ゲンスブールと女たち #32
’10年、フランス、アメリカ
原題:GAINSBOURG,VIE HEROIQUE
監督・脚本:ジョアン・スファール
撮影:ギョーム・シフマン
編集:マリリン・モンチュー
衣裳:パスカリーヌ・シャバンヌ
音楽:オリビエ・ダビオー
エリック・エルモスニーノ : セルジュ・ゲンズブール
ルーシー・ゴードン : ジェーン・バーキン
レティシア・カスタ : ブリジッド・バルドー
ダグ・ジョーンズ : ラ・グール(面)
ミレーヌ・ジャンパノワ : バンブー
アナ・ルグラリス : ジュリエット・グレコ
サラ・フォレスティエ : フランス・ギャル
ヨランダ・モロー
クロード・シャブロル
時々、こういう作品に出逢えるから、映画ファンはやめられない。
セルジュ・ゲンズブールを描いた、というだけでもう食指が動く、という人は多いだろう。でもそれ以外の人にも是非見て欲しい傑作だ。どう素敵かというと、セルジュ・ゲンズブールその人に関する知識がまるで無くても、音楽がとにかくカッコ良くて、それだけで酔える。
まぎれもなく天才で、途方にくれるほどカッコいいイカレ親父。「チョイ悪オヤジ」という言葉は結構前に流行ったけれど、とてもチョイ悪どころではない、生まれながらの破天荒さがちゃんと伝わるし、その表現方法自体、当たり前の手法を使わないところがさすがのフランス流。数々の浮き名を流したモテモテぶり。ミュージシャンとしての才能ばかりでなく、絵画にも長けていて、さらに類を見ない詩人でもある。「何となくフランスのお洒落な雰囲気を感じるだけの面倒臭い映画なのかな」、と敬遠する人にも必ず観て楽しめる映画だ、と断言する。
私は、セルジュ・ゲンスブールというと(”ゲンズブール”と日本では記述されていたのでそう覚えていたが。実際はゲンスブールとゲンズブールの間ぐらいの発音らしい。)、彼が死んだ後にその名を初めて知ったぐらいだ。シャルロット・ゲンズブールのお父さんであるとか、ブリジッド・バルドーとの恋愛話・・など初めてその名を聞きかじり、ジェーン・バーキンとの大胆なキスショットの写真で初めて彼の写真を見た。まあ、よくあるサブカル少女の道筋を辿っていっただけ。ジェーン・バーキンとのキス写真などは、わざわざ切り取って部屋に飾ったりしていた。セルジュ・ゲンズブール(ゲンズブールでいいかな、こっちで慣れてるし)の写真を見てカッコイイとは全く思わなかったけれど、天才と言われていたので、一応音楽を借りて聞いてはみたりもした。とは言え当時の私には、ブツブツ喋っているかのようなシャンソンの歌い方が、どこがいいのかサッパリ分からなかった。まあ無理もない。その頃の私はHR/HMさらにパンク、ハードコア好きだったので、シャンソンはちょっと(笑)。彼女とのデュエットの曲を聞いた時も、何だコリャあ?!気持ち悪〜い!としか思わなかった(ファンの人スイマセン)。『ジュテーム・モワ・ノン・プリュ』やその周辺も、念のため見たという感じだ。飲んだくれで髭面で性格がロックな人、という古い記事はいくつも読んだ。顔を見る限りでも、そのモテモテぶりに納得が行くことは絶対ないのに、何故死後もそれほど人気なのか、理解は出来なかった。まあいろいろな趣味の人が居るんだろうぐらいの感じだった。この映画を見るまでは!
子供の頃の想像力の中で、嫌われ者の教授の姿を思い描いていた、まさにその姿に自分自身が成り代わっていく表現には、ハッとさせられた。自分の分身でもあり、情動の姿でもあり、自由を好む、かたくなな化物のようなエゴ。(ダグ・ジョーンズ(『パンズ・ラビリンス』『ヘルボーイ』他)がこれに扮している!)でもこの存在があったからこそ、芸術家として大成もした。彼に絵画をやめさせ、音楽家としてのキャリアを積むことを教えたりもする。
ゲンズブールの顔や姿には、CGが多用され、よりソックリに見えるような処理が施されているらしい。そのためもあって驚くほど似ているし、それ以外の登場人物たちにも大満足。ゲンズブールとジェーン・バーキンの出会いのシーンが見れるなんて!シャルロットに至っては合成だよね?きっと。だってソックリすぎ。
個人的に好きなのは、ゲンズブールの人生がまだ定まる前である、前半の方。少年の心を持ち続けていた頃。自分の半身と合体した後の後半では、人生の虚しさを感じても居ただろうなと。彼の芸術は初めから完成形だ。誰からも学ばずしてすでに完璧。彼の魂を助けることは誰にもできず、ただ女性たちの存在は、一時の慰みであったのだ、としている。そうなんだろうけど、古い記事を昔に読んだ自分には、ジェーン・バーキンの存在だけはもっと大きい、と勝手に思いたかったようだ。父親が死んだ時、またバーキンの残した不細工な犬が死んだ時に、どうしようもなく悲しみに暮れていたという表現は、とても好きだった。どんな女と別れても平気な顔をしていたのにね。
後半で、フランス国家に対する反逆罪、とすら言われるレコーディングを行う。ここはさすがの反抗児!と胸がすく思い。一番好きなシーンは、ジュリエット・グレコとの出会いでピアノを弾くところ。ワインが飲みたくてたまらなくなる、最高に素敵なシーン!あとは、何故かロシア民謡を学校で指揮するところも大好き。それから、「棒キャンディを舐める」って歌、アッシュ・リンクスが歌ったから知ってたけど、これってゲンズブールが作った歌だったのね!とw。何も知らない18歳の女の子に、こういう歌歌わせて悦に入る、っていうポンコツ親父っぷりがマジ格好いい!(後から裏の意味を知ったフランス・ギャルが落ち込んだ、って話にもウケたww)
フランス映画はやっぱり凄いね。人生には苦味があればあるほど、その豊かさが分かる。
2011/06/16 | :ドキュメンタリー・実在人物 ジョアン・スファール, セルジュ・ゲンズブール, フランス映画
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