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アリス・クリードの失踪 #37

’09年、イギリス
原題:The Disappearance of Alice Creed
監督・脚本:J・ブレイクソン

ジェマ・アータートン  : アリス・クリード
マーティン・コムストン : ダニー
エディ・マーサン    : ヴィック

 

脚本力で魅せる、小粒な佳作!

ワンシチュエーションの作品が好きだ。特に、マンションの一室のような、エクストリーム限定された空間モノなんて大好物。さらに今回のように、現実時間が劇中時間とほぼ同時刻に動いていくものは、秀逸だと思う。ワンシチュエーション物で好きな作品は、『十二人の怒れる男』(『12人の怒れる男』も)、『テープ』、『ハードキャンディ』。『スルース』も大好きだったし、『キサラギ』も好きだった!・・・他に思い出したらまた追加するかも。

私はたぶん、舞台劇のような作品が大好物なんですよね。「舞台劇のよう」というのは、映画としてはとても褒め言葉とは言えないかもしれないけれど。会話だけで人生を感じさせる、ということは決して珍しいことではないし、その限定されたシチュエーションに、より多くの可能性を与えていくのは想像力だと思う。戯作を読むのも昔から好きだったりするので、そういう自分の資質にだいぶ寄るところは多いだろうし、全ての映画好きに当てはまるとはとても言えないだろうけれど。

たった3人の登場人物で始まるこの物語。シチュエーションに関しては、手際よく説明される。そして、冒頭から何分経ったところで、どの人物と、どの人物の関係性が明かされるか。さらに、そこからどういう展開1が広げられるか。こうした見方をしてみると、非常にクレバーなやり方で、飽きさせないよう綿密に計算されているのが分かる。

まず、初めに明かされる関係性で、誘拐モノとしてよくある設定ではないことに驚かされる。ある一人物とある一人物の関係性が明かされる、というものであるのだが、それを知らない「もう一人の人物」というのが一番難物で、勘が鋭いと来ている。さらに、次の展開で明かされるのが、最後のもう一人の人物と、二人のうちどちらか一方との関係性だ。これによって緊張感はいや増していく。ほぼ、この二つの関係性の危ういバランスの元に、成り立っているのがこの事件であるのだ。

100分という時間を飽きさせないための工夫は、適切な演出である、ということが、この作品を観るうちに実感してくる。観客を納得させるに足る台詞、これに余計な台詞があると頭に引っかかってしまう。次の展開を待つまでの間に持たせるだけの台詞。一工夫。さらには、役者の演技の一つで印象が変わってしまうぐらいの繊細さ。

私は、全てに満足がいったとは言わないまでも、充分面白く、満足して観ることが出来た。

 

 

※ストーリー・・・
若い男と中年男のふたりは、綿密な計画のもと富豪の娘アリス・クリードを誘拐する。囚われた彼女は、首謀者の中年男が外出中に反撃を試みるも、誘拐犯の若い男から驚愕の事実を告げられる。その後、誘拐犯とアリスの関係はねじれ、3人の力関係が逆転していき・・・

 

アリス・クリードの失踪@ぴあ映画生活

 

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コメント(20件)

  1. こんにちは。とらねこさんが例にあげられた作品、私も大好きです。追加させてもらえば『十二人の怒れる男』をモチーフにした『12人の優しい日本人』も大好き。

    「舞台劇のよう」な映画っていずれも脚本力に優れているように思うんですけど、その魅力は会話の妙であり小さな舞台上で物語が想像より常に先へ転がり膨らんでいく展開力にあるのかもしれませんね。

  2. アイディアと確かなストーリーテリングのテクニックで魅せる、なかなか楽しめる佳作でした。
    まあもう一捻り欲しかった気もしますが、低予算を逆手にとった物語は、良くできた推理小説を読む様な、先の見えない面白さがありましたね。
    この作者の次回作が楽しみです。

  3. かのんさんへ

    こちらにもありがとうございます♪
    私も『12人の優しい日本人』好きでした!これ、オリジナルが大好きだったので、その違いも楽しめましたし、「こんなのが日本でもやれるんだ。」なんて驚きました。特に最後の、トヨエツが付け加える一言で、作品全体がの印象が変わり、ふわっと軽く思える辺りが三谷幸喜らしくて、好きでしたね。この頃は三谷幸喜が好きだったんですよw

    かのんさんも舞台劇のような作品がお好き、と聞いて嬉しいです!映画好きさんの中には、「舞台劇みたい」というのを貶し言葉のようにしている方がいたので。
    私はむしろ、舞台劇は無から有を作り出す感じがあって、すごく好きなんですよね。もしかしたら、ガラかめ好きのせいかもしれませんがw

  4. ノラネコさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!

    >低予算を逆手にとった物語は、良くできた推理小説を読む様な、先の見えない面白さがありましたね

    本当にそうですね!小説と違って、顔が見れる分、表情や顔の筋肉一つで、心理がありありと読めてしまうんですよね。
    こういう、心理面が大事で緊張感が増せば増すほど、演出の確かさが大事になるんですよね。
    私は役者の演技を見てるだけで楽しい人なので、こういう作品は一粒で何度も楽しめちゃったりします♪
    この監督の次回作はどうなるんでしょうね?こういうワンシチュエーションものって、同じような作品は二度と撮らない人が多いようですね。

  5. こんばんは♪

    あ~、男と男と女が密室でってーと
    やっぱ『テープ』思いだしますね…
    この手の作品には話転がす手練手管でメロメロにして欲しいんですよね
    会話と、何を見せて何を見せないか、だけで2時間弱話をひっぱる業をみてぇっつーww

    本作も味わい深くて良かったです
    よく解る!監禁部屋の作り方(そして何気にベッド固定した位置が絶妙www)
    アリスが程よく不細工(令嬢ってよりビッチ…おそらくそれも計算の内)
    ヘタレ攻め×オラオラ受け(で、合ってますよね?)
    辺りがツボでした

    でも、わたくしも、もうひと捻り欲しかった派ですわ
    倉庫でもう1回くらい超展開くるかなー思てたんですが
    割とそこはサラサラ~て感じだったので…
    なんだったら反則オチでもwww

  6. みさま

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。

    >テープ
    ですよね〜!文中に挙げたのは、ワンシチュものとして、ってことで大きなくくりにしちまいましたが、
    みさんのおっしゃるように、「男と男と女」で「マンション一室」モノ、と言ったら間違いなく『テープ』!てのは、私が何もリンクレイター好きだからではあるまいっっ。
    きっと監督は、『テープ』を見て考えた、って感じのピンポイントぶりですよね。みさんはさすが。

    監禁部屋の作り方!そっから丁寧にやってましたね〜。
    一旦裸にして、エッドキドキ・・と思ったのもつかの間、どっちの男も当然ながら何もせず・・・な理由がその後分かる!そしてそれぞれが別の理由によってw
    アリス役の女優さんがビッチなのは、親に勘当された、っていう設定が利いてますよね(?)。
    本当、最後はもっと疾走感ある、一捻りが欲しかったとこでしたー。
    これ、ラストが尻つぼみにさえなってなかったら、もっとみんな評価が高かったんだろうと思うんだけど・・

    >ヘタレ攻めXオラオラ受け
    なのか?w ・・ここでブブーっと噴きました!

  7. こんばんは。

    登場人物が3人だけの凄いシンプルな作品でしたね。
    冒頭の犯行の準備と、犯行の初期段階だけで引き込まれてしまいました。
    新人の監督さんですが、今後が楽しみですね。

  8. 健太郎さんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    シンプルでいかに物語に飽きさせない工夫をしているのか。そういうところばかりを見ていると、普通に物語を楽しむより何倍も楽しめてしまうんですよね。
    そういう見方が慣れている人には面白い作品ですよね。映画好きにはなかなか好評だったように思います。




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