・ゲーム』にも登場)、『ハンコック』、『幻影師アイゼンハイム』、『戦火の馬』、『僕と彼女とオーソン・ウェルズ』。etc,etc..。顔が特徴的なのに、役柄がいろいろと違いすぎて思い浮かばない。さすがに、もう名前を覚える気になりましたよ!
※ストーリー・・・
怒りをコントロールできず、自己崩壊寸前の男。彼が唯一心を開けそうな女性が現れる。しかし、その女性も秘密を抱えていた・・・
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
美容師にハマりストーカーに変身する主婦・常盤貴子 『だれかの木琴』
お気に入りの美容師を探すのって、私にとってはちょっぴり大事なことだった...
記事を読む
-
-
『日本のいちばん長い日』で終戦記念日を迎えた
今年も新文芸坐にて、反戦映画祭に行ってきた。 3年連続。 個人的に、終...
記事を読む
コメント(15件)
前の記事: ヘッドショット #69
次の記事: オススメのソーシャル・ネットワーク感想はこちら
で、この映画恐竜は出てこないのね?
で、この映画恐竜は出てこないのね?
SGA屋伍一さん
うん!恐竜は出てこない。。ごめん。きみ、そんなに恐竜好きなのね。「セレンディピティ」ってピンクの恐竜が出てくるアニメあったな・・。子供の頃。
これはTIFFでご観賞済みだったんですね。私はスチールとストーリーでスルーしちゃってたんだけど、でも今回観て本当によかった。これ好きです。素敵な話、いい作品です。今年の洋画ベスト入りかも。
ピーター・ミュラン、シブくて私好みだわ~♪
エディー・マーサンは、三大映画祭特集の中の『ハッピー・ゴー・ラッキー』に出て来てて、結構強烈な役でした。性格俳優かな?存在感ありますね。
rose_chocolatさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
そうですね、TIFFでかかる作品て、ストーリーの良し悪しって関係ないんですよね。TIFFは本当に映画は映像の力次第、って思える作品が多くて嬉しくなります。
roseさん随分気に入られたみたいですね!ふーむ、私roseさんの趣味嗜好をまだ把握してないみたい。
ピーター・ミュランの演技は本当に良かったですよね。深みがあって。
『ハッピー・ゴー・ラッキー』、これまた変わった映画みたいですね。日本公開はされていないけど、内容が気になるなあ。エディー・マーサンはイケメンではないけど曲者役者でいいですよね。
これ、観る前はてっきり「自分の土地に埋まった恐竜の化石をたった一人で掘り出すおじさんの話」というプロジェクトXみたいなのかと思い込んでた(笑
海外版のキービジュアル、シルエットの人がシャベル持ってるみたいに見えるし。
まさかこっち系のハードな人間ドラマとは思っていなかったので観てびっくり。
そして出来の良さにまたびっくり。パディ・コンシダイン、驚くべき才能でした。
ノラネコさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
>「自分の土地に埋まった恐竜の化石をたった一人で掘り出すおじさんの話」
これ面白そう!DIYモノですね♪何となくポリペンコさんみたいな映画?
ガッツリとしたハードな人間ドラマでしたよね。
ノラネコさんは、アグレッシブ親父からは遠そうですねw。私は結構、アグレッシブ親父の気持ちがわかるような・・^^;
タイトルとその中身の乖離に驚かされました。
いや、タイトルが間違っているというのではなく、
こんなスリリングな展開をするんだったら、
なにも文芸調の売りじゃなくてもいいんじゃないかと…。
よくサスペンスやホラーでは
「想像もつかない結末」として煽ること多いですが、
これこそ、ほんとうの「想像もつかない展開」でした。
えいさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
>こんなスリリングな展開をするんだったら、
>なにも文芸調の売りじゃなくてもいいんじゃないかと…。
あー、なるほど〜!サスペンスやホラーの「想像もつかない結末」売りはこの作品にはありですよね!それでいながら人間ドラマを感じさせるタイプの映画。
『イン・ザ・ベッドルーム』、『フローズン・リバー』、『ウィンターズ・ボーン』、『アニマル・キングダム』みたいな、人間ドラマではあるけれど、人の予想を裏切って進み、独特な味のある作品群の類ですもんね。個人的には文芸派作品はスルーする傾向にあるので、えいさんのおっしゃるような売り方の方が見に行ったかもしれません。もし私がTIFFで見ていなかったら。
でも、配給って仕事は難しいですねえ!だって私だったらどんなタイトルにするか、考えてみたんですが・・。「オールドパンクと傷だらけの天使」みたいな、どうしようもないタイトルしか思い浮かびません!(爆)
とらねこさん、随分お久しぶりになります。
いつも私のブログを読んで頂きありがとうございます。(*^-^*
私はハリウッドならばジョセフ役はジャッキー・アール・ヘイリーかな?と思いながら観ていました。^^
ジャック・ニコルソンも合いそうですね。
ナルホドです。
ジョセフもハンナもようやく自分を許せるようになっても、
周囲を許せるようにまではなってはいないかもしれないけど、
1人でどうしようもなくもがいていた時よりかは
心が浄化されたような気もしましたよ。
P.S.
トラックバックが不調みたいなので、URL貼っておきますね。
http://blog.goo.ne.jp/blue_city/e/fc4cf7aa20152d943522ccc691159572
また、コメント欄の書き込みの仕方がよくわからないので
重複していたら前の分は消しておいて下さい。m(_ _)m
BCさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
随分とご無沙汰しておりまして、本当にすみませんでした。
この間、『ハハハ』の画像を検索していたら、見たことあるタイトルに遭遇して・・「あ!!このブログ知ってる!」と喜んでしまいました。
私はずっとここ近年忙しくて、ブログをおろそかになっておりまして、おかげでいろいろな方と、本当にお久しぶりになってしまいました。お久しぶり過ぎて、逆に失礼かなあ・・などと思ってしまって。
思秋期のところにおじゃましようかと思ったのですが、TBがなかなか反映されていなかったので、もういいやー、と途中で退散してしまいました。
でも、後から反映されてたのですね。何故か、gooさんのところへは、後から反映されるようなのです。
コメント欄、書き込みの仕方がよく分からなくてスミマセン!
でもちゃんとアイコンが表示されています!ありがとうございます。アイコン設定してくれると、すごく嬉しくってー。
>ジョセフもハンナもようやく自分を許せるようになっても、周囲を許せるようにまではなってはいないかもしれないけど、
>1人でどうしようもなくもがいていた時よりかは心が浄化されたような気もしましたよ。
この一言に尽きますよねえ・・。
簡単に「傷を舐めあう」なんて関係ではなくて、魂の深いところで繋がる感じが良かったです。
というわけでちゃんと観ました。予想以上に重い作品でしたね。恐竜出てこなかったし・・・
エディー・サーマンは不気味だったね。フィリップ・シーモア・ホフマンにも通じる不気味さ。そしてわたしも他の出演作も観てるんだけど全然思い出せない・・・
暴力の末路を目の当たりにして、やるとこまでやって、主人公は暴力衝動から抜け出せたように感じたのですが、どうでしょう
あとピンクの恐竜が出てくるアニメは『ピュア島の不思議な仲間たち』だと思う
こんばんは〜アゲイン♪コメントありがとうございました。
そうね、おそらく主人公はもう二度と暴力を振るわないだろうと思えるよね。
観客である私達が「そうであって欲しい」と考えずには居られないだけかもしれないけど。
サーマンじゃなくて、マーサンねw。
『ミッション・インポッシブル3』辺りは忘れても仕方ないかも。再見したけど、それほど出てきてなかったから。『戦火の馬』辺り、覚えてないかな?最近だし。馬を銃殺しようとして、結局しなかった司令官役。
あー!そっか、それだそれだ!『ピュア島の不思議な仲間たち』。
以前、TV放映が1ヶ月で打ち切られたアニメがあった、って話したの覚えてる?それがこのアニメだったんだよ。楽しみにして、ぬいぐるみまで買ったのに、あっという間に打ち切りになって、子供の頃ビックリしたよ。セレンディピティちゃんのぬいぐるみ、まだ実家にあるかしら。