コクリコ坂から #51
’11年、日本
監督:宮崎吾朗
原作:高橋千鶴、佐山哲郎
企画:宮崎駿
脚本:宮崎駿、丹羽圭子
音楽:武部聡志
プロデューサー:鈴木敏夫
キャラクターデザイン:近藤勝也
撮影:奥井敦
音響:笠原広司
主題歌:手嶌葵
挿入歌:坂本九
キャスト:長澤まさみ、岡田准一、竹下景子、石田ゆり子、柊瑠美、風吹ジュン、内藤剛志、風間俊介、大森南朋、香川照之
想像してたよりずっと素敵な物語で大満足。ファンタジックな物語なのかと勝手に考えていたら、そうではなく。高校生の等身大の日常、という現実からの距離感もとても心地良く感じる。
心がどこか冷めて、無駄な情熱は失ってしまったかに見える、現代の若者を描いた物語ではなく、少し昔の日本人という設定なのがきっと、功を奏しているのかな。自分たちの文化について真剣に考えていたり、毎日を精一杯に生きている学生たちの姿は、それだけでとてもドラマティックな人間模様を見た気持ちになる。
美味しそうな、釜で炊くお米の朝食シーンからグッと心を惹き込まれた。私は手嶌葵の歌がよっぽど好きみたいで、あの柔らかな天使のような歌声を聴いているだけで、嬉しくて心が舞い踊る。手嶌葵の歌は、『雪の女王』のイベント付き試写会を観に行った時に、彼女がライブで(生で)歌ったことがあった。私はその時に初めて彼女の歌を聴いたのだけれど、「こんなに素晴らしい、本物の歌手が日本にも居るなんて!」と驚いてしまった。『ゲド〜』でも彼女が主題歌として使われているらしい。今後も宮崎吾朗はずっと彼女の歌を使ってくれないかな!?なんて思うほど、あの歌声は素晴らしいと思うの!
作品のテイストはどことなく、去年の『〜アリエッティ』や『マイマイ新子と千年の魔法』のよう。懐かしさと優しさに包まれた、正統派のアニメの良さをどこか感じられる作品。きっと主人公の真っ直ぐさが眩しいからかも。
「カルチェ・ラタン」の建物をじっくりと紹介する下りも気に入った。学生のたむろする建物のこの名は、パリの一区画の「カルチェ・ラタン」にちなんで名付けられたものらしい。個人的にはついこないだ、『パリ・ジュテーム』を再見したばかりだった。カルチェ・ラタンはジーナ・ローランズが脚本を書いた回のものだったっけ。
水彩画タッチの緑も目に優しいし、建物の濃い茶色の色もとても心地よい。二人乗りの自転車で走りだすシーンは、二人の心が動き始めたのを物語るようで、とても眩しく感じた。自分の中学3年生の時の初めての彼氏を思い出したりしたせいもあるかな?
ただ、「私のこと嫌いになった?」と突然尋ねるシーンには少し驚いた。まだ付き合っているとも何とも言えない状態の、ただ言葉を交わす間柄だっただけのはずなのに、突然そんな恋人のような口ぶりはちょっと、私だったらしないかな。澤村宗一郎の三人の写真は、「あれ?真ん中じゃなくて右側?真ん中にも似ているよね。」なんて思いながら見ていたら、ちゃんとオチに繋がっていて納得。
他に気になった箇所は、初めにカルチェラタンで集会を開いた時のたくさんいる学生の顔が、同じ顔がいくつもあって、顔の描き分けがあまりされてないのにちょっとガッカリ、最後に出していた2つの旗は、あれはどういう意味だったんだろう?そこがちょっと気になってね。
※ストーリー・・・
1963年、横浜のとある高校で、明治時代に建てられた由緒ある建物をめぐり、小さな紛争が勃発。16歳の海と17歳の俊は、そんな最中に出会い、やがて心を通わせていく。東京オリンピックを控え、国自体が活気づく中、ふたりは友情、そして愛を育んでいくが・・・
2011/07/24 | :アニメ・CG等
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コメント(32件)
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はじめまして、
エキサイトシネマからきました。
背景の水彩画のような美しい絵に和みました。
細やかな時代の描写には感激です。
主題歌の済んだ歌声にはは浄化されていくような雰囲気でした。
でも、何か物足りなさも感じます。
ちょっと型にはまりすぎた物語、
何より、人物絵が平板すぎてがっかりでした。
いろいろ気になるところはたくさんありますが、よかったです。
あの信号旗の意味は、
確か、
「貴艦の安全運航を祈る」
というような意味で、
応答旗をつけると、
「貴艦もね」
というような意味だと思いました。
Cochiさんへ
初めまして!コメントありがとうございました。
丁寧に描いた絵や、柔らかい水彩画みたいなタッチには好感が持てますよね♪
おっしゃる通り、人物描写が平板かもしれませんね。
真面目過ぎたかな。もう少し冒険しても良かったですよね。
私は全体的に、結構満足しちゃいました。
震災後、という雰囲気が感じられましたし。
BLUEPIXYさんへ
こんにちは!コメントありがとうございました!
なるほど、そんな意味だったのですね。
HOKUTOで一つの旗に一つのアルファベットを当てるのかな?と思ったので…
いつも揚げていた旗と最後に揚げた旗は二つだけのことが多かったですよね。
あんなに短い旗でどんな意味があったんだろう?と不思議に思っていました。
教えて下さり、ありがとうございました。
あの後、ちょっと調べて見ました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E4%BF%A1%E5%8F%B7%E6%97%97
の2文字信号の所。
>“U” “W”の順に並べて掲げると「御安航を祈る」の意になる
ということです。
基本2~4文字で意味を表すみたいですね。
あらかじめ組合せで意味が決められた、一種の符号というか。
HOKUTOのようなものは例外だと思います。
そういう符号じゃなくて、言葉を伝える場合、
手旗信号とかライトの点滅でモールスでやると思います。
BLUEPIXYさんへ
こんばんは!コメントありがとうございました。
私もBLUEPIXYさんからコメントいただいた後、そのページ見てみました。
ただ、最後に出していた旗って、二文字だったのは確かなんですが、その「UW」の旗でしたっけ・・・?
記憶をたどるだけなのでハッキリとは言えないんですが。
もう一度DVDで見返してみようかな。
最後の場面の旗が、最初と違っていたかどうかは(同じだと思っていた思い込みがあるかもしれないので)ちょっとわからないんですが、
http://polytechnic-sato.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-0863.html
で、船乗りの方が解説を書いてらっしゃいます。
(普通は回答旗を使わないのだとか)
その予告篇では、オープニングの旗はUWですね。
舟側の回答旗をつけるのか1旗をつけるのかは上記リンクでもいわれるように
2通りの場面があったように思います。
BLUEPIXYさんへ
こんばんは!コメントありがとうございました。
そうなんですよ、最後の旗・・私も思い込みで同じだと思っていた節もあるのですが、最後の旗は一つには、赤と黄色の旗があったように記憶してもいます。定かではないので断言は出来ませんが。
船乗りの方のブログ、教えていただいてありがとうございました。
予告編で見る限りですと、確かにこの二種類の旗はこの方のご指摘のとおりのようですね!
私的には過去の宮崎駿監督作品を含めても、ジブリ作品中かなり上位に来ます。
21世紀に入ってからではダントツかな。
これって今を生きるために、失われた過去を発見する話。
カルチェラタンに象徴させてるんだけど、海と俊の過去もそうだし、実は日本映画の歴史でもあり、日本社会の歴史でもあるという。
非常によく考えられたロジカルな物語だと思います。
すばらしい。
ノラネコさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
おお、そんなに評価が高いのですね!
カルチェラタンについての考察の鋭さ、なるほどと思います。
実は日本映画の歴史と言われると、苦いものがあるような。
山田太一が言ってましたが、「日本のドラマは、積み上げてきたものや反省を省みないものになっている、そこが作っていて虚しい」と、『ふぞろいの林檎たち』の後で言っていました。もう作りたくなくなってしまった、というような主旨でした。
これはドラマについての話ですが、日本映画を見ると本当にそう思いますね。特に素晴らしい昔の日本映画を見ると、何故今の映画業界はこうなってしまうのか、と思ったりします。
私もこの作品はアニメだったからこそ、心惹かれる物語となりましたよ!たぶん実写でやられていたら、私にはダメだったかも。
こんにちは。
ジブリ映画ですが、吾朗監督なので心配でした。
冒頭は学生運動臭がぷんぷんなので余計に心配でした。
ですが、駿監督の企画・脚本なせいか演出はちゃんとジブリでしたね。
てきぱきとした動き、特に調理の細かさはジブリ独特の細かさですし、カルチェラタンのごみごみした様は「ジブリだなあ」と安心しました。
話自体も、大きな山はないですが丁寧に作ってあって良かったです。
健太郎さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
そうですね!皆さん心配してたみたいですw
と言っても私は前作のゲド〜は観てないんですが。というのも、原作ファンなので、変なリメイク無理なもんで・・。
私も、丁寧な絵にはとても満足してます。
カルチェラタン良かったですよね!予想してたよりずっと良かったです。
お久振りです。けちをつけるブログ記事が多々ある中で、とらねこさんの絶賛を読み、うれしくなりました。私も実写でなんかは見たくないです。50年前の若者は、肉体も、顔立ちも、動作も、しゃべり方も、呼吸の仕方や鼓動の打ち方が、今の若者とはまるで違っていたと思います。今の若者をいくら訓練しても、うわべだけでも表現するのは無理でしょう。時代劇なら仕方ないけれど、あのころの青春を生きていた世代がまだ生きているので、彼らは、そんなまがい物は受け付けないと思います。アニメだから表現できたのでしょう。
Biancaさんへ
こんばんは〜♪随分と、お久しぶりです!!コメントありがとうございました。
「絶賛が嬉しくなった」と聞き、こちらこそ嬉しいです!私も、この作品は思ったよりずっと評判が芳しくなく、何故なんだろう・・と寂しい気持ちになっていましたので。
そうなんですよね!いかにも実写でありそうな物語でしたが、そうでなく、アニメだからこそ心を打つ部分が多くありました。実写になってしまうと、こぼれ落ちてしまうリアリティとファンタジーの狭間、とでも言うのでしょうか?
上手に実写化されるなら、それに越したことはないのですが、残念ながら日本の映画制作会社をそこまで信用していない。というのが、私の意見です。
Biancaさんは演技のまずさを挙げられましたが、まずその辺でつまづいてしまうのですね。それから、演出のまずさ。
アニメだからこそ胸を打つ作品でした。