フィッツカラルド #35
’82年、西ドイツ
原題:Fitzcarraldo
監督・脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク
製作:ヴェルナー・ヘルツォーク、ルッキ・シュティペティック
撮影:トーマス・マウホ
音楽:ポポル・ヴー
特殊撮影:フヴェルナル・エレミッチェラ、ミゲル・バースケイス
クラウス・キンスキー : フィッツカラルド
クラウディア・カルディナーレ : モリー
パウル・ヒットシェル : パウル
ウェレケケ・エンリケ・ボホルケマ : ウェレケケ
とにかく、凄い!!としか言いようのない映画。
「狂った映画」、って何があるだろう?・・・というと実は、本当に狂った映画なんてなかなか見当たらない。ちょっと表現方法が変わっている、とか、猟奇的であったり、そのぐらいのもので、真の意味で「気狂いとしか言いようがない」と言えるような「狂気No.1」に耐えうる映画はほとんど見つけることが出来ない。
この作品は、「凄く感動した!」とか、「これはまさしく大傑作!」というのとはちょっと違う。それより、「とにかく凄いものを見た」としか言いようがない。
アマゾンに鉄道を引こうとして、破産してしまった実業家のフィッツジェラルド。本当はフィッツジェラルドなのだけれど、地元の人達にはきちんと発音が出来ず、「フィッツカラルド」で名が通っている。オペラに感動した彼は、オペラハウスを作ろうと計画するが、大金が要るが手元にないので作らないといけない。ではゴムの事業で一山当てようという。そのやり方はとにかく常軌を逸している。通常ルートでは行けない場所へ行くため、船で大陸を越えようというものだった。
自分の事業が破産するという経験すら、平凡に生きる私たちには経験しようがないことだ。フィッツカラルドはさらに別の事業に手を出し、首狩り族たち何十人もに協力を仰ぐ。実際にこの映画でもアマゾンの山を切り崩し、船をクレーンで吊るし、撮影を決行してしまう。「一体何が起こるんだろう?」「どんな風に撮るんだろう?」と思ったら、まんま実行かよ!?本気でビックリする描写。開いた口が塞がらないまま映画が進んでいく・・。この感じが最高。
クラウディア・カルディナーレは娼館の女将(おかみ)役。唯一、フィッツカラルドを理解出来る人物、という役柄だ。クラウディア・カルディナーレの美しさがまた、全然意味がないのだが、そんなことは全く誰も気にしない。真っ白なスーツを着たクラウス・キンスキーの演じるフィッツカラルド。この人は本物なのか、狂気の人なのか、とにかく強引に話が進んでいく。
こんな映画は見たことがないし、こういうものを撮ってしまおうという思いつきそれ自体が途方もなくて、フィッツカラルドはまるで監督その人にしか思えない。
それにしても、初めて事業をやろうと言う人は、いつだってこんな心構えなのかもしれない。巨大な風車に向かっていく、我こそはドン・キホーテである!!!なんて。
映画を撮ろうという気持ちだって、こんな気持ちが無ければ凄いものは撮れないのかもしれない。大衆に受けるものを作ろうとか、小さくまとまった作品を作ろうとか、そういう思いは一度も考えたことがない人なのではないか?このヘルツォークって人は?
ラスト、失敗したという事実をまるで感じさせない、威風堂々たる姿でオペラを流しながら(「ワーグナーではなくて」、ベッリーニの『清教徒』)、船で悠々と帰ってくるクラウス・キンスキーの表情がまたすごい。「ドヤ顔」の意味を知らない人は、是非このクラウス・キンスキーの顔を見てみて欲しい。ドヤ顔ってこんな顔。
2011/06/22 | :ヒューマンドラマ
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コメント(6件)
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また、上映されていましたね。
2008年に観て、驚倒したのでこの監督の特集には大変、興味があったのですが、行けず仕舞い・・・。
「とにかく凄いものを見た」としか言いようがない。
この作品を一言で述べると、この言葉しかないんですよね、ホントに。
imaponさんへ
こんばんは〜♪わーいお久しぶり!コメントありがとうございました。
imaponさんのところも遊びには行くのですが、最近足跡残してませんでした。スイマセン!
そうそう、これ上映やってたんですよ、特に今回は初上映のデヴィッド・リンチプロデュースのものもあったんですよ。でもそうでなくても、他の回も結構人入ってました。
本当、凄いもの観た、って感じでww
なんか変人度合いのスケールがデカイと、返ってせいせいしますね♪
いよっ、ドヤ顔〜!って感じでした。
この映画思い出させてくれてありがとうございます。
最後のドヤ顔は 自分に対してドヤ顔してるよーで こちらまで清々しい気分になりました
でも映画館で観ないと 絶対ダメな映画ですね
よしはらさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
観よう、観ようと思っても、なかなか観ない映画って結構ありますよね。私も死ぬまでに観れればいいかなあ、と思ってる映画や本がいくつもあります。確かにこれ、映画館でないと良さが伝わって来ないかもしれませんねー。うーん、PCの画面なんかで見ちゃったら、退屈で退屈で仕方がないのかも・・。でも、くじけつつも頑張ったよしはらさんが、エライ!です。
最後のドヤ顔には笑いましたよね〜!あんな絵に書いたようなドヤ顔なんて、なかなか演ろうと思ってやれる顔ではありませんよね。w