歓待 #27
’10年、日本
監督・脚本・編集:深田晃司
プロデューサー:杉野希妃、深田晃司
エグゼクティブプロデューサー:松原治、足立誠、小野光輔、宮田三清、岩倉達哉
コエグゼクティブプロデューサー:榎本憲男
芸術監督:平田オリザ
撮影・照明:根岸憲一
美術:鈴木健介
音楽:やぶくみこ
山内健司 : 小林幹夫
杉野希妃 : 夏希
古舘寛治 : 加川
ブライアリー・ロング : アナベル
オノエリコ : エリコ
兵藤公美 : 小林清子
飄々とした可笑しなテイスト。下町コメディ、とでも言うのだろうか?どこか懐かしい雰囲気があるのに、今まで一度も見たことがなかったような、不思議な緩やかさのスットンキョウなお話だった。「これ、見た?」と誰かに訊きたくなるような類の作品。
実は私は、深田晃司監督の前作を、映画館で見て舞台挨拶までしっかり参加していた。『ざくろ屋敷 バルザック 人間喜劇より』。この前作は、絵画でアニメを作るという「画二メーション」という初の試みである点と、バルザックを原作にしているところがとても気になって観に行った。一緒に行った友人にもとても好評だった。すごく独特な雰囲気のある静謐な物語で、どこか自分の心の底で惹かれる作品だった。
この『ざくろ屋敷』のどこが好きだったかというと、劇場で見ている間のあの感覚と、一歩劇場を外に出て現実世界に戻った時のあの違和感、これである。このギャップを感じる辺りがとても自分好みな作品なのだ。もしかするとコイツは、いつも自分が求めているものの正体ですらあるかもしれない。
今回の作品にもまた同じことが言える。現実世界によく似たものを描いていながら、途中でまごうことなきファンタジーへと突入したような感覚になる。それをもたらしたのは、加川さんという可笑しな一人の人物である。現実と仮想世界の間に立つタッチストーン、道化のように彼は、世界の境目に立つ。彼が来たことによって世界のありようが違って見えるのだ。
加川さんのような人物造形は、想像性を持った側の人間である。あくまで現実的で凡庸な世界に生きる私たちと、対立の構造を取っているように感じる人も居るだろう。加川さんは「してやったり」と言わんばかりにほくそ笑み、つまらない世界を彼色に染めていく。この映画は、想像の世界の勝利を謳うものである。加川さんは嵐のように来て、どこともなく去っていく。私はそうしたものが見たかったし、こうやってつまらない現実を、加川さんのような笑顔で笑い飛ばすことを劇中で望みもした。彼と一緒に世界の果てで笑っていたい。彼のようにになれるならきっと私はなんでもするだろう。
※ストーリー・・・
町工場で小さな印刷屋を営む幹夫は、若い妻と前妻の娘、出戻りの妹と共に平凡な毎日を送っていた。そんな折、彼は見ず知らずの加川花太郎という男を妻の反対に耳を貸さず、住み込みで雇ってしまう。やがて遠慮のない加川の存在が小林家の輪を乱していき・・・
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コメント(3件)
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とらねこさん!
これにTB下さってうれしいわー。 私この作品すごく好きです。
加川さんの存在って不思議でしたね。 現実なのか嘘なのか。
最後の去り方もこの映画にぴったりでした。
cucuroseさん
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
roseさんはこの作品お好きでしたか。ちょっと捻りの効いた、変わった作風がいいですよね。あの飄々とした古舘寛治さんのキャラが立っているから余計、この作品のイメージに繋がるのかもしれませんよね。
古舘寛治さんは、この後見た『マイ・バック・ページ』にも出てきて、「おお、加川さん!」と思わず懐かしくなりましたw。深田晃司監督の『東京人間喜劇』でも、怪しい人物を演じていました。