赤い靴 〈デジタルリマスター・エディション〉 #48
’48年、イギリス
原題:the Red Shoes
監督・製作・脚本:マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
撮影:ジャック・カーディフ
美術:ハイン・ヘックロス
編集:レジナルド・ミルス
音楽:ブライアン・イースデル
振付:ロバート・ヘルプマン
出演:モイラ・シアラー、アントン・ウォルブルック、マリウス・ボーリング、ロバート・ヘルプマン、レオニード・マシーン
「映画史上に残る傑作」と呼ばれる、’48年の『赤い靴』。スコセッシ監修で復活させた、デジタルリマスター版。リマスターにたっぷり時間をかけたのも頷ける。48年のアカデミー賞美術賞等を受賞した、美しい美術をたっぷり堪能。映像がとても綺麗で、思わずハッとしてしまうほど!
折しも、『黒い白鳥』が大ヒットしたばかりというこの時期に公開をぶつけてきたのも分かる。こうして見ると『ブラック・スワン』は、この作品を念頭に置いて作られたのだろう、と思われる箇所が随所にある。『ブラック・スワン』を見た人は、この作品と比べて見るのも一興だ。「ダンス映画の最高峰」と呼ばれるべき古典的傑作だけれど、今見てもなんて豊かな芸術性なんだろう!
アンデルセンの童話を元に作られたダンス作品の、「赤い靴」。躍り出したら止まらなくなってしまう、呪われた「赤い靴」のメタファーは、芸術に憑かれる精神性そのものだ。ラストに問われる「芸術か愛(私生活)か」の二者択一に相まって、それらをシンボリックに表現するラストが圧巻だ。
「芸術か愛(私生活)か」の選択を迫るのは、この作品を創り上げた劇団の主宰者でありプロデューサーであるボリス・レルモントフ。このレルモントフは、ニジンスキーを発掘したバレエ団のディアギレフを元にしているらしい!そう聞くと思わず興奮してしまうでしょ?!(知らない方は、是非ディアギレフとニジンスキーの関係について調べてみてね。これがまた、滅法面白いんですよ。)
以下、ネタバレで語ります*****
下
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ネ
タ
バ
レ
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『ブラック・スワン』も芸術に憑かれ、白鳥の舞台に呑み込まれる。そして最後の白鳥の落下があるが、『赤い靴』の主人公もまた、飛び降りてしまう。「芸術か愛(私生活)か」の選択を迫られ、どちらとも選べなくなってしまったか。だが最後に赤い靴を履いたまま飛び降りる。ここは第一幕第一場のシーンであるから、本来は赤い靴を履いて舞台に出るシーンではないはず。つまり、主人公は意図的に赤い靴を履いて飛び降りたのだ。その呪い通りに。
芸術を選ぶのであれば、何も悲劇的な選択を選ばず、そのまま舞台に行くべきではないか?と思ったりもする。だがここで、私はふとニジンスキーの人生を思い出した。ニジンスキーが、愛(世間一般の生活)を選ぼうとして、そしてどうなったか・・・。そう考えると、「選べない」、という主人公の答えは、とても納得がいくもののように思えた。
※ストーリー・・・
バレリーナのビクトリアと新人作曲家ジュリアンの名は、新演目『赤い靴』で広く認知されるように。だが、彼女を育てることに情熱の全てを注ぐレルモントフ・バレー団主宰でありプロデューサーのボリス・レルモントフは、ふたりの恋心を快く思っておらず・・・
2011/07/18 | :音楽・ミュージカル・ダンス
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コメント(6件)
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最後になぜ赤い靴を履いていたか・・・にゃるほど
なんか考えるに値する問題ですぞっ!
manimaniさんへ
こちらにもありがとうございます〜♪
うん、私もあまり考えずに「男は勝手だなあ」という話で終わらせそうになってたんですけど・・
ちょっと最後の方、強引な展開だから上手く表現できていないだけで、狙っている部分は上に書いたようなところがあるんじゃないのかなーって思っちゃたのでした。
深読み、と言われてしまえばそれまでなんだけれど・・。
こんちは。
遅レスですいません。
男の方が最初、バレエ観劇の時に「音楽を聞きに来た」といい、女は(違う女だけど)踊りが素晴らしいと言う。男は最後まで音楽至高を崩さないし、女も最後まで踊りを捨てられない。愛って役立たずだなあ。
本当は赤い靴は二人が産み出した愛の結晶なのだから、二人が死んだ後でも生き続ける愛のない二人の禍々しい子供なのかもしれない、というのは深読みのしすぎだ、きっと。
ふじき78さんへ
こんばんは〜♪こちらでははじめまして!かな?
コメントありがとうございました!
>男の方が最初、バレエ観劇の時に「音楽を聞きに来た」といい、女は(違う女だけど)踊りが素晴らしいと言う。男は最後まで音楽至高を崩さないし、女も最後まで踊りを捨てられない。愛って役立たずだなあ。
へー!すごい鋭いコメントですね。なるほど、その違いは最初から現れていて、決して埋らない違いだったんですね。
「愛って役立たずだなあ」という一文も、なんかカッコイイし〜!
やれば出来るふじきさんに驚き!
赤い靴はいてた女の子、ひいじいさんに連れられて行っちゃった。という話かと思っていました
たぶん、もとの童話は芸術とは関係ない教訓のような気がしますが、赤い靴が象徴する芸術(バレエ)と愛の狭間に囚われる、という悲劇にうまく変わっているような。
http://bojingles.blog3.fc2.com/blog-entry-3048.html
ボーさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
>赤い靴はいてた女の子、ひいじいさんに連れられて行っちゃった。という話かと思っていました
私もです(笑)
>赤い靴が象徴する芸術(バレエ)と愛の狭間に囚われる、という悲劇にうまく変わっているような。
赤い靴を履くと、踊りたくなる。芸術に心を奪われる様を、映像と美で魅せた詩的な表現ですよね!