ウッドストックがやってくる! #25
’09年、アメリカ
原題:Taking Woodstock
監督:アン・リー
原作:エリオット・タイバー、トム・モンテ
脚本:ジェームズ・シェイマス
撮影:エリック・ゴーティエ
音楽:ダニー・エルフマン
編集:ティム・スクワイアズ
ディミトリ・マーティン : エリオット
エミール・ハーシュ : ビリー
リーヴ・シュライヴァー : ビルマ
ヘンリー・グッドマン : 父ジェイク
イメルダ・スタウントン : 母ソニア
ジョナサン・グロフ : マイケル・ラング
メイミー・ガマー : マイケル・ラングのアシスタント
ダン・フォグラー : 地球の光主催者、デヴォン
ユージン・レヴィ : 牧場主マックス・ヤスガー
’69年に行われたウッドストック。音楽の祭典としてこれ以上に重要なものはかつてなかったし、今後もこれを超えられそうにない。この「ウッドストック」という言葉は、私にとっては夢のマジックワードでもある。そう、言葉に出しただけで思わず心の奥が熱くなるぐらいの、憧れの存在だった。
高校生の頃、同じように音楽好きの友人と話す時は、当時流行っている音楽についてよりずっと、’70年前後の音楽について話すのが好きだった。たとえば今でも、現役の大学生が90年代の音楽や映画について詳しい人がもし居たとすると、彼らは同年代の友人から尊敬を得られるかもしれない。流行を追うより本物指向であろうとする人は、いつの時代でも時代を遡っていこうとするものだから。
しかし音楽好きとしては、単に古い時代を好むという、そうした意味合いと異にする大きな理由があって、それがまさに「ウッドストック」なのだった。ここには絶望と裏返しの夢と希望があった。アメリカの自由への希求が、ベトナムに対する反戦と相まって、愛と自由とセックスとドラッグが、生まれて今まさに芽吹こうとしていた、ロックにまみれて混在していたのだ!しかも、そのロックには、ジミ・ヘンドリックスが、ジャニス・ジョプリンが、ザ・フーもスライ&ザ・ファミリー・ストーンズも、サンタナも、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルも居たのだ!憧れないわけがない。当時の友人からの手紙には、意味もなくまるで呪文のように「Woodstock Festival」と書いてあったこともあった。ジャニス・ジョプリンの話を朝まで話したりして過ごしたりもした。
ウッドストックについては今更語る必要もないだろうけれど、では実際に何という場所で行われたかについて、正確に答えられる人は少ないかもしれない。ワイト島のフェスティバルみたいに、地名と一緒になっていれば良かったのに(笑)。ウッドストックを開催するにあたって、それほどまでに広大な土地をなかなか借りることが出来ず、場所によってキックアウトされたり、いまだかつて渋滞を経験したこともなかったアメリカの片田舎で行われたために、道が整備されておらず辿り着くまでにものすごい大渋滞が起こったとか。10万人もの人が入れるような大きな会場で行われたというより、ただ柵が少しあるだけの牧場で行われたこと。チケットのシステムがまるでなってなくて、上手く潜り込めた人も実際には居たこと。フェスの間に、雨が降って牧場の土が泥だらけになったり、またLSDが大量に取引され、大勢の人がそこでドラッグにふけったこと、エトセトラ・etc…。こうしたことは、以前Cutに載っていて読んだことがあったけれど、ウッドストックの内実について読んだ時はなかなかにショックを受けたものだ。あ、ちなみにCutに載っていたのはいつだったかなあ?’69年の25年後、ちょうど四半世紀後の’94年に、再度ウッドストックが行われたことがあったけれど(「あの伝説が蘇った!」)その’94年に載った記事だったと私は記憶している。
で、映画がどうだったかというと、もう最高に良かったー!!!
あの有名すぎるウッドストックについて描くのに、音楽について描いたわけでは全然なかったんです!ウッドストックというモンスターを抱え込んだ田舎の町の青年、それに引きずられる彼の家族について描いた物語。つまり、あのフェスの内側と外側について描いて、その中身である、音楽祭や思想についてが、あのウッドストックに関する諸々の伝説が、全く出て来ないという!ここの描き分けが、もう憎いとしか言いようがない。素晴らしいですよー本当に。
それでいて、最高に素晴らしい物語になっているんですよね。大きなモンスターであるウッドストックではなく、小さな核家族の話が描かれている。田舎に暮らす一人の青年が、嵐のような出来事を通じて、大人へと成長してゆくだけの物語、なんです。
2時間まるまる使って、祭の「前」と「後」とが描かれていたのだけれど、この安堵感はすごいものがあった。主人公と気持ちを一つにして、何かが自分に嵐のように去来して、それがズザーっと引っ掻き回して、全て去って行った。この思いがアリアリと感じられるように描かれているところが、もうとにかく本当に素晴らしかったです。
リーヴ・シュライヴァーが本当に素敵。こんなに魅力的な人だったんですね。ビルマ、最高!!
あと、エミール・ハーシュ!なんだか全然イメージが違うので、終わった後に気づいて愕然としてしまった。うーん、やっぱりこの人、素晴らしい才能の持ち主みたい。
それから、まさかのポール・ダノ!出てくるとは全く知らなかったので、思わぬ喜びで嬉しくなった。
あっそうそう、主人公のエリオットが泥遊びをして、モナコ・モーテルに帰って来た時にビルマと話すシーン、ここで、ジャニス・ジョプリンが歌っていたでしょう。遠くから微かにジャニスの声が聞こえるんだよね。まあ、でもジャニスファンには絶対分かるという。フフン、なかなかの演出。
※ストーリー・・・
’69年の夏、音楽が大好きな青年のエリオットは、ウッドストック・フェスティバルを地元へ招こうと奔走し、見事誘致に成功。準備は瞬く間に進むが、ヒッピーに町を荒されることを恐れた住民たちによる反発や、マスコミへの対応など、エリオットは多忙を極め・・・
2011/05/28 | :ドキュメンタリー・実在人物
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コメント(3件)
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音楽に身をおいたことがある、とらねこさんならではのレビュー楽しく読ませて頂きました。
アン・リー監督は、この作品では男、女というよりは人間を描いていたように感じました。
ロックフェスを通して、いろいろな関係線が観える映画です。
・・・ところで2回目は、今週末でいいのかな?
朱色会さんへ
こんばんは〜♪こちらでは初めまして!・・・ですよね?
コメントありがとうございました!
実は私、音楽映画が大好きだったりしますー。と言っても、クラシックやジャズは全然分からないのですが。でも好き♪
この作品は、とても私の好きな時代で、身を入れて見てしまいました。
そうですね、男女関係なく描いていましたね。そういう考えからもフリーになった時代なんですものね。
今週末もまたやりましょう!