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ノルウェイの森 #23

2010、日本
監督・脚本:トラン・アン・ユン
原作:村上春樹
プロデューサー:小川真司
エグゼクティブ・プロデューサー:豊島雅郎、亀山千広
撮影:リー・ピンビン
音楽:ジョニー・グリーンウッド
主題歌:ザ・ビートルズ

 

松山ケンイチ : ワタナベ
菊地凛子   : 直子
水原希子   : 小林緑
キズキ    : 高良健吾
永沢     : 玉山鉄二
レイコ    : 霧島れいか

 

トラン・アン・ユンの『ノルウェイの森』は、まるで村上春樹の文章のような世界の構築の様式をしていた。丁寧により分けられ、ふるいにかけられた言葉たち。それらは現実味がない、と思われることもある。物事のありようを彼の言葉で捉え直すことは、この映画でトラン・アン・ユンが(もしくはリー・ピンビンのカメラによって)フレームに収めることと何だか似ていた。

ハルキ世界の人物たちのダイアローグが、実際に映像と音で発されると、トンチンカンな響きをもっていた。現実の重みを排除した表象が、初めてこの世で響いたかのように。それが見ているものをとてつもなく落ち着かない気持ちにさせる。だが、そこがいい。この感覚は留保無く新しい。私にはとても衝撃だった。映像の美しさとフレームの確かさに心を打たれながら、思いもかけないほど座りの悪いこの感覚は何なのだ。しかしハッとするのは、それこそが村上文学の真骨頂であることだった。美学により発せられた、ハルキ・ワールド・ワンダーランド。

何より、『ノルウェイの森』を読んだ時のあの感じがみずみずしく蘇って、忘れていた泉に水がもう一度湧き上がるような思いがする。こういうからと言って、私がこの作品の大ファンだったわけでもない。あのスカした感じはなんなのよ、と心のどこかで反発する思いがあった。そんなものまでしっかりとあの映画が思い出させてくれた。しかし今こうして見ると、主人公が森を彷徨うとき、深く精神が傷つき当てどもなく打ちひしがれているとき、自分の苦しみがそこに描かれているのを見ることが出来た。より深く森の中に入り込むことができた。当時には若すぎて理解出来なかったあの主人公の抱えていた物事の重さ、葛藤や苦しみを感じることが出来た。こうした共有を得られたひとには、この作品は文句ない佳作だ。

唯一いただけない部分があるとすれば、ビートルズ『ノルウェイジャン・ウッド』の演奏が恐ろしく下手なところで、あれには思わず怒り狂うところだった。ビートルズのファンでない自分ですらこう思うのだが、あの曲を聴いたことのない人にも(そんな人が居るとは思えないが)その思いは分かってもらえそうなほどだ。付け加えるなら、ラスト間近のレイコさんとのセックスシーンの唐突さも。そうした欠点を抜かせば、とてつもなく素晴らしい作品だった。トラン・アン・ユンをこれまで見ていた人で、この作品だけ文句言う人はおそらく居ないだろう、ということだけはハッキリしている。

ストーリー・・・ドイツ行きの機内で“ノルウェイの森“を耳にしたワタナベは18年前に恋に落ちた直子のことを思い出す。直子は親友キズキの恋人であったが、キズキはある日突然自殺をしてしまう。ワタナベは誰も自分を知る者がいないところで生活を始めようと、東京に出るが……

ノルウェイの森@ぴあ映画生活

 

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コメント(10件)

  1. 私も小説を当時読んだクチですが、
    映画を見ることで、再解釈できそうで、とても嬉しかったです。
    あのみずみずしさを余すところなく再現してくれたことは本当に素敵。

    >ラスト間近のレイコさんとのセックスシーンの唐突さも。
    ですよねえ。 原作未読の方にとっては、理解不能なシーンだと思います。
    なんでそこで!? って思ったらもったいないシーンですのにね。
    尺の関係もあるんでしょうけど。。

  2. rose_chocolateさんへ

    こんばんは〜♪こちらにもコメントありがとうございました!
    roseさんも小説読まれてましたか!あれはブームになりましたよね。
    私の場合はちなみに、学校の指定図書で読んだんですよw

    おっしゃる通り!私にとっても映画の再解釈、という面がありました。
    たとえば、世間や大学で学生紛争やら浅間山荘事件のような出来事が起こる一方、主人公は逆に世間の風潮から背を向け、あくまでも個人としての道を行くところとか。

    レイコさんとのセックスシーンは、確かに原作読んでない人には意味不明ですよね。まあでも、原作を読んだ人は何かと映画に「あれが足りない、これが足りない」と言いたくなるのは、よくあることですからw
    説明的でなく、映画的であろうというスタンスが、トラン・アン・ユン的だなあ、と。

  3. とらねこさん、こんにちは。
    これすごく気になってたんですよ!
    とらねこさんはなかなか気に入られた様子ですね。
    私も原作は幾度か読んでいるので、どうなんだろうと思いつつ
    評価は結構ぱっくりと分かれている感じですよね。

    日本に帰ったら見たい一本です!

  4. あすかさんへ

    おはようございます!コメントありがとうございました。
    そうなんですよ、評価がすごく分かれてるんですけど、私結構気に入ってしまいました。
    原作を読んだ人より、トラン・アン・ユンを好きな人にオススメかもしれませんけど(笑)
    日本語の妙な響きさえクリア出来れば(笑)
    見終わったすぐ後より、ジワジワ来る余韻の方を愛しちゃってます。




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