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ミュージカル『CHICAGO』@ケンブリッジ・シアター

旅行前に、ロンドンでミュージカルを観よう、と企画してはみたものの、上演しているミュージカルの種類が多すぎて、嬉しい悲鳴。古典から人気作品、最新のものまで、本当に世界中のミュージカルが集まっている場所、ロンドン。ムムッ、では何を観ようか、と思案にくれるわけです。そう言えば旅行前にニュースにもなってた『ゴースト』のミュージカル版ポスターも、チューブの駅構内で見かけたよ。

個人的に一番見たいのは『ヘドウィグ&アングリーインチ』。でもジョン・キャメロン・ミッチェルが主演じゃないと嫌だから・・いやいや、もうこの際そんな贅沢は言わない。ジョンキャメじゃなくてもいいので、再上映是非是非!

一緒に行くミュージカル好きな相棒に合わせて、「この旅の一番の思い出!」と言ってもらえそうな印象に残る作品にしよう、と考えた。『プリシラ』や『ダーティ・ダンシング』にしたいところをグッと堪えて、多少ベタでもいいから「いかにも」な感じの、ダンスも派手で楽しいエンターテインメントで、舞台芸術で目を引くような、そんな作品にしようと。本当は『オール・ザット・ジャズ』が良かったけど、なかったので『シカゴ』に決定。行く前に映画を見せたら、相棒にはあまりに不評だった。行く前からテンションが低い人たち。でももうインターネットでチケット買った後の祭り・・・。

よく考えたら私自身、『シカゴ』の映画は元々好きじゃなかった。一度目はもう、主人公の人間性がとにかく嫌いで。でも二度目に、ヴェルマ役が最高にキマってた、キャサリン・ゼタ・ジョーンズのダンスが、どうしてももう一回見たくなってしまった。そして三度目がこの旅行のための予習。嫌いと言いながらも、3度も見たら、『シカゴ』の良さが見えてきた。私、もしかしたらロブ・マーシャルが苦手なだけで、ボブ・フォッシーは好きなのかも。『シカゴ』のこの毒々しさも、ブラックすぎる世界の見方も、なんだか心にしっくり来るようになってしまった。いいじゃん、これ。ジョン・C・ライリーのセロハンソングは初めから大好きだし、主人公のビッチっぷりも本気でムカつくほどのものじゃない。したたかというよりは、ただのオツムの弱い勘違い女。むしろそれをエンタメに仕立てあげる弁護士のビリー・フリンこそ悪者だし、さらには、世の暗いニュースを喜ぶ、新しいもの好きで判断基準のおかしな民衆たちこそ同罪じゃないか、とかね。この作品の、アメリカの裁判制度がエンタメそのものである、という見方は、何も世をナナメに見ているわけではなく、仰る通りじゃないですか!なんて思うようになってしまった。弁護士の堕落を描いたカミュの『転落』が大好きな私が、『シカゴ』を好きになるのも、時間の問題だった。

という訳で、ミュージカル本番!

ケンブリッジ・シアターは、ミュージカルシアターの密集したコベントガーデンのド真ん中、七叉路にドドーンと建つ。インターネットで購入した、と言うと、名前を聞かれ、その場で封筒入りのチケットを渡される。時間潰しに、すぐ隣にある「The Crown」というパブで一杯。マチネーで見るので、昼間っからのビールです。ヒューガルデン1パイントが500円ぐらいで呑めるんだから、もう、ロンドンが好きになっちゃうよねー。

ミュージカル『シカゴ』にも、満足満足。確かに、悪趣味と言えば悪趣味な世界かもしれない。まんまドス黒い世界を、ここまで堂々と描かれると、「主人公の人間性が」、「罪が罰が」、などと言うレベルではない。お下品なミュージカルって私嫌いじゃないみたい。むしろミュージカルの本質かもしれない。このお下品がどんどん進化したら、こんなにこんなにブラックでディープな世界になっちゃう、っていう。

映画よりミュージカルは、主人公のロキシー・ハートが、ずっとコメディタッチで驚いた。ロキシーはついついお下品な本音を言ってしまう性格なんだけど、したたかな悪女なんかでは無く、ドジで馬鹿でビッチだけど憎めないひと、という感じ。実際、ロキシーが喋ると笑いが結構出ていたり。「エイモスのセックスが退屈で下手くそ」、という台詞や描写、「飲み屋で出逢った男と遊び歩くようになった、言わば夕食なしのデート」という、あれほど超ビッチな台詞で、あんなに笑いが出るなんて。すごい、ロンドンの人たちってブラックなのねー。

あと、ミュージカルを見て気づいたのは、アメリカの司法制度に対する熾烈なまでの皮肉っぷり。ロキシーとヴェルマ、二人の元・殺人者によるショーの後、拍手喝采を浴びて「ありがとう、素晴らしい国アメリカ、ありがとう!アメリカ最高!」という台詞。映画ではもう少しオブラートに包んで、あんなに強調はされてなかったよなー。

『NASHVILLE』では、アメリカの建国の式典で、大きなフェイクの銃を持ってパレードする描写がある。映画『シカゴ』でも最後のショーの時に、そんな銃を持っているよね。衣装も似ている。映画『シカゴ』は、ショーの後の『アメリカ万歳』という台詞を無くす代わりに、アルトマンをパクっていたのね。なるほどー。銃口をフッ!てするポーズが好きだったから、あれが見たかったんだけど、それはミュージカルにはないのでした。

*ケンブリッジ・シアター
メトロ Covent Garden
http://www.army.mod.uk/events/ceremonial/1068.aspx

Earlham St. London WC2
tel) 08444 124648

 

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