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東京人間喜劇 #61

’09年、日本
監督:深田晃司
脚本:深田晃司
プロデューサー:宮田三清
総合プロデューサー:平田オリザ

 

深田晃司監督の’09年の作品。オーディトリアム渋谷にて、1週間限定公開。何とか鑑賞。正直、上映状態はあまり良いとは言えないけれど、見ることができて本当に良かった。面白かったです。深田晃司監督らしい捻りがあって。ますます好きになった。

’07年の『ざくろ屋敷 バルザック「人間喜劇」より』同様、またもやバルザックの名が!と言っても、今回は原作を元にしている訳ではなく、小説の技法に着想を得て、ということらしい。簡単に言えば短編の連作モノ?w 関連する部分が少し重なる、でもそれぞれ別に主人公を置いている独立した短編。全作通して見ると、話が見事に繋がる。語られていない行間が、意味を持ってくる繋がりを見せるところが面白い。

 

第一章)白猫

とあるバレエ・ダンサーの公演会場で、偶然会った見知らぬ女性二人。偶然の出会いモノ。片方がもう片方へ、余った座席を譲ったのを縁に、一緒に御飯を食べて、その数時間を過ごす。

独身女性の本音の会話。結婚に失敗した女性と、未婚の女性。後者は別れ話を切りだされるが、それを言い出せず。前者は先ほどまで同席していた、現在の恋人の浮気が発覚する。

探しものはなかなか見つからず、見つけるものは検討外れなものばかり。

このコンテンポラリーのダンサーは、山海塾の岩下徹さんという方。

 

第二章)写真

第一章に登場した、女性の片方の、離婚した元夫の経営する小さな写真展会場。アマチュアカメラマンとして、初の個展を開いた女性の一日。友人は初日のパーティに誰も来ず、来なくても良いと思っていた、自分のファンの男性すら顔を見せない。学生時代の友人はちょうどその日に結婚をして、二次会にそっと顔を出す。惨めな気持ちで出席した他人の幸せいっぱいのバーティーが、さらに追い打ちをかける。私から見ると、この日一番彼女がショックを受けるべきだったのは、本物の写真家との隔たりだったのでは・・。鈍感なのか、気づいてないのか?

 

第三章)右腕

一章、二章と来て、割とほんのりしたテイストの物語が進む中、「少し物足りないかな?」と思っていたところ、この三章で一気に取り戻してくれました。深田監督のブラックさ、奥深さを感じさせる、圧巻の最終章。

二章のアマチュアカメラマンの彼女の、結婚式をしていたあの新婚さんの物語。始まるとすぐに右腕を交通事故で無くしてしまう。だが、その右腕にまだ神経を感じるとか。見えない右腕が痛みを感じたり、物を掴んだりするという。

感じるはずのない知覚「ファントム・リム」によって、彼が切り離そうとしていた痛みとは、本当はどんな意味があったのか。ラストにかけて二人の過去「本当の話」が一気に噴出して出てくるところが少し恐ろしい。新婚家庭、一見幸せそうに見える二人の、誰も知らない物語。

ラストにたたみかけてくる前に、実は一章と二章にも出てきた登場人物が、ニュースになってTVに登場する。銃を発砲した疑いで逮捕されるのは、一章の喫茶店経営者だが、おそらく本物の犯人は、元夫だろう、と観客にもすぐに読み取れるようになっている。

サラリとしか描かれていないのに、人間の内部にある痛みや孤独感が描かれている。沈黙の行間が立ってくる、この感覚がさすがである。

 

※ストーリー・・・
[白 猫]…ファンであるダンサーのサインを求め、ふたりの女が雨音響く夜の街を駆け抜ける。女性の抱く願望と孤独が夜の帷に垣間見える。[写真]…アマチュア カメラマンの女の子が初めて開く写真展の一日を通して描かれる、友情への期待と失望。現代日本において消費されていく「芸術」の一風景が冷ややかに切り取 られていく[右腕]…欠損した身体を脳があるかのように認識し続けてしまう「幻肢症」をモチーフに、右腕を事故で失った夫とその妻の間に横たわる溝と孤独 を描き出す・・・

東京人間喜劇@ぴあ映画生活

 

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