ブルーバレンタイン #29
’10年、アメリカ
監督・脚本:デレク・シアンフランス
脚本:ジョーイ・カーティス、カミ・デラビーン
ライアン・ゴズリング : ディーン
ミシェル・ウィリアムズ : シンディ
マイク・ヴォーゲル : ボビー
フェイス・ウラディカ : フランキー
「恋」について描いた物語なら、片思いの一方通行な純粋さこそが一番面白い、と思っている私は、『(500)日のサマー』がとても好きだ。でも、「愛」について描いた物語であるなら、その愛が泥沼にいつしか成り変わってゆき、愛が崩壊する物語にシビれてしまう。ちょうどこの作品のように。
こちらもまた、愛という幻想をお互いに抱き、自分たちの愛こそ本物だと感じたその果てに、いつしか手からスリ抜けていく物語だった。出会いのワクワクする感じと、日々の暮らしの中で、次第に絶望へと形を変えてゆく姿を描いている。素晴らしく満足度の高い、恋愛映画を久々に見たな!という感じ。この確かな手応えがとても嬉しい。
しかも、シーンごとに台詞が決まっていたわけではなく、まるでジョン・カサヴェテスのように、俳優たちの即興によって演じられていったのだという。そんな話を聞いてしまったものだから、余計に映画ファンにはグッと来るじゃない?映像技術の素晴らしさや、タイトルロール、エンドクレジットの格好良さばかりでなく、最初から最後まで無駄なシーンを一つとして感じさせない。これまた、注目すべき映画監督が一人増えたな、というこの喜び。
物語の構成は『(500)日のサマー』同様に、時間軸に沿って進まない。どこかお互いにスレ違いのある日常風景から始まる。ここの一場面を見ただけで、この二人に幸せなエンディングが迎えられないことが示されている。状況説明的ナレーションが全く必要ないまでに、心理に肉薄したカメラ。二人の顔を寄り画で映すにしろ、変わった角度だったりして、そうした辺りも面白くて目が離せない。観客には顔の筋肉の動かし方で、二人の気持ちが手に取るように読める。でもお互いにはどこか見えていない部分があるのだ。愛し合うが故に、真実の姿そのものを見ることが出来なくなるあの瞬間は、私たちも経験したことのある、あの「日常に点在する相手への小さな幻滅」。
物語は、元々内包していたお互いの問題点が次第に浮き彫りになると同時に、一番幸せだったあの時代がクローズアップされているところが、どうしようもない程切ない。出会いのシーンがあまりに美しくて胸を打つ。でもあの出会いのシーンは、男の側の目線なんだよね。より相手を愛しているのは男の方で、ロマンチックなのも男の方。女の方はより現実的で、でも彼女の方がずっと世間的に見れば立派な人間だ。男の方は、愛すべきダメ人間。でも彼の方がより子供で。子供と同じような目線で遊ぶことの出来るお父さんは、彼の方が精神的に子供であったことを示してもいるのかも。
「恋愛映画がイマイチ好きでない」と言う人の中には、相手と自分との「自我の境目」が区別がつかなくなるほどに、相手にのめり込んだ、そうした経験がない人なのではないか。などと私は考えている。相手を別の個として見ることをやめ、自分の一部として考えているが故に、相手に対する欲求も増えるし、思いやりも次第になくなっていったり。
この間、結婚してハネムーンに行ったばかりの若いカップルと飲んだ。彼らは二人とも、大学卒業するかしないかの年齢である。ほぼ1年間ゲームばかりして遊んで居たこともある、などと云う。PC好きが高じて、ネット関係の仕事についた途端に優秀さを発揮する妻は、見た目からして幼く、いかにもオタク好きしそうな萌え系ルックス。夫の方は、本当に頭が良いが故に普通の人の価値観を全く有していない、東大を辞めてしまった変わり者。途轍もない風変わりなカップルだ。
彼女からも彼からも、普段普通の人がするような、退屈な会話は全く出て来ない。奥さんの方は、旦那の朝勃ち写真を私に見せてくれたり、SMが高じて首締めプレイをした、などという初対面に全くそぐわない話が飛び出す。とても面白いのだけれど、私は全然違うことを考えていた。彼らの結婚生活は、どの位続くのだろう。彼らは、彼らの世界には誰もついて来れないぐらいの、濃密な関係性を有しているようだ。お互いが遊び道具のように、ずっと一緒に居ても退屈はしないのだろう。世界には彼らしか居ない、と思えるのだろう。一方で私たちといえば全く逆で、世間並の価値観しか有していない、慎ましやかな好ましい関係性を維持していた。彼らのその濃密さが私には羨ましく、またつっ走る若さが羨ましくも、懐かしくも感じた。彼らが長続きすれば良いが。などと、大人目線で考えている自分を発見した。
※ストーリー・・・
ディーンとシンディは、結婚7年目の夫婦。夫の仕事は芳しくないものの、妻の稼ぎもあり、娘と家族3人でつつがなく暮らしている。だが、夫婦はパートナーに対する不満を互いに抱えたまま。それを言葉にしたら今の生活が崩れると分かっているから口にしなく・・・
2011/06/10 | :ラブストーリー
関連記事
-
-
『キャロル』 女性の心理はファッションに表れる
行間こそ映像力!…と、最近思う。 物語の合間に立ち昇ってくる何か。 こ...
記事を読む
-
-
『三人の結婚』 恋愛はいつだって修羅場ゲーム
恋愛の駆け引きはゲームに見せかけて、真剣勝負。 ドワイヨンの恋愛活劇は...
記事を読む
-
-
『アタラント号』 夫婦は何かを乗り越えるべし
「映画史上の傑作」特集にて、ようやく鑑賞が叶った作品。何故見たかったか...
記事を読む
-
-
『コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って』 ロープウェイ映画の傑作
バフティヤル・フドイナザーロフの、『少年、機関車に乗る』に続いての長編...
記事を読む
-
-
『ラブバトル』 男と女はいつも泥沼
齢70歳にして、これですか〜… いやあ、フランス人はさすがだな! 私の...
記事を読む
コメント(6件)
前の記事: 見えないほどの遠くの空を #28
次の記事: ワイオタプ
とらねこさん、これご覧になったんですね。
私もすごくこの作品好きでした。
ライアン・ゴスリング贔屓というのもあるんですが、彼が選ぶ作品にはいいものが多い!と勝手に思ってます。
この役もまさにぴったり。本当に自然体な二人でしたよね。
恋の始まりの高揚。毎日の生活の中で少しずつ薄れていくもの。
恋が愛に変わって、次第にそこには愛すらもなくなってしまった、となんともせつないものです。
それにしても本当に男の人の方がよっぽどロマンチストで繊細ですよね。
女はずる賢いし、男よりも全然ずぶとい。現実的だし、立ち直りも早い。
面白いですよね。
あすかさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
今、引越しでお忙しい真っ最中では?来てくださって、ありがとうございました♪
へえー、あすかさんライアン・ゴスリング贔屓だったんですね。
本当、今後もっと注目されそうな、ノリに乗った俳優って気がします!
私も今までのフィルモグラフィー見てたら、『タイタンズを忘れない』とか
『完全犯罪クラブ』にも出てたんだ!って思いましたよ。
私はてっきり『きみ読む』で初めて見たのかと思ってたので。
ここで描かれていたシンディは、どちらかというと状況に流されがちな人だった、というタイプにも見えますよね。ただ、シンディの気持ちも分かる気はします。「せっかく才能ある人なんだから、もっと可能性のある人なはず」って、これ、誰しも言ってしまいそうな台詞じゃないですか?
いやー、私も言ったことある台詞でしたわ、あれ。言われた方はそうだよねえ、辛いよねえって。
あー、この映画を魚に呑みたいw。誰かとじっくり話したい感じですよーw
とらねこさん、久しぶりです!この作品、かなりがつんときたみたいですね。私は軽く一週間くらい精神不安定でした。そんな影響力のある作品って中々出会いませんよね?
>>この確かな手応えがとても嬉しい。
嬉しいですよね。でも、怖い気もします、、、。
あの二人、本当にいい俳優さん達ですよね。撮影前に3人で役作りようにあの家で暮らしてたって知った時はなんだか鳥肌立ちました!物語がどんどんリアルになっていく感じがしますよね。
とらねこさんが一緒に飲んだカップルの話、面白いですね。こういう作品を観ると自分だけでなく、周囲の人間にも照らし合わせてみてしまいますよね。親友が最近彼女と別れてしまったんですけど、この作品を再び観て色々考えさせられたり、違う視点で観れたと言ってました。
映画って難しいもんですね。
アヤさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
本当、これガツンと来ましたね。私は一週間までは行きませんが・・2日ぐらいかな?エンドロールで心を打ち砕かれましたよ。
アヤさんはまだ20代半ばでしたよね?w・・だったらきっとボロボロになってもおかしくないですよね^^;
私の場合は、その点大丈夫そうですよ。・・きっと年を取って、鈍感になって来たんだと思いますw
アヤさんのことは、スキンヘッドの似合う素敵な彼氏さんのことを頭の中に思い描いて、二人はどんな風なんだろなー。なんて想像してみました。きっと、爽やかでタフな二人なんだろうなあ。なんて思ったりして。
3人であの家で暮らしたんですね!アクティングメソッド方式かー。私こういう逸話好きなんですw
アヤさんは最近恋人と別れたお友達がいるんですね。うわあ、そういう人とこの映画について語ったら、話題が尽きなそうですね。
いいなあ。私の映画好きの友人は、この映画は「カップル同士の喧嘩には興味ないよ」で終わってる人が居ましたよ。
この作品は日本だと、DVDでレンタルが始まってから、DVDで映画を見るタイプの人たちに普及した後に、少しづつ有名になるんじゃないかなあ、なんて思ってます。
そうそう、私の友人たちの話、今後もどうなるか見守っていこうと思いますw
とらねこさん
今更なんですが ご結婚おめでとうございます
この映画は 近々入手したいと思っておりますが取り急ぎ
タイトル書体で抜けそうですから
>旦那の朝勃ち写真を私に見せてくれたり、SMが高じて首締めプレイをした、
>彼らの結婚生活は、どの位続くのだろう。
>若さが羨ましくも、懐かしくも感じた。彼らが長続きすれば良いが。などと、大人目線で考えている自分を発見した。
最初っからガツンといってオモシロおかしープレイに走るとすぐ飽きますもんね、3年が限界でしょう、
自分は新婚当時「なんでこんな面白くもなんともない趣味嗜好の全く違うフツーのつまらない女子と結婚したんだろー」とよく思ってましたが
25年以上続けてみると、絶対その方がヨカッタと確信しながら毎週おSEXしてます。
とらねこさんも ここらでひとつ家庭内生活の実情レポート ぜひお願いします
よしはらさんへ
こちらにもありがとうございます♪
わー、この作品で結婚祝いを述べられるとちょっと複雑…^^;
>この映画は 近々入手したいと思っておりますが
おわー おっとっと。これ、先ず先に借りてご覧になった方がいいかもです!
劇薬系なんです…。さらに、この作品てとっても青臭い話なので、若い人の方が気に入ることも多いようです。うーん、どう出るでしょう。
よしはらさん宅は25周年ですか。四半世紀おめでとうございます〜。
「この人で良かったんだろうか」って思う瞬間もあれど、そんなに長い間上手く関係性を持ち続けていくことが出来るなんてすごく素晴らしいし、とっても羨ましいです。
よしはらさんの家庭内セッ○スシリーズは、もしかしてやっぱり人気シリーズなんでしょうか(^^;
私もついつい読んでしまうのがこのシリーズでww
私はそこまで面白く書く自信が無いですよー^^;;; ブログだからもっと好きなこと書くべきなんですけど、映画の感想で自分は精一杯かなあ。