冬の小鳥 #34
’09年、韓国、フランス
原題:Ye Haeng Ja
監督・脚本:ウニー・ルコント
製作:イ・チャンドン、イ・ジュンドン、ロラン・ラボレ
編集:キム・ヒョンジュ
キム・セロン : ジニ
パク・ドヨン : スッキ
コ・アソン : イェシン
パク・ミョンシン : 寮母
ソル・ギョング : ジニ父
ムン・ソングン : 医者
この作品は、去年どなたかのブログでベスト10に入っていた作品だった。私はイ・チャンドンが製作していたことをその時に知って、しまった!見るべきだった!と後悔し、名画座で見たのでした。イ・チャンドンの名前だけ、後は何も知らずに見たのだけれど、とても良い作品だった。まるで『エル・スール』や『蝶の舌』、女子だけの学校ということもあって、『エコール』も思い出したり。
父親に捨てられたという事実を考えたくないばかりに、施設内で反抗を続ける、9歳の少女のいじらしさ。これが不思議な魅力を放っている。反抗するといっても、その実大したことは出来なくて、垣根の向こうで居座りを続けて頑張ってみたり、養子探しに来た人々に口を利かなかったり。悲惨な境遇の少女を描くのに、ベタに泣かせる見せ方をするのではなくて、静謐な落ち着きと共に、しっかりと見せていく語り口。これがとても心地が良くて、少女が次にどんな顔を見せるのか知りたくて、全く退屈せずに見ることが出来た。
9歳の少女と言えど、実はしっかりと事実を認識しているのだ。しかしそれを受け入れることが出来ず、どこにもやり場のない思いを抱えているのが分かる。心理分析医に向かって、「自分がここにいるのは、安全ピンのせいなのだ」と話を始めるシーンがある。物語の中ではそうした回想シーンの描写があるわけではない。おそらくはいつまで経っても迎えに来ない父親について思いを子供なりに巡らせるうちに、子供なりの感受性で、ピンと来ていたのだろう。
父親が再婚し、連れ子だった主人公のジニ。義母に父親との赤ちゃんが出来、赤ちゃんに安全ピンが刺さるという事故が起きてしまう。赤ちゃんが死ぬところだった、と義母が泣き騒いで、父親は彼女をこの施設に連れて来たのだ。子供ながらおそらく何度もその事を考え、抱え込んでいたのだろう。大人になってもおそらくは忘れられないのだろう。
この作品の中で、雨に打たれていた鳥を可哀想に思い、ジニとスッキが救って下駄箱の中に入れるシーンがある。すると、その後小鳥は死んでしまう。小さなシーンだったが、これがタイトルになっているところが秀逸だ。
私も実は、父親が出て行ってしまった原因について、子供の頃、何度も一人で考えた気がする。自分は何か間違ったことをしたのだろうか。父親に酷く怒られた経験は何があったのだろう、と。その後何年も夢に見たし、心の傷は、きっといつまでも忘れられない。
※ストーリー・・・
’75年の韓国。父親に捨てられた9歳のジニは児童養護施設に預けられることになる。しかし、自分が捨てられたことを信じない彼女は周囲に馴染もうとせず、ひたすら反抗的な態度をとり続ける毎日。脱走を繰り返しながら彼女はひたすら父の迎えを待ち続ける・・・
2011/06/20 | :ヒューマンドラマ
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コメント(4件)
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お久しぶりです。
この映画昨年秋、岩波ホールで観ました!
淡々と進むストーリーなのだけど観終わった後、なぜか心にずっしりと残る作品でした
。とにかく主演のキム・セロンちゃんが上手くて・・・・。難しい内面の変化を表情だけで(それも子役特有のオーバーな演技ではなく)表現する演技に感嘆しました。
今年は秋に「おじさん」でウオンビンとの共演が見れるので楽しみです。
韓国は、孤児院がらみの映画やドラマが多いですね。
作者も里子としてフランスに渡ったとのことですが、韓国映画なのに、フランスの香りがして・・・・私は昨年観た映画のトップ3に入れました!
久々にくらくらするくらいよかった映画でした。
ひとつひとつの出来事によって描かれる登場人物たちの気持ちが胸に刺さりまくって。
私も最近名画座で観ました。もしかして同じとこかな?
cinema_61さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
随分、お久しぶりです〜!来てくださって、すごく嬉しいです。お元気でいらっしゃいましたか?
そうですね、これ岩波ホールでしたね。その時ご覧になっていらしたんですね。
これはすっごくいい作品でしたー!心に残る名作級ですよね。去年のベスト3に入れた、という気持ち分かります。私も、去年のベストにこれ入れたかった!ぐああああ!って気持ちでいっぱいになりましたw
なるほど、キム・セロンちゃんの次回作は「おじさん」ですか。
お、おじさん・・。これまた適当なタイトルですが、中身は面白そう!w
ふむふむ、ノワール映画ですか。しかも『レオン』風だとか。
どこかフランスの香りがする、って分かる気がします。
いやー、これは本当にいい映画でした!素晴らしかったなあ。
ウニー・ルコントさん、苗字が気になって、この方についてネットでいろいろ調べたんですが、あんまり出てこないんですよね。
ぼんべいさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
おお!ぼんべいさん、すっごいお久しぶりです!ぼんべいさんがここにコメントくださるの珍しくて、すっごく嬉しいナ!
ぼんべいさんもこれ、名画座でご覧になられたのですね、そしたら一緒のところかもしれません。三茶かな?w
ぼんべいさんがこれを「久々にくらくらするぐらい良かった」とおっしゃる気持ち、すごく分かります!
私は「去年のベストに入れるべきだった!」と激しく後悔してましたwいやー、素晴らしかったです。
「一つひとつが刺さる」って分かります。ベタに泣かせようとしないところがまた良かったですー。